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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

火力戦闘車/装輪155mm榴弾砲試作車が納入(考察2)特科火砲三〇〇門時代の新型火砲

2019-01-07 20:08:03 | 先端軍事テクノロジー
■FH-70榴弾砲479門の後継
 75式自走榴弾砲、99式自走榴弾砲、続く新自走榴弾砲の完成となるか、評価試験次第は試製56式自走榴弾砲に続く、という火力戦闘車について、昨年掲載の前回とは転じた視点から考えてみましょう。

 当初構想されたものは防衛装備庁が技術研究本部時代に開発した先進計量砲をそのまま車載する、というものでした。駐鋤で反動を吸収すれば国産の日野のトラックでよい、中砲牽引車と整備性も共通化でき、という考えであったようです。車体が大きくなり、目立ちますが、その分車体が自走できるならば陣地変換を迅速化できる、という視点での自走砲です。

 先進軽量砲を日野のトラックに、しかし、日野自動車は155mm榴弾砲射撃時の瞬間的に掛かる負荷と車体懸架装置強度を計算し、日野自動車には火砲を搭載し射撃する前提の強度冗長性を有するトラックはなく、既存車両では軽自走榴弾砲への転用は不可能、こう伝えたとされます。実際、155mm榴弾砲のフル装薬射撃、派米訓練では物凄い発砲焔が出る。

 富士総合火力演習では大きな反動は見えませんがあれは距離3kmでの射撃、52口径のフル装薬では、155mm砲弾を40kmから50kmと実に京都駅から大阪駅まで投射するものです、それだけ反動は大きい。無理に搭載していたらば、懸架装置を破損するか駐鋤が大型化し過ぎ試作段階で制式化見送りとなったかもしれません、が、ここで最初の頓挫となります。

 重装輪回収車、陸上自衛隊は96式装輪装甲車の回収用に導入を開始し、続いて03式中距離地対空誘導弾システム、12式地対艦ミサイルシステム、PLS装置付トラック、Pー21対空レーダ装置、と派生型を展開させていました。当初は火力戦闘車も派生に加わる予定でした。しかし、火力戦闘車試作車はMAN社製、つまりドイツ製のトラックを採用しました。

 MAN社製トラック、二階建観光バスくらいでしか国内では見ないトラック、軍用トラックとしては定評のある大手メーカーですが、自衛隊での採用実績はありません、実は部分試験車両の時点で防衛装備庁公開写真にMAN社製トラックが採用されていましたので、部分試作であるのか、全体試作もMAN社製トラックを採用するのかは、大きな関心事でした。

 火力戦闘車が重装輪回収車を採用せずMAN社製トラックを採用した背景には、道路運送車両法に基づく車両限界で、重装輪回収車を車載すると全長が12mを越えてしまい特殊大型車輌になるのが要因とも、重装輪回収車よりもMAN社製トラックの砲が安価であったためともいわれるのですが、これらは推測の域を出るものではなく、まだ詳細はわかりません。

 MAN社製トラック採用の背景、最大のものは陸上自衛隊火砲定数の縮小でしょう。現在の定数は300門、北部方面隊には40tの装軌式自走榴弾砲である99式自走榴弾砲が、これでなければ90式戦車や10式戦車に随伴できないとの理由から配備されています、量産数はすでに140門ほど、すると火力戦闘車はどれだけ多くとも150両少々しか生産されません。

 日本製鋼所がライセンス生産したFHー70榴弾砲の479門には遠く及びません、そして防衛計画の大綱が2018年内にも再改訂の方針が示されていまして、これまで1995年の1000門が900門に縮小されたのを皮切りに、自民党政権時代と民主党政権時代で一貫し火砲は削減され続けていますので、新防衛大綱でも火砲定数が更に削減される可能性もあります。

 方面特科連隊、陸上自衛隊は現在、本州の師団特科連隊と旅団特科隊を全廃し方面特科連隊へ移行する改編を推進中です。具体的には九州沖縄の防衛警備を担う西部方面隊は元々師団特科連隊として第4特科連隊と第8特科連隊に合計8個特科大隊を配置し、また方面隊直轄火力として方面特科隊が置かれ203mm自走榴弾砲やMLRSを装備していました。

 300門への特科火砲削減、この影響は大きく西部方面特科連隊改編により3個大隊、30門にまで激減しています。改編前には第8師団の第8特科連隊がFH-70榴弾砲だけで2017年までは60門装備されていたのです、それが方面隊全体で、つまり九州全域と南西諸島を担当する方面隊で30門、この状況で二種類の火砲採用には工夫が必要だったのでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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