北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北朝鮮火星12号弾道弾発射-4600km飛翔!早朝日本列島響き渡るJアラート,青森県上空通過し太平洋上に落下

2022-10-04 20:22:24 | 防衛・安全保障
■ミサイル防衛欠缺狙う事態
 朝の通勤時間帯に突如の空襲警報という事態に驚かれた方も多いのではないか。本日はチェコとポーランドのF-35導入の話題を掲載する予定でしたが急遽ミサイル防衛の話題です。

 北朝鮮は本日日本時間0720時過ぎ、弾道ミサイル一発を日本海と日本列島の方面へ向け発射しました。このミサイルは防衛省によれば最高到達高度1000kmで日本列島の青森県上空を0728時から0729時頃に掛けて通過し、その後に日本時間0744時頃に発射地点から4600km先の太平洋、三陸沖3200kmの我が国EEZ排他的経済水域外に落下しています。

 火星12型弾道ミサイルと推測される今回のミサイル実験は、IRBM中距離弾道弾の射程となっていますが、韓国国防省などは北朝鮮が引き続きICBM大陸間弾道弾の実験や核実験の強行に踏み切る可能性があるとして警戒を強めています。なお、今回の飛翔距離4600kmは北朝鮮が過去に実施した弾道ミサイル実験と比較しましても、最長の飛翔距離でした。

 マッハ17、今回の火星17型弾道ミサイルと推測されるミサイルは、韓国合同参謀本部の発表によれば最高速度はマッハ17に達したとのことで、射程が長い分だけ落下速度も速く、ミサイル防衛など今後の課題を残した形です。なお、防衛省では我が国への落下の危険性がなかったとして今回も、迎撃ミサイルなどによる破壊措置は実施していません。

 Jアラートが発令され、当初は青森県と小笠原諸島など東京都島嶼部にミサイル落下の警報が発令、地下などの頑丈な施設に待避するよう呼びかけられました。小笠原諸島に発令されたのは、推測ですが、青森県上空を飛翔し着弾の危険性があったこと、青森県に発令されたのは切り離したミサイルの上昇用ブースターが落下する危険があったと考えられます。

 Jアラートは東京都島嶼部への発令が解除され、代えて青森県に加えて北海道が対象となりました、これは予想以上に弾道ミサイルが上昇したために切り離したブースターの飛散範囲が増大する懸念があったと推測するのですが、幸いにして地上や船舶及び航空機へのミサイルによる被害はありませんでした。ただ、学校行事の中止や鉄道ダイヤなどは乱れた。

 Nネットなどのミサイル警戒情報に加え、NHKなどすべてのテレビ網を通じて一斉に警報を発令、こういうのも弾道ミサイルの日本上空通過は2017年以来の事例であり、1998年のテポドン1号の日本上空通過以降でも特異な事例となっています。ただ、Jアラートによる早期探知と警報システムはかなり迅速に機能し、そして発令された、という印象ですね。

 青森県上空を通過した弾道ミサイル、警戒した点はこれが実戦なのか実験なのか、一文字しか違いませんが絶対に前者でないといいきれない点でしょうか。Jアラートが発令され鉄道など公共交通機関が一斉に運行停止されたことで驚かれた方は多いでしょうし行き過ぎではないか、こう思われた方もいるかもしれません、ただ理由がある、それも深刻なもの。

 高高度核爆発、今回の北朝鮮ミサイルが実験であったのか実戦であったのか、実験であったとわかったのは爆発せずにそのまま太平洋上へ飛去ったためです。そして仮に実戦であるならば、少なくとも北朝鮮は核兵器を実験専用の科学的産物ではなく、抑止力として用いるという軍事的なものであると発言はしています、すると可能性が出ます、攻撃という。

 核攻撃に際しては地上の防空システムや通信網を破壊するために、まず最初に高高度核爆発を引き起こし、EMP核電磁パルスにより防護されていない電子機器や電波通信などによる社会システムを一旦破壊し、混乱させ防空能力を低下させた上で、主目標である軍事基地や、政経中枢地域への核攻撃を行います、すると今回の軌道がその軌道と重なるのです。

 EMP核電磁パルスは電線はもちろんあらゆるコイル状のものから電子機器に侵入し過電流を半導体に流すことで焼き切るものです。これは雷サージ対策のようなマイクロ秒単位で過電流を遮断する防護装置にたいしてEMPはピコ秒単位で侵入するために防護が成り立たず、携帯電話やコンピュータ、半導体を用いる自動車や機械を過電流により破壊する。

 対策として電子機器ではEMPの進入経路となる蓋などの部分に電波吸着材などを張り付け、回路そのものを金属皮膜で覆う、銅線ではなく光ファイヴァーを用いるなどの施策はあるのですが、1980年代、核戦争がある程度発生すると想定された時代には社会基盤の重要インフラでの防護の取り組みがありましたが、その後は効率優先にて無視されています。

 Jアラートでの警戒を促すのは、仮に高高度核爆発などが発生した場合は、その次の警戒情報を受信する前にテレビとスマートフォンなどはEMPにより破壊されます、そしてEMPはお手持ちの電子機器を破壊することが目的ではなく、その次に行う核攻撃への準備段階を示す。だからこそ、その本番の核攻撃の前に避難を呼びかけるのが目的といえましょう。

 ミサイル防衛については、課題が残りました。もともと日本では2018年に陸上配備型イージスミサイル防衛システムイージスアショアを秋田県と山口県に建設する方針で、2025年には運用開始となる計画でしたが、迎撃に発射したミサイルから切り離されたブースターが敷地外に落下する可能性から2020年に計画そのものが両県ともに中止されています。

 ミサイル防衛にはイージス艦、こういう認識ですが、海上自衛隊のイージス艦は、こんごう型4隻、あたご型2隻、まや型2隻の8隻体制、しかしこれらはミサイル護衛艦であり、艦隊防空用の艦艇ですので24時間の防空は可能でも365日の常時遊弋を想定したものではありません。来年度概算要求でようやくミサイル防衛専用艦が事項要求される事となった。

 核は抑止力というが、使う前提を誇示してこそ。ミサイル防衛専用艦は長期間の洋上警戒を念頭として船体を大型化させる方針が示されていますが、これも来年度予算に計上されたとして防衛計画から設計を経て実際に建造されるまでは2025年以降となるでしょう。日本は当面、北朝鮮からの核攻撃という現実の脅威に、向き合ってゆかなければなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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カマンダグ多国間演習自衛隊初参加,フィリピン主催多国間沿岸防備演習へ水陸機動団始め日米韓両用戦部隊集結

2022-10-04 07:00:14 | 国際・政治
■多忙極める水陸機動団
 広報等で看板部隊というものが必要な点は理解するのですが実動演習などで特定の部隊に負担が集中しますと、勤務体制など大丈夫かと不安になることが。

 フィリピンでのカマンダグ多国間演習に自衛隊が初めて参加しました、アジア最弱と呼ばれた2010年代フィリピン軍は、国内の武装勢力対処で培った戦闘経験を持つ要員を中心に自走砲や軽戦車に水上戦闘艦と軽戦闘機の導入など大車輪で近代化を進め、今回の演習は2016年よりアメリカとの演習として開始、今回は水陸機動団と韓国海兵隊が参加しました。

 水陸機動団は精鋭ぞろいだ、この事は疑いないのですが、アメリカ本土で行うアイアンフィスト演習を筆頭に、昨今水陸機動団は親善広報部隊か国際交流部隊か、というほどに様々な任務へ投入されており、第3水陸機動連隊の創設を前に過剰勤務となっているのではないか、即ち一部の即応部隊に任務が過剰集中しているのではないか、と危惧するのです。

 カマンダグ多国間演習は沿岸防備を任務とする演習であり、フィリピン軍はインドからブラモス地対艦ミサイルの導入計画を進めている最中だということもあり、中国軍事脅威の増大を受け沿岸防備戦力の近代化、というよりも一からの構築を急いでいる状況ですが、日本から派遣したのは水陸機動団、しかし地対艦ミサイル連隊等を派遣しても良かった。

 精鋭部隊への負担の集中は、1990年代までは第1空挺団に2000年代に中央即応連隊に、いわば看板部隊やアイドル部隊というような形で任務が集中していました、ただ、これでは他の部隊が経験を積む事も出来ません。対照的に、アメリカ軍などは日米合同演習に敢えて州兵部隊を参加させ、予備役扱いに近い州兵部隊へ経験を積ませた実例もあるのです。

 即応機動連隊などは、考えてみれば現在の各国陸軍装備を見ますと、アメリカ陸軍の最も軽量部隊である歩兵旅団戦闘団でもハンヴィーの後継に軽装甲車であるJLTVを、火砲もM-119榴弾砲の後継にM-777やブルータス簡易自走榴弾砲を検討、TOW搭載ハンヴィーの後継35t車体へ105mm砲を搭載するグリフィン軽戦車への置き換えが始まる状況に。

 歩兵旅団戦闘団と比較した場合に即応機動連隊、自衛隊では比較的重装備と考えられる部隊と比較しても、それ程見栄えする装備ではない、という事を気付かされるでしょう。逆に様々な部隊、地域配備師団の普通科連隊でも即応機動旅団の普通科連隊でも、こうした訓練に参加させる事が、一部の精鋭部隊から精鋭の自衛隊へ昇華する、要諦となるよう思うのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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