北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】カナダクイーンストン級補給艦とスペイン海軍F-110型フリゲイト,中国AG600飛行艇とサンアントニオ級ドック型揚陸艦

2022-10-31 20:02:49 | インポート
週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は海軍関係の10の話題を集めましたが苦労している話と古いものを使い続ける工夫や最新鋭の計画など。

 カナダ海軍の補給艦クイーンストン級2隻の艤装が大幅に遅れています、クイーンストン級補給艦は2隻が2021年と2022年に就役する計画でしたが、COVID-19感染拡大により造船所の操業や部品供給面での問題に直面しており、一番艦竣工は早くとも2025年まで、二番艦竣工も2027年以降まで遅れる事となり、繋ぎとなる艦の延命が必要となります。

 カナダ海軍は暫定案としてアステリックスを導入、これは和えに運用していたプロテクター級の老朽化が深刻であった為の措置でした、元々はギリシャ国内の海運会社が運行するリベリア船籍の貨物船として2009年にドイツのウィスマー造船所にて建造されていましたが、2015年にカナダ海軍が取得し補給艦へ改造し2018年から補給艦として運用中です。

 クイーンストン級の建造遅れは、しかしカナダ統合軍の戦力投射能力に課題を突き付ける事となります、それはクイーンストン級は補給艦に留まらず統合補給艦という位置づけにあり、限定的な揚陸艦としての機能を有しています、カナダ軍には揚陸艦は無く統合補給艦は海外派遣部隊の支援や物資輸送能力と病院船など、この任務を担う期待が在りました。
フリゲイトテ-マナ
 第二北大路機関に掲載して後大分と時間が開いてしまいましたが。

 ニュージーランド海軍のフリゲイトテ-マナはカナダでの改修を終えて3年ぶりに帰国したとのこと。テ-マナはニュージーランド海軍がオーストラリア海軍と共に量産したアンザック級フリゲイトで、もともとは対艦ミサイルを搭載し水上戦闘や対潜戦闘にも対応する哨戒フリゲイトという設計となっていますが、運用長期化を受け延命が開始されています。

 テ-マナの改修はロッキードマーティンカナダが実施し、オーストラリア海軍のアンザック級程の大きな改修ではありませんが、戦闘情報システムの更新にレーダーの改良と個艦防空システムの刷新、対電子装置の更新とともに対艦ミサイルや魚雷に対する回避装置を追加した。7月8日の帰国行事にはニュージーランドのヘナーレ国防大臣も駆けつけました。
オーストラリアNSM選定
 コングスベルク社製NSM対艦ミサイルは各国のハープーンミサイル後継という位置づけに定着しつつありますが、その射程は長く中国の長距離対艦ミサイルに対抗出来ます。

 オーストラリア海軍はノルウェーのコングスベルク社製NSM対艦ミサイル導入に関する契約を結びました、オーストラリア海軍ではイージスシステムを搭載したホバート級ミサイル駆逐艦とアンザック級フリゲイトに対艦ミサイルとしてハープーンミサイルを採用していますが、この後継として射程の大きなNSMミサイルを搭載することとしています。

 NSM対艦ミサイルはハープーンミサイルよりも射程が大きく、アメリカ海軍でも採用が開始されています、オーストラリアは4月にNSMミサイルを次期艦対艦ミサイルとしてNSMの採用を決定しましたが、7月に入り正式契約に至った構図です。アンザック級は現在近代化改修が行われていますが、NSMミサイルの搭載で更なる能力強化を期するのでしょう。
シェル級ミサイル艇
 ミサイル艇の写真は自衛隊のものしかありませんがシェル級ミサイル艇は特徴的な外見で知られる。

 ノルウェー海軍はシェル級ミサイル艇の能力向上改修を決定しました。シェル級は満載排水量260t、複合船方式でミサイル艇としては例外的なエアクッション艇構造を採用しており、その最高速力は60ノットに達しています。武装は76mm艦砲とNSM対艦ミサイル及びミストラルSIMBAD簡易防空システムやRWS機銃で乗員は20名となっている。

 シェル級の能力向上改修は、戦闘情報システムをイージスシステム搭載のフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイト並に向上することといい、改修はノルウェーのコングスベルク社が行う計画、データリンクシステムも刷新されるとのこと。満載排水量260tの小型艦ですが、ノルウェーではコルベットとして運用しており、重要な戦力という位置づけです。
アトランティック2哨戒機
 アトランティック2哨戒機は自衛隊のP-3C哨戒機とほぼ同世代の航空機で双発機です。

 フランス海軍は7月13日、ランビウエ海軍航空基地にてサベナテクニクス社よりアトランティック2哨戒機2機の近代化改修機を受領しました、これはスタンダード6という能力向上型で、フランス海軍は2024年までに18機を能力向上し運用を継続することとなっています、なおサベナテクニクス社はダッソーアビエーション社の下請け企業のひとつ。

 スタンダード6能力向上の概要は、新型のタレス社製AESAレーダーの搭載、そしてソノブイ情報をより早く処理し潜水艦を捕捉する新型のタレス社製情報処理システム、ダッソーアビエーション社製の新型コンソールの搭載、操縦士用のSIAé戦術コンソールの追加、ウェスキャン社製MX-20複合電子光学装置の搭載など広範な能力向上がおこなわれました。

 アトランティック哨戒機はNATOが1950年代にアメリカ製P2Vネプチューン哨戒機を置換える機種として開発したもので1961年に初飛行、フランスと西ドイツにオランダとイタリア等が採用しています、これをもとに1970年代から開発が開始されたのが改良型のアトランティック2で1981年に初飛行を迎えましたが、採用したのはフランス海軍のみです。
次期フリゲイトF-110型
 イージスシステムを搭載した艦ですが防空艦ではなく汎用艦という位置づけ。

 スペイン海軍の次期フリゲイトF-110型はCDRクリティカルデザインビューを完了しました。CDRは船体設計の最終段階を示すもので2021年12月に開始、ナバンティア社において計画に参加するスペイン海軍とアメリカ海軍、ロッキードマーティン社やインドラ社とタレス社にインゲティムからの30回の専門家会合と2回の全体会合を行っています。

 F-100計画は既にスペインのナバンティア社にて一番艦ボニファスの船体部分が2021年4月に起工式を経て建造が開始されています。スペイン海軍ではF-110型フリゲイト5隻の導入を計画していて、一番艦ボニファスは2026年就役予定、最終艦も2032年までに就役する計画です。また、ナバンティア社ではF-110型の海外への輸出も期待しているという。

 F-110型フリゲイトはスペイン海軍最新の汎用フリゲイトで満載排水量は6170t、元々はイージス艦であるアルバロデバサン級ミサイルフリゲイトの拡大改良型として計画されるも予算難などからMk41VLSを16セルに減らし僚艦防空能力に留めた汎用艦へ変更しています、しかしレーダーにはSPY-7を搭載しイージスシステムも搭載した設計となっています。
フォートローダーデール
 写真はホイットビーアイランド級ですが夏にサンアントニオ級が舞鶴に来た際、撮影出来なかったのが心残り。

 アメリカ海軍向けに建造が進むドック型揚陸艦フォートローダーデールが七月十一日に公試を開始しました。フォートローダーデールはインガルス造船所にて建造されているサンアントニオ級ドック型揚陸艦で、後期型である為に初期型のサンアントニオ級の識別点であった特徴的な塔型マストは従来型のモノポール型マストにあらためられています。

 サンアントニオ級ドック型揚陸艦は全長208mで満載排水量25883t、乗員は380名で上陸部隊を669名、最大で770名を輸送可能、特にドック型揚陸艦としての性能を維持しつつ輸送揚陸艦に準じた貨物輸送能力、そして従来のドック型揚陸艦の課題であった車両輸送能力を大幅に強化し、また格納庫にはMV-22可動翼航空機2機を搭載する能力があります。

 極めて高性能である揚陸艦ですが、海軍と海兵隊の方針転換に揺れている揚陸艦で、アメリカ海兵隊は将来的に従来のM-1戦車等を揚陸するMEU海兵遠征群を地対艦ミサイル部隊などからなるMLR海兵沿岸連隊へ転換し、従来の揚陸艦から、LAW軽揚陸艦への転換が模索、しかし海兵隊の方針が定まらず揚陸艦の建造計画も去就が決まらないのです。
多目的飛行艇AG600
 日本のUS-2にライバルが出現したかたちですが日本ももう少しUS-2の救難以外の大きな可能性を考えるべきではないか。

 中国の新型多目的飛行艇AG600が6月7日、珠海金湾空港において初飛行に成功しました。初飛行は広東省現地時間の1055時に行われ離陸、初飛行は20分間に渡り、この間水平飛行に加え急降下などが実施されています。この新型飛行艇は洋上飛行による航空救難に加えて消防航空機としても運用され、機内には12tの消防用水を搭載可能とのこと。

 AVIC中国航空工業集団が開発したAG600多目的型は2017年に完成したAG-600試作初号機に続く二号機で、初号機には消防用装置は搭載されていません。機体は全長37mで全幅38.8m、WJ-6ターボプロップエンジン4発構造を採用しており、離陸滑走距離は1800mで水上では1500m、2.8mの波浪でも運用可能、この2.8mは外洋運用能力を意味します。

 AG600飛行艇は初号機の2017年開発以来五年ぶりの試作機完成となっていますが、機体重量は初号機の32tから41tへ大幅に増大しています。試作機の重量変更に関する背景は不明ですが、中国では南沙諸島係争地域の人工島周辺での実効支配を強化するべく飛行艇開発を重要視しており、中国本土から南沙諸島近海まで4時間で飛行可能とされています。
三番艦はチェサピーク
 コンステレーション級はアメリカ海軍では最前線でミサイルを撃ち込む独特の運用となります。

 アメリカ海軍はチェサピーク、コンステレーション級ミサイルフリゲイト3番艦を5億3700万ドルで発注しました、邦貨換算で732億円となります。チェサピークの建造はウィスコンシン州マリネットに所在するマリネットマリンコーポレーションが担当し、2028年に竣工予定となっています。コンステレーション級は沿海域戦闘艦に続く水上戦闘艦です。

 コンステレーション級ミサイルフリゲイトはイタリアのカルロベルガミーニ級フリゲイトのアメリカ海軍仕様で、満載排水量は7300t、艦砲は57mmと小さいものですが、NSM対艦ミサイルを16発と比較的多い搭載数となっており、加えてMk41VLSを32セル有するとともに、MH-60ヘリコプターの搭載も可能という、強力な水上戦闘艦となっています。

 コンステレーション級フリゲイトは、アメリカ海軍の艦艇として従来発射筒方式の艦対艦ミサイルは8発搭載を基本としていたため、16発という多数の搭載はどのような運用を想定しているのかが大きな関心を集めています、これまではミサイルが必要ならばVLSに搭載していました。また建造計画も20隻と抑え気味であり、その運用方が注目されています。
23型フリゲイトケント
 23型フリゲイトは26型が将来揃い始めた以降にどうなるのでしょう。

 イギリス海軍は7月、23型フリゲイトケントの大規模修理を完了させました。ケントは2021年の空母クイーンエリザベス戦闘群の空母クイーンエリザベス初の長期航海へ随伴艦として参加しましたが、この際にエンジン部分に緊急修理が必要な区画が発見され、イギリス帰国後にBAEシステムズによる大規模修理を受け、これが短期間で完了した構図です。

 ケントの大規模修理は23型フリゲイトの特色である発電能力の問題で、ディーゼル発電機一基を交換し、1年4カ月継続して運用していた別のディーゼル発電機を大規模調整する事となっています。なお、この修理に併せレーダーの一つを新型の997型Artisanレーダーに換装するなど能力向上も実施、大規模修理としては異例の短さで艦隊復帰が適いました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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US-2を増強せよ-2.5,飛行艇を維持するならば相応の調達と製造能力維持を,不要ならば代替装備取得を

2022-10-31 07:01:41 | 日記
■防衛産業の視点から
 今朝は頂きましたコメントへの御返事という形で補足的な話題を。

 US-2を増強せよ、この主眼は便利だから残すべき、こういう論調にもなっていますが、最も重要なのは"救難飛行艇を残すならば製造ラインが維持できる数を発注すべき"であり"製造ラインを残す数を発注しないのならば部隊を解散して別の手段で救難体制を確立しなければならない"という。現状は若干機必要、新明和の苦労は知りません、といわんばかり。

 製造ラインを維持できる数としては、毎年1機か3年間で2機で中期防あたり4機の継続的発注、中期防あたり3機では製造ラインを維持できないし、現状として部品メーカーの撤退が相次いでいる為にこのままの維持では残り若干機を製造してそのまま製造終了となり海上自衛隊から飛行艇という装備が消える。これを防衛省も認識しているはずですがね。

 対潜支援任務や情報収集などの用途を挙げましたが、救難用として外洋に発着できる飛行艇があることで本土から遙かに離れた海域で例えばP-1哨戒機などの遭難事案に対応することが目的ですので、単純に救難飛行艇に新しい用途を見いださずとも、もう一つ飛行隊を例えば那覇航空基地に新編するだけでも良いのです、調達数は増えるから最善ではある。

 OH-6観測ヘリコプターにAH-1S対戦車ヘリコプターとRF-4戦術偵察機、防衛省は後継機調達に失敗してそのまま自然死のようなかたちで形式消滅している機体が幾つもある、しかし、OH-1観測ヘリコプターにAH-64D戦闘ヘリコプターやRF-15戦術偵察機を必要数調達を計画していた以上、元々必要ではなかった航空機ではないのです、正に自然死だ。

 US-2救難飛行艇、外洋で発着できるいまのところ唯一の飛行艇で、特に自衛隊、というよりも政府が南シナ海に防衛力の関心を向ける以上、日本の洋上での航空運用は欠かせない、こうした航空部隊を運用する以上は事故に備える必要がある、事故がないことに越したことはないが福島第一原発のようにそれがあったときに打つ手なしは困る。対策は要ります。

 V-22オスプレイとKC-130空中給油機を海上自衛隊が必要数揃えるならばUS-2救難飛行艇などを置き換えることはできるかもしれません、絶対にUS-2を揃えなくとも、予算さえ気にしなければ代替装備は揃えられます、ただ、US-2はこの滅茶苦茶な調達計画でも170億円に抑えており、V-22とした場合は遠くない将来の生産終了を見越す必要が出てくる。

 部隊を維持するならば製造も維持しなければならない、製造を維持するならば製造ラインを維持できる調達を行わなければならない、考えてほしいのは逆であっては駄目だろうという事です、つまり人員がいない装備は使えないということであり、募集難の現在に防衛省はこれを認識している筈なのに、装備と人、逆転の視点でなぜ見られないのか、という。

 新明和工業は努力している、ならば防衛省もUS-2を増やす努力をすべきでがんばっている防衛産業をこれ以上苦しめる施策を続けるべきではないのです。もっとも、部隊を増やさずともかつて潜水艦を16年で退役させていたように、毎年1機調達し数年で退役させ、中古機を輸出するという選択しもあるのですが、なんとなれ防衛省も努力が必要なのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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