北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

小松-装輪装甲車(改)の再評価【4】二種類の装輪装甲車を配備してはどうかという視点

2022-10-06 20:09:47 | 先端軍事テクノロジー
■小松-装輪装甲車(改)の再評価
 NBC偵察車を見上げてみますとそのままでも充分多用途に用いる事が可能とも思うのです。

 小松-装輪装甲車(改)、この不採用となった車体についてはかなり無理を強いている印象は否めないのですが、原型となったNBC偵察車については、車体が大きい点を除けばそれ程運用している方から厳しい声は聞こえてこないのですよね。もちろん、運用特性上、16式機動戦闘車と共に攻撃の第一線を担う車輛でない故の評価ではあるのかもしれませんが。

 二種類の装輪装甲車を配備してはどうか、という提案です。もちろん、三菱の機動装甲車パトリアAMV,ピラーニャLAVは優れた装甲車です。しかし、これを全ての師団や旅団に配備できる予算が捻出できると考えるほど楽観的にはなれません、総合近代化師団や旅団、7個編成される即応機動連隊所要を満たせるかも、相当な予算面での覚悟が必要です。

 小松-装輪装甲車(改)の再評価。実際にはNBC偵察車の派生型装甲車という視点ですが、考えてみると10式戦車や16式機動戦闘車と共に突撃するには89式装甲車に伍する防御力が必要となりますので、三菱の機動装甲車や検討車輛とされるパトリアAMV,ピラーニャLAVのような防御力が必要となります。しかし、その他に手頃な硬い車両はあっていいと思う。

 二種類の装甲車に分けるのではなく、ファミリー体系を構築してできるだけ統合化するべきではないか、という反論はあるかもしれません。しかし基本となる車体を安価にまとめますと重装甲や砲塔搭載に問題が、基本だけでも頑丈なものとした場合には車体だけでも取得費用が高騰してしまい、自衛隊の現状、限られた予算では数を充分に揃えられません。

 VBCI装輪装甲戦闘車、フランス陸軍は強力な25mm機関砲塔と八輪駆動による強力な不整地突破能力を有する車輛を機甲旅団に配備していますが、この他にVBMR装輪装甲車とPVP装輪装甲車を汎用装甲車として配備しています。VBMRはジャガー偵察警戒車の車体部分を応用した耐爆装甲車型の装輪装甲車でVAB軽装甲車の後継に配備が進む新装備です。

 フランス陸軍では冷戦時代にも装軌式のAMX-10P装甲戦闘車を補完するVAB軽装甲車とVBL軽装甲車を運用していましたが、VABをVBMR,そしてVBLをPVPが置換えている構図で、全て最高の性能を付与せずとも用途によって装甲防御力や車高等の要求は異なる点に柔軟に合わせ装備体系を構築しています。車種は増えても経済的ではないでしょうか。

 VBMRなどは、特に製造上絶対の条件とされたのが“100万ユーロを超過しないこと”という単価の抑制で、要するに高性能な装甲車を開発して結局数が揃わない状況よりは、100万ユーロの枠内に抑えれば充分な数が揃えられるとした上で、その上で得られる性能の上限を求める、これがVBMRの特性でした。揃う、これは非常に重要な視点に他なりません。

 パンドゥールEVO装輪装甲車。オーストリア軍の最新装輪装甲車です。上記のフランス軍の事例を示しますと、欧州最強の陸軍に在る事例を海洋国家日本に引き合いに出されても、と反論があるかもしれませんが、永世中立国オーストリアも似た施策を執っています。パンドゥールEVO装輪装甲車は機関砲を搭載するパンドゥール2装輪装甲車の廉価版です。

 オーストリア陸軍では装甲旅団の装甲擲弾兵にASCOD/ウラン装甲戦闘車を配備し、支援用に30mm機関砲塔を搭載した八輪式のパンドゥール2装輪装甲車を装備しています。しかし支援用としては余りに高価で、六輪式で砲塔搭載能力を省いたパンドゥールEVO装輪装甲車を開発し、1979年に完成したパンドゥール1装輪装甲車の後継へ充てられました。

 82式指揮通信車、232両が生産されました。この後継車両は現段階でどうするのか、車幅の大きな16式機動戦闘車派生型やパトリアAMV、ピラーニャLAVの派生型では平時の訓練移動に支障をきたしますし、元々特科部隊の指揮通信車として開発されましたが、特科火砲は縮小されたものの、ミサイル部隊は増強の一途をたどり多数の後継車両が必要です。

 総合近代化師団総合近代化旅団の普通科連隊所要装甲車、強力な装甲防御力を備えた総合近代化部隊は全ての普通科連隊の一部中隊を装甲化していましたが、この一段下の即応部隊に位置付けられた即応機動連隊新編に併せて、装輪装甲車を抽出され続け、地域配備師団の普通科連隊並に弱体化しました、こちらも200両程度は配備されなければなりません。

 装甲救急車、指揮通信車、自走ミサイル発射装置、既存の車両でも装甲化されていなければ、実際のところ有事の際に貴重な人命を危険にさらす装備品は数多くあります、旧帝国陸軍ではないのですから人命は大事にせねばなりません。これらを踏まえた上で、改めて、“小松-装輪装甲車(改)の再評価”という命題に臨むべきではないか、こう考えるのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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核攻撃時ARS急性放射線症候群治療薬備蓄の必要性-北朝鮮核開発とウクライナでのロシア軍戦術核使用懸念

2022-10-06 07:00:42 | 国際・政治
■臨時情報-核防護
 日本は核軍縮機運が先進国の中では最も高い国民世論がありつつ、核の脅威への核兵器に寄らない平和的な備えは全く欠如していると懸念します。

 ARS急性放射線症候群、北朝鮮による核実験の懸念とともにロシア軍がウクライナにおいて戦術核兵器の使用示唆ともとおれる発言を繰り返している中で、日本でも将来の本土核攻撃という最悪の事態を考慮する必要はでているのかもしれません。そして放射線は一度浴びたら手遅れ、という時代でもないといえます、ARS治療薬の開発は始まっています。

 クリーブランドバイオラブ社とヒューマネティクスコーポレーション社は2018年、当時のトランプ政権時代にアメリカ政府との間でARS治療薬にかんする1300万ドルの資金を提示されています。そしてもう少し前、1980代には外部被曝によるARSへのある程度有効性を持つ治療薬がアムジェン社により開発、オバマ政権時代に国家備蓄を強化している。

 ニューポジェンというアムジェン社のARS治療薬はARSによる白血球減少をある程度まで抑える効果があり、2013年にオバマ政権は1億5700万ドルを投じてその備蓄強化を行いました、2013年といえば北朝鮮核開発の進展もさることながら、2011年福島第一原発事故による放射性降下物の拡大という記憶がまだ新しい頃の施策です。トランプ政権時代は。

 トランプ政権時代にはニューポジェンが白血球の放射性被曝による急減を抑える程度であったのに対して、赤血球と血小板の急減を抑える、しかも経口薬の開発が進められていました、この試験薬はPLX-18といい、被曝前に摂取する必要はありますが、放射性降下物地域でシェルターから出る際や、救助活動に当たる部隊や医師へ投与する事が可能です。

 ヘママックスという、被曝後にARSの症状を緩和する治療薬はニューメディシンズ社により開発されています。もちろん、被曝限度がありますので、これを服用するならば水爆によるグランドゼロでも安心という訳では決してないのですが、ある程度は有用、日本は国家としてこうした被曝対処の薬品備蓄をもう少し大々的に進めるべきではないでしょうか。

 薬事行政としても、単に日本国内での独占禁止法ばかり考え、世界規模の製薬会社と比較しますと中小企業レベルの群雄割拠状態を放置するばかりではなく、もう少しこうした先進的な薬品開発を主導する必要はないのか。これはCOVID-19新型コロナウィルス対策ワクチン開発で後手をとった事と何か重なるのですが、脅威と対処法がある以上、備えるべきと考えます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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