北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

US-2を増強せよ!【1】対潜飛行艇から救難飛行艇へ-世界最高性能飛行艇の秘めたる能力と生産終了の危機

2022-10-13 20:22:29 | 先端軍事テクノロジー
■飛行艇と防衛産業を考える
 今回から数回に分けてUS-2救難飛行艇と飛行艇技術について考えてみたいと思います。

 海上自衛隊が運用するUS-2救難飛行艇は外洋に発着できる飛行艇として世界最高性能を維持しています。その短距離発着性能と3mまでの波浪下で発着できる性能はロシアや中国、カナダなど他の国が開発する飛行艇の性能の追随を許しません。しかしこのUS-2,自衛隊としては必要な航空機と認識しているのでしょうが、製造そのものは危機的な状況という。

 新明和工業の生産ラインを維持できる製造水準ではなく、要するに発注が無いまま工場を維持する事は民間企業にはできません。その継続が危機的状況に陥っています。消波装置などの生産下請け企業は撤退を表明、新明和工業は当面の分の先行発注を、これは自腹である、事前に確保する方式で実施しましたが、この在庫がつきれば事実上、製造終了だ。

 いまのUS-2は部品が無ければ製造不能となります。世界の企業へ規格を示して代替部品を特注で製造することはできなくはないもので、BAEなどに下請けを養成するならば協力企業から調達は不可能ではないのでしょうが、なにしろ同じ形状で同じ材質のものを製造したとして品質管理や検査などは簡単ではなく、結局非常に高くつく可能性があるのです。

 飛行艇、ただ忘れてはならないのは海洋国家日本、広大な海洋を防衛警備の最前線として受け持つ日本にとって、外洋に発着できる飛行艇は絶対必要です。特に小笠原諸島とマリアナ諸島の中間に広がる海洋や南側などは周辺に航空救難機が発着できる基地施設適地がなく、飛行艇の重要性は否応無く高いものとなります。この高い技術を手放すのは惜しい。

 AG-800飛行艇を開発した中国、まだ離発着距離がUS-2の六倍程度と、これは高い波浪のさなかに発着水できる海域が滑走距離の長さにより左右されますので、実用性ではUS-2は、なにしろ第二次世界大戦中の大型飛行艇以来の技術の継承、ばかにできないというものを実感する程度の優位性はあります、が今後は猛烈なキャッチアップが進むことでしょう。

 製造を維持する為の努力をすべきだ、もちろん飛行艇が無くとも複数の航空母艦を常時遊弋させるとか、太平洋の中央部に複数のメガフロートのような洋上浮体構造物を展開させ救難ヘリコプターの拠点とする等の代替案はあります、飛行艇が実用化される前は高速船を救難用に用いていました、しかし、太平洋の広さを考えれば何れも非常に非効率なのだ。

 世界最高性能の飛行艇、そして用途は実のところ広く、この技術を持っているかいないかで、戦場におけるゲームチェンジャーと成り得る可能性を秘めているのです。防衛用として考えた場合、US-2はもともとPS-1対潜哨戒飛行艇の発展型であるUS-1からUS-1Aを経て開発された飛行艇です、すると、用途としてはもう少し幅広いものが考えられる。

 もちろん、PS-1の運用を二番煎じで踏襲しろというつもりはありません、こういうのもPS-1は幾つかの技術先行が運用研究を追い越したための実用性の低さというものがありました、PS-1はソナーを搭載し、様々な海域へ着水を繰り返し音響情報を得るというもので、これは航空機搭載のソナーの方がこの他の対潜センサーよりも高性能という認識が在った。

 航空機から散布するソノブイ、ソナーを搭載したブイよりも高性能であろうという認識を、航空機に搭載したソナーであるHSS-2対潜ヘリコプターの運用実績から得ていたためです。しかしソノブイの比較対象がP-2対潜哨戒機の搭載する装備であり、それよりも高性能のそのぶいによる情報取集手段があるという認識が欠けていたのは片手落ちといえました。

 ソノブイ、広範囲にソノブイを展開させ強力な機上コンピュータによりわずかな音響情報を複数のソノブイから情報処理するというP-3C哨戒機の出現が、一カ所の音響情報しか得られない飛行艇の対潜能力を上回ることとなりました。また、ソナーは飛行艇に搭載する場合、少し考えれば分かりそうな重大な問題点を一つ失念していた事は否定できません。

 ヘリコプターから展開させる場合はヘリコプターがホバーリングすることによりソナーの位置を一定とすることができますが、飛行艇の場合は波浪に乗ってしまいソナーの水深を一定とできない、ソナーのトランデューサ部分の位置が安定しない欠点が。この部分はスタビライザーを開発する事も考えられたのでしょうが、数mの波浪、技術的に難しかった。

 更に高い発着水能力を持つ飛行艇とはいえ太平洋では発着できない海面状況がたびたび発生し、救難飛行と異なり、一瞬の凪までまつことが難しい対潜戦闘、そして自由自在に発着できるとはいえ、やはりその発着は煩雑であり一度の任務で何度も発着することは難しいという点、加えて波浪の高さを正確に観測する技術が無く乗員の経験で判断しますが。

 着水ののちに音響情報を収集する時間で離水不能な波浪となり数時間以上様子見を強いられるなど、実は若干使い勝手が難しかった、という実状がありました。これらを踏まえますと、一回着水して離水するまで制約が大きく、そしてトランデューサを安定させられないという課題が解決出来ず、気象条件にかなり左右されるという問題は致命的なのでした。

 ただ、着水できる能力は対潜戦闘ではなく救難飛行ならばそれほど問題はない、としてUS-1救難飛行艇が開発、八戸沖1600kmの海域に墜落したF-16戦闘機の操縦士救助など、飛行艇でなければ不可能であろうという距離の任務を成し遂げています。こうして飛行艇は対潜用から救難用へ転換する事で、今日まで維持されているのですが、産業的に問題は多い。

 これで一件落着かといいますと、全く別の問題が発生します、対潜飛行艇は少なくとも20機を稼働体制におく必要がある、こう考えられていました。なにしろ上記の任務をみる場合には数が必要だ、しかし、飛行艇は一任務に一機あれば充分、ということになります、予備機が同行することもあるのですが、製造ラインを維持するには不十分だったのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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アメリカのウクライナ供与弾薬に枯渇の懸念-ジャベリン8500発供与済とGMLRS弾薬供与最大10000発が限界

2022-10-13 07:01:18 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 現状を維持するにはあらゆる装備を全て叩きつける事が唯一の選択肢というのに弾薬を節約しろというのか、"レッドストーム作戦発動"という小説でのソ連軍を前にしたNATO司令官の苦悩の台詞でしたが。

 アメリカがウクライナに大量の弾薬や各種誘導装備を供与していますが、その備蓄がそろそろ懸念すべき水準となっているのではないか、これはアメリカのCSIS国際戦略問題研究所のマークキャンシアン研究員が、ウクライナへ供与された弾薬規模とアメリカの生産能力から、米軍所要の弾薬を除いた供与用の余剰備蓄について、枯渇の懸念を示したもの。

 HIMARS用GMLRS精密誘導ロケット弾だけでアメリカが備蓄している弾薬は2万4000発から3万発程度とされまして、この内で対外供与できるものは3分の1程度、ウクライナへ供与できるロケット弾は8000発から1万発となります。対して年間のGMLRS弾薬生産能力は5000発程度といいますので、その補填には2年前後を要する事となるのです。

 ジャベリン対戦車ミサイルは緒戦の威力が大きく、我が国財務省も自衛隊にはジャベリンさえあれば戦車等は不要ではないかと報告書を公表する事となったのは記憶に新しいのですが、アメリカがウクライナに供与したジャベリンミサイルは8500発、対して精密誘導弾であるジャベリンの年間生産能力は1000発程度といい補填に10年近くを要する事になる。

 弾薬備蓄、問題は日本の防衛についてです。有事の際には米軍弾薬の緊急供与などを見込み、橋本内閣時代に日米新ガイドラインを締結しているのですが、例えば自衛隊にはGMLRSを発射可能なMLRSが91両導入され、かなり削減されましたが60両程度が維持されています、するとGMLRS弾薬だけで1万発以上の備蓄が必要である事を意味します。

 ジャベリンミサイルも財務省の太鼓判が有るとはいえ、8500発を投じて尚現状なのですから、国産の01式軽対戦車誘導弾で代替するにしても戦時備蓄というものをそうとう真剣に考え、消費できない弾薬が生じる無駄を呑むか、有事の際に足りなくなり凄惨な本土決戦の懸念を受忍するかですが、主権国家として後者は選びえない為、備蓄の必要があります。

 余剰弾薬についてもう一つの問題として、例えばウクライナ以外の情勢、日本周辺ですと沖縄県の南側などに思い浮かぶ地域がありますが、こうした地域で緊張が増大した際に、アメリカが供与する弾薬が限られてくるという問題があり、米軍が弾薬を供与不要、その事実が今後数年間に渡り地域安全保障における大きな不確定要素となるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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