北大路機関

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御嶽山噴火災害自衛隊災害派遣 火山災害と装甲車両、89式装甲戦闘車派遣の背景

2014-10-02 23:37:46 | 防災・災害派遣

◆富士学校普通科教導連隊の虎の子装備

 御嶽山噴火、89式装甲戦闘車が派遣されています。何故89式装甲戦闘車が派遣されたのでしょうか。

Img_4883  噴火災害に装甲車両が投入されるだろう、とは考えていましたが、北海道あたりから展開するのかと思いきや。73式装甲車ではなく実際に報道に登場したのはエリコン35mm機関砲を搭載した富士学校の89式装甲戦闘車、でした。

Img_6462  この点で車両を戦車と誤解されている方や、消防や警察にさらに優秀な車両がると誤解されているような方がいるようなので本日は一つ。装甲戦闘車の任務は恐らく大規模噴火時の住民救出用です。山岳救助は自衛隊よりも消防警察、と誤解されている方がいるようですが、装甲車で無ければ不可能、というのが結論です。

Img_3472  火山噴火と自衛隊装甲車は切っても切れない関係です、1989年の富良野火山災害では当時の第2戦車大隊が74式戦車に排土板を装着し待機しましたし、1991年の雲仙普賢岳火山災害では60式装甲車や73式装甲車が住民退避用に待機、2000年の北海道有珠山火山災害でも第7師団の装甲部隊が待機しました。

Img_2410  2011年の霧島新燃岳火山災害では、十分な装甲車が確保できなかったため西部方面特科隊の87式砲側弾薬車が73式装甲車に加えて派遣されています。途中から北部方面隊より装甲車が増派されていますが、西部方面隊管内には装輪装甲車ならば十分確保されていたものの、やはり装軌車両が必要だ、という事でしょう。

Fimg_6681  戦車については、富良野の火山災害などでの輸送用や障害除去用に投入されていますが、雲仙普賢岳では溶岩ドーム監視用に準備されました。最終的に偵察隊の暗視装置が用いられたのですが当初は74式戦車の赤外線投光器よりフィルターを取り外し、溶岩ドームを照らそう、というもの。溶岩ドームが崩壊した際に崩壊型火砕流が発生するため、というものでした。

Img_6297  普賢岳災害派遣では75式装甲ドーザも派遣されています。これは火砕流に伴う火砕サージ被害が発生した際、犠牲者の遺体収容へ展開する際に通常のドーザでは万一の際の防護が困難であり、更にドーザの速度では展開に時間を要したため、戦車に随伴可能な速度と防御力を有する装甲ドーザが派遣された、というかたち。

Img_0159  火山灰堆積地域では装甲車が必要、こういいますのもまず、火山灰が堆積し火山弾が降り注ぐ被災地、という事を忘れてはなりません。火山灰ですが、これは装輪式、つまりタイヤ式の車両ですと溝の部分に火山灰が固着してしまい、隊やチェーンを装着してもやはり火山灰は固着してタイヤの摩擦力を奪ってしまうのでスリップして進めなくなります。

Img_3976  例えば、映画“わんこの島”として先日BSで放映された三宅島火山災害等では、警視庁が不整地突破能力が非常に高いウニモグトラックを三宅島に持ち込んだのですが、数十分走行したところで車輪が駆動不能となり、チェーンを装着しても同様、結局車外に出て灰の掻き落としを頻繁に行わざるを得ませんでした。

Img_6378  もちろん、89式装甲戦闘車は、万能ではありませんが装軌式装甲車ですので、装輪式車両よりは遙かに火山灰堆積地域での行動は容易です。また、生還者の証言として軽トラック並の大きさ火山弾も吹き飛んでいた、と証言がありますので、側面35mm防弾鋼板、上面もある程度の装甲防御力と乗員区画前面に砲塔を持っている装甲戦闘車ならば、生存性は高まります。

Img_7265  当たらなければどうということは無い、という刹那的な気分でいつ何時走行不能になるのか不明だが数十分くらいは大丈夫、という車両で火山危険地域に行くよりは、自衛隊が対応する装備を持っているのだから、これを派遣する、という発想はある意味当然でしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる) 

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3 コメント

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今回の迅速な派遣、展開は良かったと思いますがや... (ネレトー)
2014-10-03 00:29:57
今回の迅速な派遣、展開は良かったと思いますがやはり装軌式装甲車の数的不足は否めないなとも実感いたしました。

常に生産の減勢や年数両の調達。ましてや、将来型装甲車は装輪式が主流では仕方ないとは思います。
値段や整備、備品の面でも色々と不都合が多いことも

いっそ、イスラエルのアザリチットの様に10式の車体だけでも流用したり今後、退役していく74式を改造してなんとか増勢出来ないかとやきもきしますが。
差し迫った脅威はまだなく、また地上戦になるようであれば我が国の防衛としては瓦解しているとも思いますし難しいのでしょう。


せめて、北(北海道)中央(富士)南(九州)として各方面に機甲師団がおけたらと妄想する次第です。


最後になりましたが
亡くなられました方々のご冥福をお祈りするとともに救助活動に尽力を尽くされている方々の安全を祈っております
返信する
はるな様 (PAN)
2014-10-03 00:43:03
はるな様

たしかに雲仙普賢岳の時に60式が活躍したのは知られていますが、今回89式を持ち込んだのはいいものの、正直活躍することはないと思います。

雲仙は以前に行ったことがありますが、海に近いところにそびえる山で、60式が投入されたのは、海岸線から程近い標高の低い台地でした。
しかし、今回の御嶽山の被災現場はほぼ山頂周辺で、7合目までは車輌で入れますが、さすがに装軌車輌であろうと山頂エリアに直接アプローチすることは不可能です。
事実、89式は7合目の駐車場に待機したままだそうです。

先日のコメ欄にちょっと書き込みました資材運搬車の投入が検討されているのは、重量が5tほどの小型装軌車輌なため、チヌークで運べるからでしょう。一方89式はもちろんのこと、73式でもチヌークで空輸することは不可能です。必要とされる現場への投入手段がない以上、活躍する機会はありません。

89式は噴石対策としては有効だと思いますが、(火砕流の中で動けるかどうかは、ちょっと疑問があります)さすがに御嶽山7合目まで噴石が飛んでくるような事態になれば、もう救助活動どころじゃなくなる規模の大噴火ですよ。

では、なぜ89式が投入されたのか?
おそらく、陸自にも雲仙普賢岳のときの成功例が頭にあったことは間違いないでしょう。それを踏まえて、現場の状況が伝わる前に派遣を決めてしまったのか、もしくは現場投入が不可能なことを承知のうえで、ある意味のデモンストレーションとして持ち込んだぐらいしか、理由が想いつきません。
返信する
気象庁は9/27の時点において火口から4kmは大きな噴... (謎チキン)
2014-10-06 02:33:59
気象庁は9/27の時点において火口から4kmは大きな噴石が飛散する可能性があるとしていました。
自分は御嶽山に登ったことがないので王滝村の公式HPの情報を元に考える他ありませんが、御嶽山7合目から頂上は3.5kmとのことなので、再度な噴火が発生した場合は十分範囲内となります。
89FVは4両しか投入しておらず、田ノ原に居るのは2両だけです。
捜索拠点は5合目(約5km?)などより遠い場所に設置されているので、今回の89FVは装甲と光学装置を活かしてより近距離での監視作業を行っているのではないでしょうか。

突発的な噴火が再発した時の救助隊離脱などに使うには車両数が足りないと思います。
返信する

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