■双子の不安定の弧、世界を交差
新しい不安定の弧は、クリミア半島に始まりトルコの騒擾と中東のテロと民主化の混迷、そしてアフリカの戦乱を経て、事実上地球を南北に貫きつつあります。
中東地域の現状について、前回、中東の一部地域での懸念という従来の“不安定の弧”に対し、アラブの春民主化運動の暴動化が暗渠として紛争要素を広範化している、としました。この中東は石油の最大算出地域です。石油価格を高めるためのOPECへの減産要求、これに対してOPECの石油生産は過去最高水準で推移しているようです。産油国は、かつて枯渇したともいわれたロシアとアメリカのシェールオイル、南米などの新油田採掘により、世界の埋蔵量でのシェアでは中東は比較的その地位を後退させていますが、一方で掘削コストが1バレルあたり40ドル以下の石油生産総量では中東OPEC諸国のシェアは大きく、1バレルあたり30ドル以下の埋蔵量となれば、中東が独占します、ここが問題を世界規模のものとしてしまう。
アフリカ中部情勢も緊迫しています。アフリカ地域ではボコハラムやダルフール紛争が継続されていますが最たる事案は、南スーダン内戦、でしょう。難民が100万という非常に懸念すべき状況、自衛隊がPKOへ派遣されている南スーダンですが、スーダンから独立した以前よりも明らかに悪化した状況となっています。実際問題、T-72戦車とMi-24攻撃ヘリコプターが戦闘を実施する状況ですので、国連による南スーダン国連ミッションでの新国家建設支援は、事実上、内戦状態を受け入れない状況で、内戦の合間を縫って土木工事などを実施している状況に近く、特に内戦の難民は南スーダンを越境し、隣国ウガンダなどに流失しています、場合によっては国連南スーダン任務の失敗を受け入れるよう突き付け、ウガンダでの難民キャンプ設営などに自衛隊PKO部隊は軸を移行する方向を国連に打診したほうがよいのかもしれません。
南スーダン内戦、長期化の様相を呈してきました、マシャール元副大統領が南スーダンからコンゴ共和国へ脱出しまして、この内戦はキール大統領がマシャール副大統領を一方的に解任したことで始まっており、マシャール元副大統領が出国してしまってはマシャール元副大統領派部隊を停船させることも、もちろん、キール大統領とマシャール元副大統領の和解も有り得ません、一方、国連担当官がマシャール元副大統領家族の今後脱出を支援したと表明しており、今後は南スーダンPKO部隊はキール大統領派から攻撃の目標となる可能性さえ、出てきました、そうなっては、新しい国家創造を支援するというPKO任務は不可能となり、現在のPKOは安保理決議、国連憲章七章措置により実施されていますので、国連防護軍派遣による治安維持と南スーダンとの対決を選ぶのか、PKO部隊撤退と南スーダン内戦拡大を看過するのか、となってしまいました。
パワーバランスの変化は、そもそも武力紛争そのものが軍事均衡の崩壊により生起する事象であることから、アメリカの消極的姿勢が具体的政治行動へ発展することで顕著化します。米軍が急に引けば逆に出てくる勢力が現れ戦争になる、と。この点で、消極的姿勢の具現化事例としまして、アメリカのイラク戦争後における中東地域からの段階的撤退、元来、湾岸戦争以前も含めアメリカ軍はサウジアラビア国内に一定規模の常駐部隊を、更に湾岸戦争後には再度のイラク侵攻を警戒する形でクウェート国内に一定以上の規模の部隊を駐留させてきましたが、イラク戦争後は中東地域最大の不確定要素であったイラク脅威の消滅、重ねて、イラク治安作戦としてアメリカ軍のイラク駐留部隊が必要となったことで、サウジアラビア、クウェートでの駐留が抜本的に見直されています、その後、イラク駐屯米軍は段階的に撤退、現在のオバマ政権下では一時完全撤退も行われました。撤退は米本土への撤退です。
米軍再編として、アメリカは自国のポテンシャルを過大評価し、従来の前方展開という、紛争が発生する以前に部隊を駐留しておくとの軍事戦略を、主力の米本土駐留と全軍の緊急展開部隊への改編を視野に進め、米本土以外は世界の限られた戦略展開拠点、日本の嘉手納と横田横須賀、イギリスのフェアフォード、インドのディエゴガルシアなどに展開拠点を維持し、ここを経由し緊急展開を行うことで、世界危機に際しても当面は対応できる、という認識を持たせたわけです。この過大評価とは、米軍が常駐していなくとも即座に展開できる環境を軍事的、技術的に整備することで、あたかも駐屯している米軍のごとく抑止力を行使できるとの認識でしたが、世界の軍事指導者はあくまで自己の認識に依拠しているわけであり、そこにいない米軍が、仮に即座に展開できるとの示威がなされたばあいでも、現時点ではまだ居ないのだ、という認識を越えることはなかなかありません。
緊急展開の大きな難点としては、仮に必要であっても、展開する、という事実だけで十分に軍事行動です。実際問題、こうした展開は国際法上の武力攻撃ではありませんが、定義の上では武力行使には含まれます。更に展開する、臨時とはいえ抑止力として脅威と対峙するには、それなりの国家方針との摩擦、具体的にいえば偶発的衝突可能性が生じますし、受け入れ国との政治的摩擦、駐留費用、問題は数知れません。故に緊急展開する能力を整備したとしても政権の対応、脅威評価の温度差、情報収集の限界などにより必要な対応がとれないことが多々あるのです。アメリカ軍がサウジアラビアへ大量に駐屯した時代であれば、イエメン内戦へはもう少し迅速な解決策が図られたでしょう、イラク駐留米軍が撤退先を本土ではなくサウジアラビアやクウェートとしていたならばISILの跳梁を早い時期で抑止できたでしょう、アフガニスタン駐留米軍を最盛期の半分程度に維持したならば、タリバンの再攻勢を阻止しISILにたいしてもイランの関与を現在ほどロシアよりのものとはしなかったでしょう。
こうして、新しい不安定の弧は中東地域において、それまで、従来の不安定の弧にはふくまれなかった地域に対して、アラブの春という内戦へ暴発する要素を残し、更に米軍の大幅な縮小により親米国の多い中東地域において、新たに勢力を伸張させているロシアの影響度があくまで比較面の話ではありますが、増大することを意味しています。今後、大規模な民主化運動場暴力革命へ発展する危惧を生んだ場合、欧米諸国から政権は、穏健な王政をとる諸国も含め支援をうけられる可能性は低くなり、消去法により支援をロシアの、シリアに大規模な駐留部隊を展開させ、イランでも基地使用を開始し、軍事力を近傍に展開させているロシアの実力に頼るようなることは、当然考えられます。しかし、このアメリカの交代により生じたポテンシャルの変化について、アメリカが軍事的に引いている行動に対し政治的には引いていない、という姿勢を執っている事は、米軍再編における緊急展開重視体制への変革から視てとれますが、当該地域とその周辺国はこれを政策として理解し繁栄させていません。
新しい不安定の弧は、欧州とアジアの境界線から中東アフリカを縦断しました。一方、従来の不安定の弧、地中海から中東中央部と中央アジアに南アジアと東南アジアを経て台湾朝鮮半島に至る、ユーラシア大陸南部を覆う不安定の弧もその問題は解決されておらず、むしろ不安定の弧は、中国の海洋における軍事行動の増大が南シナ海において顕著化し、朝鮮半島の北朝鮮核武装は脅威が顕在化し、新しい不安定の弧が南北を、従来の不安定の弧が東西を貫き、弧状の覆域は交差し、憎悪の満月へと成就しつつあります、しかし、この問題が即座に世界危機への不可避な分岐点を超えているのかと問われたならば、まだ楽観要素はあります。具体的には、この要員の背景にはポテンシャルの変化が起因するものである一方、ポテンシャルの変化は軍事技術変化を受けての配置変化にほかならず、その再認識の広範化、もしくは再進出、他には政策を変化させる事により、解消できるものです。こうした、一種の誤解が拡大再生産され生まれる摩擦要素を再検討することで、世界危機への展開を回避できる、道はまだ残っています。
北大路機関:はるな くらま
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新しい不安定の弧は、クリミア半島に始まりトルコの騒擾と中東のテロと民主化の混迷、そしてアフリカの戦乱を経て、事実上地球を南北に貫きつつあります。
中東地域の現状について、前回、中東の一部地域での懸念という従来の“不安定の弧”に対し、アラブの春民主化運動の暴動化が暗渠として紛争要素を広範化している、としました。この中東は石油の最大算出地域です。石油価格を高めるためのOPECへの減産要求、これに対してOPECの石油生産は過去最高水準で推移しているようです。産油国は、かつて枯渇したともいわれたロシアとアメリカのシェールオイル、南米などの新油田採掘により、世界の埋蔵量でのシェアでは中東は比較的その地位を後退させていますが、一方で掘削コストが1バレルあたり40ドル以下の石油生産総量では中東OPEC諸国のシェアは大きく、1バレルあたり30ドル以下の埋蔵量となれば、中東が独占します、ここが問題を世界規模のものとしてしまう。
アフリカ中部情勢も緊迫しています。アフリカ地域ではボコハラムやダルフール紛争が継続されていますが最たる事案は、南スーダン内戦、でしょう。難民が100万という非常に懸念すべき状況、自衛隊がPKOへ派遣されている南スーダンですが、スーダンから独立した以前よりも明らかに悪化した状況となっています。実際問題、T-72戦車とMi-24攻撃ヘリコプターが戦闘を実施する状況ですので、国連による南スーダン国連ミッションでの新国家建設支援は、事実上、内戦状態を受け入れない状況で、内戦の合間を縫って土木工事などを実施している状況に近く、特に内戦の難民は南スーダンを越境し、隣国ウガンダなどに流失しています、場合によっては国連南スーダン任務の失敗を受け入れるよう突き付け、ウガンダでの難民キャンプ設営などに自衛隊PKO部隊は軸を移行する方向を国連に打診したほうがよいのかもしれません。
南スーダン内戦、長期化の様相を呈してきました、マシャール元副大統領が南スーダンからコンゴ共和国へ脱出しまして、この内戦はキール大統領がマシャール副大統領を一方的に解任したことで始まっており、マシャール元副大統領が出国してしまってはマシャール元副大統領派部隊を停船させることも、もちろん、キール大統領とマシャール元副大統領の和解も有り得ません、一方、国連担当官がマシャール元副大統領家族の今後脱出を支援したと表明しており、今後は南スーダンPKO部隊はキール大統領派から攻撃の目標となる可能性さえ、出てきました、そうなっては、新しい国家創造を支援するというPKO任務は不可能となり、現在のPKOは安保理決議、国連憲章七章措置により実施されていますので、国連防護軍派遣による治安維持と南スーダンとの対決を選ぶのか、PKO部隊撤退と南スーダン内戦拡大を看過するのか、となってしまいました。
パワーバランスの変化は、そもそも武力紛争そのものが軍事均衡の崩壊により生起する事象であることから、アメリカの消極的姿勢が具体的政治行動へ発展することで顕著化します。米軍が急に引けば逆に出てくる勢力が現れ戦争になる、と。この点で、消極的姿勢の具現化事例としまして、アメリカのイラク戦争後における中東地域からの段階的撤退、元来、湾岸戦争以前も含めアメリカ軍はサウジアラビア国内に一定規模の常駐部隊を、更に湾岸戦争後には再度のイラク侵攻を警戒する形でクウェート国内に一定以上の規模の部隊を駐留させてきましたが、イラク戦争後は中東地域最大の不確定要素であったイラク脅威の消滅、重ねて、イラク治安作戦としてアメリカ軍のイラク駐留部隊が必要となったことで、サウジアラビア、クウェートでの駐留が抜本的に見直されています、その後、イラク駐屯米軍は段階的に撤退、現在のオバマ政権下では一時完全撤退も行われました。撤退は米本土への撤退です。
米軍再編として、アメリカは自国のポテンシャルを過大評価し、従来の前方展開という、紛争が発生する以前に部隊を駐留しておくとの軍事戦略を、主力の米本土駐留と全軍の緊急展開部隊への改編を視野に進め、米本土以外は世界の限られた戦略展開拠点、日本の嘉手納と横田横須賀、イギリスのフェアフォード、インドのディエゴガルシアなどに展開拠点を維持し、ここを経由し緊急展開を行うことで、世界危機に際しても当面は対応できる、という認識を持たせたわけです。この過大評価とは、米軍が常駐していなくとも即座に展開できる環境を軍事的、技術的に整備することで、あたかも駐屯している米軍のごとく抑止力を行使できるとの認識でしたが、世界の軍事指導者はあくまで自己の認識に依拠しているわけであり、そこにいない米軍が、仮に即座に展開できるとの示威がなされたばあいでも、現時点ではまだ居ないのだ、という認識を越えることはなかなかありません。
緊急展開の大きな難点としては、仮に必要であっても、展開する、という事実だけで十分に軍事行動です。実際問題、こうした展開は国際法上の武力攻撃ではありませんが、定義の上では武力行使には含まれます。更に展開する、臨時とはいえ抑止力として脅威と対峙するには、それなりの国家方針との摩擦、具体的にいえば偶発的衝突可能性が生じますし、受け入れ国との政治的摩擦、駐留費用、問題は数知れません。故に緊急展開する能力を整備したとしても政権の対応、脅威評価の温度差、情報収集の限界などにより必要な対応がとれないことが多々あるのです。アメリカ軍がサウジアラビアへ大量に駐屯した時代であれば、イエメン内戦へはもう少し迅速な解決策が図られたでしょう、イラク駐留米軍が撤退先を本土ではなくサウジアラビアやクウェートとしていたならばISILの跳梁を早い時期で抑止できたでしょう、アフガニスタン駐留米軍を最盛期の半分程度に維持したならば、タリバンの再攻勢を阻止しISILにたいしてもイランの関与を現在ほどロシアよりのものとはしなかったでしょう。
こうして、新しい不安定の弧は中東地域において、それまで、従来の不安定の弧にはふくまれなかった地域に対して、アラブの春という内戦へ暴発する要素を残し、更に米軍の大幅な縮小により親米国の多い中東地域において、新たに勢力を伸張させているロシアの影響度があくまで比較面の話ではありますが、増大することを意味しています。今後、大規模な民主化運動場暴力革命へ発展する危惧を生んだ場合、欧米諸国から政権は、穏健な王政をとる諸国も含め支援をうけられる可能性は低くなり、消去法により支援をロシアの、シリアに大規模な駐留部隊を展開させ、イランでも基地使用を開始し、軍事力を近傍に展開させているロシアの実力に頼るようなることは、当然考えられます。しかし、このアメリカの交代により生じたポテンシャルの変化について、アメリカが軍事的に引いている行動に対し政治的には引いていない、という姿勢を執っている事は、米軍再編における緊急展開重視体制への変革から視てとれますが、当該地域とその周辺国はこれを政策として理解し繁栄させていません。
新しい不安定の弧は、欧州とアジアの境界線から中東アフリカを縦断しました。一方、従来の不安定の弧、地中海から中東中央部と中央アジアに南アジアと東南アジアを経て台湾朝鮮半島に至る、ユーラシア大陸南部を覆う不安定の弧もその問題は解決されておらず、むしろ不安定の弧は、中国の海洋における軍事行動の増大が南シナ海において顕著化し、朝鮮半島の北朝鮮核武装は脅威が顕在化し、新しい不安定の弧が南北を、従来の不安定の弧が東西を貫き、弧状の覆域は交差し、憎悪の満月へと成就しつつあります、しかし、この問題が即座に世界危機への不可避な分岐点を超えているのかと問われたならば、まだ楽観要素はあります。具体的には、この要員の背景にはポテンシャルの変化が起因するものである一方、ポテンシャルの変化は軍事技術変化を受けての配置変化にほかならず、その再認識の広範化、もしくは再進出、他には政策を変化させる事により、解消できるものです。こうした、一種の誤解が拡大再生産され生まれる摩擦要素を再検討することで、世界危機への展開を回避できる、道はまだ残っています。
北大路機関:はるな くらま
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