■GPS誘導とレーザー誘導
航空自衛隊の対地攻撃能力について、前回、従来の自由落下爆弾に続いて91式爆弾用誘導装置GCS-1、JDAMが導入され、精密誘導航空打撃戦の端緒についたことを提示しました。
航空自衛隊はGBU-38JDAMに続きGBU-54LJDAMを導入し、最近新たに導入した新装備、2000ポンドGPS誘導爆弾GBU-31,滑空精密誘導爆弾GBU-39,レーザー誘導爆弾GBU-12ペイブウェイ、これらの装備により漸く自衛隊も爆弾という装備の面では、第一線級の能力を整備するに至りました。島嶼部防衛や策源地攻撃など、これによりようやく光明が見えてきた、少なくともこれまでは不充分な装備にて第一線要員に、想定外の任務、政治的に想定外としてきた任務へ向かわせる事を強いてきましたから、今回導入している装備により、具体的な任務飛行を、単独では難しくとも日米共同ならば実施を検討できる水準となった、といえるでしょう。
GBU-54LJDAM、レーザーJDAMの略称です。元々JDAMはGPSにより入力された座標を正確に落下し直撃する精密誘導爆弾です、が、JDAMが開発される以前にはレーザー誘導爆弾が精密誘導爆弾の代名詞となっています。元々、GPSは複数のGPS衛星が参画座標を描くことで自己位置を標定するものですので、GPS衛星が一定数打ち上げられなければなりません、しかし、アメリカにおいて防衛用衛星航法構想が提示されたのは1973年、最初のGPS衛星ナブスター1が打ち上げられたのは1978年、航法用に使用出来る水準となったのは1980年代であり、常時世界中で確実に3基以上の衛星が頭上を飛行し使用できる環境は湾岸戦争時代を待ってからのものでした。この時代、一番信頼が置けたのはレーザー誘導爆弾であったわけです。
レーザー誘導方式とは、航空機や地上誘導員がレーザーを目標に照射、この照射装置は大型小銃と同程度の大きさで可搬性があるものですが、目標に照射されたレーザーは周辺にレーザー光を反射し、爆弾に取り付けられたレーザー誘導装置がその反射光を感知、自己をその反射源へ誘導し命中する、というもの。レーザーは不可視光線です。万全に見えますが難点がありまして、先ず、悪天候、濃霧や豪雨ではレーザーが水滴等に拡散してしまうためレーザー誘導爆弾が感知できません、高高度から投下する場合、積乱雲はもちろん、一定以上の層の雲も誘導を妨害します、GPSは電波であり光線ではない為に気象の影響を受けませんが、レーザー誘導爆弾はこうした限界があった訳です。
GBU-54LJDAMが開発された背景ですが、JDAMの幾つかの問題に対処するものがあります。第一に、JDAMはGPS座標を入力し誘導するものですから、車両等移動目標に対しては座標入力が間に合いません、第二にGPSが突発的に電子妨害などで誘導不能となる場合の想定です、電子妨害が行われれば、対レーダーミサイル、つまり妨害電波などの発信源を感知し命中する装備、防空制圧装備の格好の標的になりますが、突発的に投下直前にこうした状況となった場合、JDAMは落下から100秒以上前にGPS電波を妨害されますと殆ど正確な誘導が不可能となり25m程度の誤差が生じてしまいます、こうした場合の予備手段としてレーザー誘導と併用する、方式が開発されました。
2000ポンドGPS誘導爆弾GBU-31,航空自衛隊が導入したばかりの新装備で、Mk84普通爆弾にGPS誘導装置を追加したものです。これもJDAMで、500ポンド爆弾を元としているのか2000ポンド爆弾が原型か、という違いのみなのですが。2000ポンド、要するに1t爆弾で428kgのオクトーゲン高性能爆薬を内蔵、炸裂すれば365mの破片加害半径を有し400m圏内を爆風と相乗して破壊します。地表に落下すれば20m近いクレーターを穿つほどで、厚さ3.5mの強化コンクリートを貫徹し地下陣地を破壊可能です。Mk84はアメリカでは最初にレーザー誘導爆弾GBU-27ペイブウェイⅢとしてF-117ステルス攻撃機へ搭載され、大陸間弾道弾ICBM等核兵器発射施設等を攻撃する手段として運用されました。
GBU-31と爆弾部分が共通で先輩に当たるレーザー誘導爆弾のGBU-27ペイブウェイⅢ、これは、ICBMが強化コンクリートに守られた硬質サイロから運用されるため、この無力化を図るには硬質サイロそのものを核攻撃する方式が従来採られていました、しかし、これは全面核戦争に繋がる人類全体への脅威である一方、GBU-27ペイブウェイⅢであれば硬質サイロの発射口部分を正確に破壊し、発射できない状態へ追いやる事が可能です。自衛隊は其処まで大きな航空打撃戦は考えていませんが、島嶼部防衛等専守防衛の我が国は相手の攻撃を受けて初めて防衛戦闘を開始するため、国内に敵が構築する地下陣地を始め破壊するべき重要目標があり、この他、策源地攻撃として日本本土への攻撃を加える敵のミサイル設備などへ精密打撃を加えることなど、考えられるでしょう。
滑空精密誘導爆弾GBU-39とレーザー誘導爆弾GBU-12ペイブウェイについては、次回に譲りましょう。さて、上には上がありGBU-28バンカーバスター5000ポンド爆弾やMOP大型貫通30000ポンド爆弾等はありますが、これは例外として、冒頭部分にて装備の面では第一線級の、としましたのは前線航空統制員、つまり爆弾の目標を確実に誘導する陸上の要員が訓練水準についてNATO基準を満たしていない可能性が高く、また人数も少ないという点、もう一つは爆弾を投下するには目標に接近する必要がありますが、その為の低空侵攻訓練を海上以外では充分行えているのか、限界がある、ということです。この部分を軽視しては、精密爆撃は、成り立ちません。
北大路機関:はるな くらま
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
航空自衛隊の対地攻撃能力について、前回、従来の自由落下爆弾に続いて91式爆弾用誘導装置GCS-1、JDAMが導入され、精密誘導航空打撃戦の端緒についたことを提示しました。
航空自衛隊はGBU-38JDAMに続きGBU-54LJDAMを導入し、最近新たに導入した新装備、2000ポンドGPS誘導爆弾GBU-31,滑空精密誘導爆弾GBU-39,レーザー誘導爆弾GBU-12ペイブウェイ、これらの装備により漸く自衛隊も爆弾という装備の面では、第一線級の能力を整備するに至りました。島嶼部防衛や策源地攻撃など、これによりようやく光明が見えてきた、少なくともこれまでは不充分な装備にて第一線要員に、想定外の任務、政治的に想定外としてきた任務へ向かわせる事を強いてきましたから、今回導入している装備により、具体的な任務飛行を、単独では難しくとも日米共同ならば実施を検討できる水準となった、といえるでしょう。
GBU-54LJDAM、レーザーJDAMの略称です。元々JDAMはGPSにより入力された座標を正確に落下し直撃する精密誘導爆弾です、が、JDAMが開発される以前にはレーザー誘導爆弾が精密誘導爆弾の代名詞となっています。元々、GPSは複数のGPS衛星が参画座標を描くことで自己位置を標定するものですので、GPS衛星が一定数打ち上げられなければなりません、しかし、アメリカにおいて防衛用衛星航法構想が提示されたのは1973年、最初のGPS衛星ナブスター1が打ち上げられたのは1978年、航法用に使用出来る水準となったのは1980年代であり、常時世界中で確実に3基以上の衛星が頭上を飛行し使用できる環境は湾岸戦争時代を待ってからのものでした。この時代、一番信頼が置けたのはレーザー誘導爆弾であったわけです。
レーザー誘導方式とは、航空機や地上誘導員がレーザーを目標に照射、この照射装置は大型小銃と同程度の大きさで可搬性があるものですが、目標に照射されたレーザーは周辺にレーザー光を反射し、爆弾に取り付けられたレーザー誘導装置がその反射光を感知、自己をその反射源へ誘導し命中する、というもの。レーザーは不可視光線です。万全に見えますが難点がありまして、先ず、悪天候、濃霧や豪雨ではレーザーが水滴等に拡散してしまうためレーザー誘導爆弾が感知できません、高高度から投下する場合、積乱雲はもちろん、一定以上の層の雲も誘導を妨害します、GPSは電波であり光線ではない為に気象の影響を受けませんが、レーザー誘導爆弾はこうした限界があった訳です。
GBU-54LJDAMが開発された背景ですが、JDAMの幾つかの問題に対処するものがあります。第一に、JDAMはGPS座標を入力し誘導するものですから、車両等移動目標に対しては座標入力が間に合いません、第二にGPSが突発的に電子妨害などで誘導不能となる場合の想定です、電子妨害が行われれば、対レーダーミサイル、つまり妨害電波などの発信源を感知し命中する装備、防空制圧装備の格好の標的になりますが、突発的に投下直前にこうした状況となった場合、JDAMは落下から100秒以上前にGPS電波を妨害されますと殆ど正確な誘導が不可能となり25m程度の誤差が生じてしまいます、こうした場合の予備手段としてレーザー誘導と併用する、方式が開発されました。
2000ポンドGPS誘導爆弾GBU-31,航空自衛隊が導入したばかりの新装備で、Mk84普通爆弾にGPS誘導装置を追加したものです。これもJDAMで、500ポンド爆弾を元としているのか2000ポンド爆弾が原型か、という違いのみなのですが。2000ポンド、要するに1t爆弾で428kgのオクトーゲン高性能爆薬を内蔵、炸裂すれば365mの破片加害半径を有し400m圏内を爆風と相乗して破壊します。地表に落下すれば20m近いクレーターを穿つほどで、厚さ3.5mの強化コンクリートを貫徹し地下陣地を破壊可能です。Mk84はアメリカでは最初にレーザー誘導爆弾GBU-27ペイブウェイⅢとしてF-117ステルス攻撃機へ搭載され、大陸間弾道弾ICBM等核兵器発射施設等を攻撃する手段として運用されました。
GBU-31と爆弾部分が共通で先輩に当たるレーザー誘導爆弾のGBU-27ペイブウェイⅢ、これは、ICBMが強化コンクリートに守られた硬質サイロから運用されるため、この無力化を図るには硬質サイロそのものを核攻撃する方式が従来採られていました、しかし、これは全面核戦争に繋がる人類全体への脅威である一方、GBU-27ペイブウェイⅢであれば硬質サイロの発射口部分を正確に破壊し、発射できない状態へ追いやる事が可能です。自衛隊は其処まで大きな航空打撃戦は考えていませんが、島嶼部防衛等専守防衛の我が国は相手の攻撃を受けて初めて防衛戦闘を開始するため、国内に敵が構築する地下陣地を始め破壊するべき重要目標があり、この他、策源地攻撃として日本本土への攻撃を加える敵のミサイル設備などへ精密打撃を加えることなど、考えられるでしょう。
滑空精密誘導爆弾GBU-39とレーザー誘導爆弾GBU-12ペイブウェイについては、次回に譲りましょう。さて、上には上がありGBU-28バンカーバスター5000ポンド爆弾やMOP大型貫通30000ポンド爆弾等はありますが、これは例外として、冒頭部分にて装備の面では第一線級の、としましたのは前線航空統制員、つまり爆弾の目標を確実に誘導する陸上の要員が訓練水準についてNATO基準を満たしていない可能性が高く、また人数も少ないという点、もう一つは爆弾を投下するには目標に接近する必要がありますが、その為の低空侵攻訓練を海上以外では充分行えているのか、限界がある、ということです。この部分を軽視しては、精密爆撃は、成り立ちません。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
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