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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛省、新型地対艦ミサイル開発へ概算要求盛り込みへ 南西諸島防衛視野に射程300km想定

2016-08-14 21:44:03 | 先端軍事テクノロジー
■南西諸島防衛の地対艦ミサイル
 読売新聞が報じたところによれば、政府は南西諸島防衛を強化する視点から新型の地対艦ミサイル開発を開始するとのこと。

 これは来年度予算概算要求へ開発予算が盛り込まれる新装備で、射程は300kmを想定、宮古島など先島諸島に配備する方針で、我が国島嶼部周辺に展開する他国軍艦などを近傍の島嶼部陣地から攻撃する能力を持たせるといい、2023年頃に配備を目指すもよう。防衛省では南西諸島近海での軍事行動を強化する中国軍の行動を視野に南西諸島防衛の強化を進めており、新型地対艦ミサイルについても、その一環といえるでしょう。

 新型地対艦ミサイルは北海道や九州の地対艦ミサイル連隊に配備されています88式地対艦誘導弾SSM-1の後継という位置づけと考えられますが、その射程はこれまで導入が何度か検討されたATACMS陸軍戦術ミサイルの射程と重なります、ATACMSは陸上自衛隊でも運用中で方面特科部隊全般支援火力の中枢と位置づけられるMLRSの戦術ミサイル型で、2000年代初頭に導入を検討した際、射程過大として連立与党の一部からも反対の声が上がり導入されませんでした。

 300kmという射程ですが、これは従来の88式地対艦誘導弾が冷戦時代、最大の脅威を受けていました北海道へのソ連軍着上陸を阻止するべく射程を180kmとしたものを南西諸島防衛へ再検討した結果のものと考えられます。180kmという射程は、北海道中央部の大雪山など山間部に掩砲所を建設し、戦術核攻撃を含めた脅威から部隊を防護しつつ、北海道を最大の脅威を受けた北部地域、北方領土からの東部地域へ、また道都札幌を狙う石狩湾方面への着上陸、どの方面からの着上陸へも対応する射程として要求されたと考えられます。

 南西諸島防衛を主眼とする新地対艦ミサイルは、その着上陸想定範囲が北海道島よりも広範囲に及び、且つ、多数の島嶼部に展開させる場合、現在の88式地対艦ミサイルでは180kmの射程とした場合、連携が非常に困難となります。石垣島、沖縄本島、奄美大島、この三箇所に展開し、データリンクにより連携する場合には300kmという射程が最低限必要となる、という要求が反映されたことが考えられます。この射程ならば、石垣島、沖縄本島、奄美大島に配備する事でぎりぎり南西諸島全域に防衛網を構築出来るでしょう。

 ミサイルの性能は未知数ですが、我が国の新装備は既存の技術を基盤として新型装備へ反映させるため、ASM-3として今年度いっぱいで航空自衛隊のF-2支援戦闘機用対艦ミサイルの開発が完了します。新地対艦ミサイルは、ASM-3の技術が応用されると考えて間違いなく、超音速巡航能力と超低空巡航能力を併せ持ち、プログラミング飛行方式を採用し同時多方向飽和攻撃、つまり目標を様々な方向から迂回し同時弾着させ、相手の防空能力の限界点を越え撃破する能力が付与される。

 また、88式地対艦誘導弾に採用されたデジタルマップ機能を用いた地形回避能力も継承される事が考えられ、島影など目標へ有利な地形を利用し接近する機能も付与される事が考えられ、アメリカが運用するハープーンミサイルやトマホークミサイルと比較した場合、これらは亜音速ミサイルである為、迎撃しにくい、日本へ着上陸を試みる艦艇にとっては、最高度の防空艦も含め非常に厄介な、日本としては頼れるミサイルとなります。自衛隊の装備は多用途ヘリコプターはじめ様々なものが南西諸島仕様となっていますが、これもその一つ。

 GPS誘導方式が慣性航法装置に加え採用されるとのことで、これは陸上目標に対する誘導を想定していると考えられます。陸上目標への対処としましては先進対艦対地弾頭技術の研究、としまして防衛装備庁では既に開発に着手しており、海上目標の他、複合指向性貫通弾を用い陸上防衛に資する地対地打撃力が示唆されています。地対艦ミサイルであり、88式地対艦誘導弾の後継という位置づけ、12式地対艦誘導弾システムと協同するとの位置づけではありますが、上記視点から将来的には方面特科部隊のMLRSが老朽化した際、後継装備と位置づけられる可能性もあります。

 新型地対艦ミサイルは、これまで陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾が、護衛艦むらさめ型以降艦対艦ミサイルとして採用されたSSM-1へと発展しています。即ち、この新ミサイルは将来に海上自衛隊の護衛艦やミサイル艇、場合によっては潜水艦へも搭載される可能性があります。ASM-3派生型となった場合、その意味するところは、海上自衛隊の対艦ミサイル戦闘に関しても現在のハープーンミサイルやSSM-1を用いた海上戦闘から、長射程の超音速ミサイルによる戦闘へ、技術的に発展する可能性もかんがえられる。

 ただ、課題も残ります。支援の施設部隊と情報部隊による目標情報捕捉、地対艦ミサイル部隊の自衛戦闘能力についてです。冷戦時代、北海道に展開した88式地対艦誘導弾部隊は施設部隊の坑道中隊により地下へ掩砲所を構築し航空攻撃から部隊を維持する事が出来ましたし、普通科部隊と高射特科部隊による支援を受ける事が出来ました、この部分について、南西諸島には北海道程部隊を掩蔽展開できる地形がなく、この点、平時からコンクリート製掩体を構築する、地下通路に配置するなど、考慮する必要があるでしょう。

 標定についても、沿岸監視部隊を増勢する、無人偵察機部隊を整備する、電子隊を新編し電子標定を行う、など考える必要があります。標定し目標の位置が判明しなければミサイルを投射できません、このため、情報小隊を離島に分散させ、通信基盤と衛星通信能力など合わせ標定と情報伝送を行う必要がありますし、ミサイル部隊の展開場所と射撃陣地に予備陣地の選定など、やる事は山積しています。しかし、これにより島嶼部防衛が大きな前進の転換点へ就くことを意味し、この持つ意味は非常に大きいといえるでしょう、更なる情報、概算要求の公表を待ちたいですね。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (27)
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