■海軍戦略の崩壊
ロイターコラムにて”最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓”という興味深い、しかし手厳しいコラムが掲載されていました。
そこで、本日から海上防衛について、その意義や努力という面ではなく、ロイターコラムの内容に触れつつ、一旦喪失すればどうなるか、という事について短期集中連載として、考えてみましょう。イギリス海軍はかつて17世紀にスペインから制海権を奪い、18世紀にはオランダ海軍の挑戦を撃退し、19世紀には世界の制海権を握り、海上交通の自由、という今日に繋がる国際公序を構築しました、20世紀にはドイツの挑戦を破砕し、その後、同じく海洋交通の自由を掲げるアメリカは我が国帝国海軍を打ち破った事で、海上航行自由原則は完全な国際公序として定着しています。
しかし、イギリス海軍は現在、末期状態にあり、予算難を理由として海軍の縮小改編を繰り返し積み重ね、事実上、イギリスは本国周辺の哨戒任務を辛うじて継続できる程度にまで衰退、艦艇縮小と人員縮小は、限られた艦艇の稼働率を維持できず、この数年間繰り返される最新鋭45型駆逐艦の故障漂流、23型フリゲイトの電子系統異常、イギリス政府は漸く、アラブの春暴動化内戦やISIL勢力拡大を受け、その海軍力再建を世界に公約しましたが、英海軍の凋落は客観的な教訓、というものを、同じく財政状況の悪化に曝される我が国も、今後の海上自衛隊の能力維持という視点から、考えなければなりません。
イギリス海軍の戦力は、最早空母は残っていません、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦に当たるものも無くなりつつあり、後継艦の完成を待っている状況、いったん廃止すれば航空部隊も解体され、その訓練基盤も無くなってしまいます。インヴィンシブル級空母はハリアー運用終了で全艦廃艦が決定し、最後のアークロイヤルも除籍されました。攻撃型原潜6隻、戦略ミサイル原潜4隻、水上戦闘艦19隻、外洋哨戒艦4隻、掃海艇15隻、強襲揚陸艦1隻、ドック型揚陸艦2隻、港湾沿岸哨戒艇18隻、今年アスチュート級攻撃型原潜の三番艦アーティフルが竣工予定です。このほか、補給艦3隻、輸送揚陸艦3隻、航空練習艦1隻、と。新空母クイーンエリザベス級の建造は遅れています。
多用な任務へ対応する水上戦闘艦の不足は、例えば自衛隊の護衛艦よりも遥かに勢力が少なくなり、特に深刻です。45型ミサイル駆逐艦、デアリング、ドーントレス、ダイヤモンド、ドラゴン、ディフェンダー、ダンカン、以上かつての戦艦の艦名を冠した六隻、23型フリゲイト、アーガイル、ランカスター、アイアンデューク、モンマス、ウェストミンスター、ノーサンバーランド、リッチモンド、サマセット、サザーランド、ポートランド、セントオールバンズ、以上13隻、水上戦闘艦戦力は19隻となっています。26型フリゲイトは計画されていますが、42型ミサイル駆逐艦、22型フリゲイト、21型フリゲイト、これらは全て除籍され、停泊実習艦兼宿泊艦に転用された元42型駆逐艦ブリストル以外は、輸出されるか解体されてしまいました。
人員削減に悩むイギリス海軍が出した解決策は、現役艦艇の一部を運行停止し、その乗員を他の簡易回すというものです。外洋航行を行う艦艇は基本的に三交代方式を採ります、一日いつクルー当たり4時間連続勤務を二回行う、という方式です。しかし乗員が不足しますと、二交代制として、4時間連続勤務を一日三回行う必要が出てくるわけです。そこで、水上戦闘艦1隻を運用停止すれば、2交替まで人員が縮小している3隻の水上戦闘艦へ各1クルーを配属させることができる。しかし、忘れてはならないのが、訓練を縮小すれば、その分練度不足による事故が発生する。
日本へ親善訪問するイギリス海軍艦艇は年々減っていますのも、この表れというべきでしょう。数少ない艦艇さえも運用を中止させ、乗員を他の巻に回す苦肉の策ですが、イギリス海軍は23型フリゲイトランカスターを停止、また、画期的な電気推進システムを採用し不具合が続発している45型ミサイル駆逐艦ドーントレスが電気系統破損により半年以上修理に時間を要する事が判明し、この運用を停止し、他の45型に人員を振り分けました。この問題は、単純に練度の低下となります、海軍艦艇は戦闘が任務、航行するだけの船舶ではありません。7月にイギリス海軍の最新型攻撃型原潜アンブッシュが、ジブラルタル海峡にて商船と衝突、損害は大きく半年程度の修理期間が必要となりました、商船を回避できず大破、練度低下の一例といえるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
ロイターコラムにて”最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓”という興味深い、しかし手厳しいコラムが掲載されていました。
そこで、本日から海上防衛について、その意義や努力という面ではなく、ロイターコラムの内容に触れつつ、一旦喪失すればどうなるか、という事について短期集中連載として、考えてみましょう。イギリス海軍はかつて17世紀にスペインから制海権を奪い、18世紀にはオランダ海軍の挑戦を撃退し、19世紀には世界の制海権を握り、海上交通の自由、という今日に繋がる国際公序を構築しました、20世紀にはドイツの挑戦を破砕し、その後、同じく海洋交通の自由を掲げるアメリカは我が国帝国海軍を打ち破った事で、海上航行自由原則は完全な国際公序として定着しています。
しかし、イギリス海軍は現在、末期状態にあり、予算難を理由として海軍の縮小改編を繰り返し積み重ね、事実上、イギリスは本国周辺の哨戒任務を辛うじて継続できる程度にまで衰退、艦艇縮小と人員縮小は、限られた艦艇の稼働率を維持できず、この数年間繰り返される最新鋭45型駆逐艦の故障漂流、23型フリゲイトの電子系統異常、イギリス政府は漸く、アラブの春暴動化内戦やISIL勢力拡大を受け、その海軍力再建を世界に公約しましたが、英海軍の凋落は客観的な教訓、というものを、同じく財政状況の悪化に曝される我が国も、今後の海上自衛隊の能力維持という視点から、考えなければなりません。
イギリス海軍の戦力は、最早空母は残っていません、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦に当たるものも無くなりつつあり、後継艦の完成を待っている状況、いったん廃止すれば航空部隊も解体され、その訓練基盤も無くなってしまいます。インヴィンシブル級空母はハリアー運用終了で全艦廃艦が決定し、最後のアークロイヤルも除籍されました。攻撃型原潜6隻、戦略ミサイル原潜4隻、水上戦闘艦19隻、外洋哨戒艦4隻、掃海艇15隻、強襲揚陸艦1隻、ドック型揚陸艦2隻、港湾沿岸哨戒艇18隻、今年アスチュート級攻撃型原潜の三番艦アーティフルが竣工予定です。このほか、補給艦3隻、輸送揚陸艦3隻、航空練習艦1隻、と。新空母クイーンエリザベス級の建造は遅れています。
多用な任務へ対応する水上戦闘艦の不足は、例えば自衛隊の護衛艦よりも遥かに勢力が少なくなり、特に深刻です。45型ミサイル駆逐艦、デアリング、ドーントレス、ダイヤモンド、ドラゴン、ディフェンダー、ダンカン、以上かつての戦艦の艦名を冠した六隻、23型フリゲイト、アーガイル、ランカスター、アイアンデューク、モンマス、ウェストミンスター、ノーサンバーランド、リッチモンド、サマセット、サザーランド、ポートランド、セントオールバンズ、以上13隻、水上戦闘艦戦力は19隻となっています。26型フリゲイトは計画されていますが、42型ミサイル駆逐艦、22型フリゲイト、21型フリゲイト、これらは全て除籍され、停泊実習艦兼宿泊艦に転用された元42型駆逐艦ブリストル以外は、輸出されるか解体されてしまいました。
人員削減に悩むイギリス海軍が出した解決策は、現役艦艇の一部を運行停止し、その乗員を他の簡易回すというものです。外洋航行を行う艦艇は基本的に三交代方式を採ります、一日いつクルー当たり4時間連続勤務を二回行う、という方式です。しかし乗員が不足しますと、二交代制として、4時間連続勤務を一日三回行う必要が出てくるわけです。そこで、水上戦闘艦1隻を運用停止すれば、2交替まで人員が縮小している3隻の水上戦闘艦へ各1クルーを配属させることができる。しかし、忘れてはならないのが、訓練を縮小すれば、その分練度不足による事故が発生する。
日本へ親善訪問するイギリス海軍艦艇は年々減っていますのも、この表れというべきでしょう。数少ない艦艇さえも運用を中止させ、乗員を他の巻に回す苦肉の策ですが、イギリス海軍は23型フリゲイトランカスターを停止、また、画期的な電気推進システムを採用し不具合が続発している45型ミサイル駆逐艦ドーントレスが電気系統破損により半年以上修理に時間を要する事が判明し、この運用を停止し、他の45型に人員を振り分けました。この問題は、単純に練度の低下となります、海軍艦艇は戦闘が任務、航行するだけの船舶ではありません。7月にイギリス海軍の最新型攻撃型原潜アンブッシュが、ジブラルタル海峡にて商船と衝突、損害は大きく半年程度の修理期間が必要となりました、商船を回避できず大破、練度低下の一例といえるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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