講義をするということから遠ざかって久しい。もう講義をしなくなってから 5 年を過ぎただろうか。
冒頭のタイトルは「Heisenberg方程式を見つけたのはHeisenbergではない」という名古屋大学の谷村さんの発想を敷衍したいと思ったからである。
・・・のところは実は上に書いたように書くべきだったのであるが、それだとあまりにタイトルが長くなりすぎる。それで・・・とした。
量子力学ではHeisenberg方程式は一番の基本方程式であるが、その基礎方程式を現在のように定式化した初めての人はHeisenberg自身ではないという。ちょっと本当かと思うような話であるが、これは実は正しい。
Heisenbergから渡された論文に載っていた奇妙なかけ算に頭をかしげた、先生のBornがその奇妙なかけ算は自分が学生時代に大学の数学の講義で学んだことのある、マトリックスのかけ算とおなじものであることに気がついたという。
交換関係としてよく知られている[x, p]=ih/(2\pi)もBornの定式化によると言われている。Heisenbergは天才で、実に自分が知らなかった数学を自分で編みだしていたのだ。
ついでにいうと(neben gesagt)、もう一つの量子力学の基礎方程式 といわれるSchr"ondinger方程式をSchr"ondingerがはじめて導いたのだが、彼は自分が導いた方程式を最初解けなかったという。当時Schr"ondingerはチューリッヒにいたのだが、彼はしかたなく、数学者のWeylにこの方程式の解き方を教えてもらったという。これは波動幾何学の創始者として知られた三村剛昂先生から聞いた話である。
Schr"odingerはWeylからその当時には新しい手法だった境界値問題の方程式の解き方を教わったのだという。こういう話は物理の歴史においては別に珍しくない。
天才は数学でもなんでも自分の必要に応じてつくりだしてくる。数学を十分学んでから物理を研究しようなどと思っていた、または、思っている、私などは学者の部類には入らない。