コンピュータの発達は私たちの生活にさまざまな影響を与えている。今回の東日本大地震による津波被害のデータを分析することにより、北海道の危険地域を想定する図を提示されての講義は説得力のあるものだった。
北大の公開講座「東日本東北沖地震と北海道」の第3回講座は9月4日(水)夜、「デジタル地図で考える津波危険地域の住民避難」と題して大学院文学研究科の橋本雄一教授が講義を担当した。
橋本教授が文学研究科に属しているからといってけっして俗にいう文系の研究者ではないとご本人からの断りがあった。橋本氏は理学博士であって、GIS(地理情報システム~コンピュータを使って地図データの作成・加工・検索・分析などを行うシステム)を研究対象としながら、そのことを地理学に活かす研究をされている方だそうだ。
橋本氏の研究内容は、現実世界において必要な地理的な情報(データ)をGIS(地理情報システム)というソフトウェアに落とし込むことによって立体的な地理情報を得て、私たちの生活に役立てようとする研究、と私なりに理解した。
その研究について、橋本氏が提供してくれた写真データをもとに説明すると、写真は東日本大地震で津波被害を蒙った大船渡市の状況です。
左上の写真は津波被害を蒙った直後の大船渡市上空からの空中写真です。右上は鉄道・道路・建物など津波被害以前の大船渡市の状況を伝える基盤地図情報です。左下が海岸からの距離情報、右下が大船渡市域の標高を表すデータです。
この4つのデータを一つの画面に落とし込むことによって、被害の状況が非常にリアルに表現されるということのようだ。(その画像を紹介できないのが残念!)
この写真データから、大船渡市の場合は標高5m、海岸からの最も離れたところではおよそ700mのところでも被害に遭っていることが分かる。
橋本氏は大船渡市ばかりでなく、津波被害に遭った東北の各地域をこうしてデータ化することによって、東日本大地震の際の津波と同規模の津波が起こった場合の北海道沿岸部の津波被害を想定したものを提示された。
それによると、北海道の沿岸部はかなり危険なところが多いという。特に釧路市、函館市などは低地に都市が発達しているため東日本大地震級の津波が発生すると大打撃に受ける可能性があるという。また、地震や津波が発生した際に住民救助の拠点となるはず自治体庁舎のうち17の市町村の庁舎が水没する恐れがあると警告した。
さらには、こうした市町村の住民が避難するに適した個所が非常に少ないことも警告した。
橋本氏は言う。「地震や津波、火山の噴火などは災害ではなく自然現象である。そこに人間がいたために災害と言うのだ」と。つまり、自然は人間の開発行為により、社会的脆弱性が増していると指摘する。
その脆弱性を補完し、人間を危険から遠ざける(避ける)ためにGISを活用した予測と、それ基づいた対策が必要であると氏は締め括った。
※ 私たちが受講している地球環境科学研究院のD201教室です。まだ開始30分前なので受講者の数が少ないです。
橋本氏が示した津波被害の予測は私の想像を超えるものだった。住民の生活と命を守る自治体としてはその対策が急がれるところであるが、こうした対策には莫大な予算が必要なことも事実である。
緊縮予算を強いられている自治体にとっては頭の痛い問題である。う~ん…。