掛け値なしに「良い映画を観ることができたぁ…」と思った観賞後の感想だった。耳が聞こえない監督自身(彩子)が出演し、自転車で日本縦断の旅に出るロードムービーである。ドキュメントタッチの中で、さまざまなドラマが展開する…。
夏に入って映画からしばらく遠ざかっていたこともあり、新聞で「想う映画館」なるグループが主催する「Start Line」の告知を目にしたとき、「なんとなく良さそうな映画では」と思われ、スケジュールも空いていたので観賞を申し込んだ。
8月20日(日)午後、北海道立文学館の講堂で映画会は開催された。
映画「Start Line」の内容を、配布されたフライヤーから紹介すると…、
「生まれつき耳が聞こえない映画監督 今村彩子が、2015年夏、自転車で日本縦断の旅へ、荒天、失敗に次ぐ失敗、聞こえる人とのコミュニケーションの壁に、ヘコみ、涙し、それでもひたすら最北端の地に向けて走り続ける。そんな彼女の姿を追うのは、伴奏者にしてカメラ撮影を担う“哲さん”。「コミュニケーションを、あなた自身が切っている!」と厳しく指摘する。相手を想うがゆえの容赦ない言葉に、一触即発の危機が訪れる…。そして、聴力を失ったサイクリスト、ウィルとの奇跡的な出会い、「ピープル インサイド オナジ」 はたして彼女はどんな答えを見つけるのか?人生の旅そのものの3,824Km。ニッポン中のためらう人に観てほしい。一篇の勇気のおすそわけです。」
※ 旅の途中で偶然出会ったウィルに彩子は激しく触発された。(左側は哲さんです)
彩子は耳が聞こえないために人とのコミュニケーションをとるのが苦手で、消極的な自分を克服しようと自転車の旅に出ることを決意する。
“哲さん”は自転車店の店員であるが、彩子の旅を知って、休暇を取り伴走兼カメラマンとして同行する。
その哲さんが何ともいいのだ! 彼は旅へ出ても消極的な彩子を容赦なく口撃する。彼は言う。「コミュニケーションを、あなた自身が切っている!」と…。その言葉に彩子は、時には涙し、時には不貞腐れながらも旅は続く。
旅の後半、同じサイクリストでやはり耳が不自由なオーストリア人・ウィルに出会う。ウィルは陽気に誰とでもコミュニケーションをとろうとしている。そしてウィルは言う。「ピープル インサイド オナジ」…。つまり、外国人でも日本人でも、障害があってもなくても、「人の心の中はみんな同じだよ」とウィルは彩子に話しかけた。
映画の中で彩子たちは目的地の宗谷岬に到達するが、彩子が変わったというところはみられない。
しかし、哲さんの彩子を想うがゆえの厳しい指摘を受け止め、ウィルの積極的な姿に刺激を受け、きっと変わっていくであろう期待を抱かせながら映画は終わる。
まさに彩子はようやく今、スタートラインに立ったのだ。
※ 3,824Kmを走り終え、宗谷岬に立った彩子と哲さん。
30歳を超えているにも関わらず全てに自信無げな彩子。そんな彩子を叱咤し、励ます哲さんとウィル。映画 Start Lineは、ドキュメンタリー映画というよりは、巧まざるヒューマンタッチの映画だった。