田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

イギリスは「階層的分断」と「領域的分断」に遭遇している?

2017-08-04 19:58:57 | 大学公開講座
 イギリスは今、二つの分断で悩まされているようだ。近年のイギリスは、スコットランドの独立の可否、EUからの脱退の可否、そして今年に入っての総選挙と、揺れ続けている。そんな揺れるイギリスの実情を聞いた。 

 8月3日(木)夜、北大公開講座「社会の分断をいかに乗り越えるか?」の第2回講座が開講された。今回は、「EUからの離脱とスコットランド独立をめぐるイギリス政治のゆくえ」と題して、法学研究科の山崎幹根教授が講師を務めた。

               
 
 イギリスはご承知のように2016年、EU(欧州連合)からの離脱を問う国民投票を行い、大方の予想を覆しEU離脱を国民は選択した。そのような結果を招いた要因は、保守党政権が進めた公共サービスの切り下げに対する「異議申し立て」と、EUが体質的に内在する「民主的欠陥」に対して「自己決定権」を欲したイギリス国民の声があったという。
 しかし、もっと掘り下げるとサッチャー保守党政権時代に導入した「人頭税」によって、国民の中に貧富の格差が広まったことがその背景にあるとした。
 つまり、イギリス国民の中には「階層的分断」が内在していると山崎氏は指摘した。

 続いて、イギリスにおけるもう一つのトピックは、2014年に実施されたスコットランドの独立を問う住民投票である。
 イギリスはご存じのように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国で構成されている連合王国である。歴史的にみると、16世紀以前はイングランドとスコットランドは別々の国だったのだ。
 そうした背景もあり、スコットランドではイングランド中央(イギリス国会)に対する反発と、「反保守党」感情の高まりがあり、独立の可否を問う住民投票が実施されたのだ。
 結果は独立反対が55%を占めて独立は回避されたが、45%は独立を支持したことは「領域的分断」問題がいまなお内在していることになる。

 さて、こうした「分断」現象に対して、有効な処方箋は見出せているのだろうか?
 まず「階層的分断」についてであるが、経済のグローバル化によって貧富の差は埋まるどころか、ますます拡大の一途を辿っているという。政権から遠ざかっている労働党は福祉国家路線を叫ぶが財源が確かでない中では夢物語にすぎなく、「階層的分断」に対する処方箋を見出せていないのが現状である、と山崎氏は分析した。

 一方、「領域的分断」であるが、先述したようにスコットランドには根強い独立派が存在する。
 先の住民投票を受け、イギリス議会(国会)は、スコットランド議会(地方議会)へさらなる権限移譲を盛り込んだ「改正スコットランド法」を制定した。このことが反対にイングランド内からは反発を呼んでいるという。
 さらには、「ウェスト・ロジアン問題」(※後述する)という複雑な問題が顕在化し、「領域的分断」を加速化することにも繋がっている。
 総体的にみると、スコットランド独立問題は今のところ沈静化しているようにも見えるが、上記のようなこともあり、いつ再燃するか分からない要素を含んでいるようだ。

 EU離脱問題もある意味でヨーロッパ各国との分断を意図しているとも見られるし、国内的には「階層的分断」、「領域的分断」という問題を抱え、イギリス政権のかじ取りは極めて難しい局面を迎えている、ということが言えそうである。
 イギリスの内情をウォッチングする山崎教授の講義はなかなか興味深かった。


※「ウェスト・ロジアン問題」
 スコットランド議会は、スコットランド選出議員以外は関与することができない。つまりスコットランド議会はスコットランドの地域の問題、課題を議論し、議決する場であるから…。
 一方、イングランド住民にとっては、地域の問題、課題を議論する場はイギリス国会である。ということは、スコットランド選出議員もその問題に関与できることになる。この矛盾(イングランド住民から見ると)に異議申し立てをし、スコットランド選出議員に制限を加えよ、という問題が沸き起こっているらしい。