すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

夏休み読書メモその1

2010年08月16日 | 読書
 堀江敏幸は『雪沼とその周辺』しか読んだことがなかったが、いつだったか月刊誌に中島みゆきの歌の世界を掌編にする企画に文章が載っていて、その鮮やかな切り口に舌を巻いたことがあった。

 空港内の売店で文庫本を手にとって、なんとなく読めそうな内容だったので買い求めたのが『めぐらし屋』(新潮文庫)だった。

 もっぱらサスペンスやエンターテイメント色の強い小説を読み漁っている自分にとっては、少し退屈な小説のように思えたが、なんとなくひき込まれ、ほとんど一気に読み終えて感じたことがある。

 「ゆたかにえがく」というのは、細かく些細なことにどこまで目をつけて書き込むかということだな…

 言葉にしてみれば、ごく当然のことかもしれないが、そういう文章を実感させてくれる作品はなかなかないものだ。

 『雪沼とその周辺』も上手いなあと思ったが、この『めぐらし屋』は長編なだけに主人公へ知らず知らずに寄り添っている自分を感じることができた。
 何気ない詳細(もちろん作者は意図的に取り上げているわけだが)を描くということが、読み手の感情をほんの少しずつ揺らし続け、その繰り返しによって同調していく、とでも言えばいいだろうか。

 解説子(東直子)が実にうまいまとめをしている。

 文章を味わいながら人生が細部の積み重ねでできていることを体感できる小説
 
 自分も、自分の周囲の人も、そういうふうに細部を見つめながら生きているという事実に気づかせてくれる。

 どんなふうに細部を選択し、形づくっていくか。拠り所を持っている人は強い