ベストセラー『博士の愛した数式』以来、何冊か小川洋子の作品は読んだが、これはこれは、と思わされたのがこの『夜明けの縁をさ迷う人々』(角川文庫) である。
九篇の短編小説集である。確かに今まで読んだ中にも、奇っ怪な感じ、見方によってはややオカルトっぽいものもあるにはあったが、この短編集はその色が濃い。
展開としては、何気ない日常的な事柄から始まり、ある一点、一片から狂気へと入り込んで、逃れられない世界の様相が描かれる。そしてその果ての世界に垣間見えるのは、誰しもが心の隅に宿す欲望や願いだったりする。
そこにたどり着くまでがスパイラルな感じでぐいぐいと筆力で引っ張られるようでさすがと感じる。
ただ読後感は様々であり、しみじみ思わせるものあり、ずばっと斬られてお終いというイメージもあり、好き嫌いが分かれるかもしれない。
個人的に気にいったのは「イービーのかなわぬ望み」。
イービーと呼ばれるエレベーターボーイ。中華料理店のエレベーター内で産み落とされ、エレベーター内でその一生を過ごす者とその店で働く女子店員の「私」との物語だ。
古びたエレベーターの中での動作や会話、そして閉店に伴う急展開による悲しい結末。
イービーの姿は、エレベーターの中でその存在を強調しないほど小さく特殊な形態であるが、仕事は完璧である。それ以上の望みも持たない。
その生き方を見つめる「私」の目は情愛に溢れているが、イービーの小さな箱の上げ下げに終始する有り様は宿命の悲しさに見えて、切ない。
現実としてはあり得ない描写が鮮やかに浮かび上がってくる文章も、物語の筋の中で違和感を覚えないのは、ある種、白日夢の世界と呼んでもいいかもしれない。
題名には「夜明け」が名づけられているが、真夏の昼下りに寝転んで読むのにも、なかなか適している。
九篇の短編小説集である。確かに今まで読んだ中にも、奇っ怪な感じ、見方によってはややオカルトっぽいものもあるにはあったが、この短編集はその色が濃い。
展開としては、何気ない日常的な事柄から始まり、ある一点、一片から狂気へと入り込んで、逃れられない世界の様相が描かれる。そしてその果ての世界に垣間見えるのは、誰しもが心の隅に宿す欲望や願いだったりする。
そこにたどり着くまでがスパイラルな感じでぐいぐいと筆力で引っ張られるようでさすがと感じる。
ただ読後感は様々であり、しみじみ思わせるものあり、ずばっと斬られてお終いというイメージもあり、好き嫌いが分かれるかもしれない。
個人的に気にいったのは「イービーのかなわぬ望み」。
イービーと呼ばれるエレベーターボーイ。中華料理店のエレベーター内で産み落とされ、エレベーター内でその一生を過ごす者とその店で働く女子店員の「私」との物語だ。
古びたエレベーターの中での動作や会話、そして閉店に伴う急展開による悲しい結末。
イービーの姿は、エレベーターの中でその存在を強調しないほど小さく特殊な形態であるが、仕事は完璧である。それ以上の望みも持たない。
その生き方を見つめる「私」の目は情愛に溢れているが、イービーの小さな箱の上げ下げに終始する有り様は宿命の悲しさに見えて、切ない。
現実としてはあり得ない描写が鮮やかに浮かび上がってくる文章も、物語の筋の中で違和感を覚えないのは、ある種、白日夢の世界と呼んでもいいかもしれない。
題名には「夜明け」が名づけられているが、真夏の昼下りに寝転んで読むのにも、なかなか適している。