すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

平凡で劇的な誕生日の物語

2012年03月06日 | 雑記帳
 今年は啓蟄と重なった我が誕生日。

 秘かに「誕生日休暇」をとろうと目論んでいたが,週明けでしかも例年より仕事が詰まっているので,そうもいかなかった。
 娘も研修に出かけ,家人と二人だけということになる。しかし,月曜であるし外食という気にもならないので,ふだん通りの平凡な一日となろう。

 さほどインフルエンザも広がりを見せず,ほっとした月曜の朝である。。
 9時頃から卒業証書の氏名書きを開始した。合間にいくつかの用事を果たし,午前中で半分以上進んだ。
 給食,昼休み後の読書の時間を使って,中学年が音読交流会をするというので,聴きに行く。
 三年生は「百人一首」,四年生は今まで学習してきた「詩」の発表。中学年らしい溌剌さがあった。結構なレベルだったと思う。

 午後からは証書の続き。ざあっと完成させ,あとは後日に確認することにする。その後,学校報に取り掛かり7割方スペースを埋めた。
 退勤後,行きつけの書店で文庫本2,コミック1,雑誌1を購入。百円ショップで,卒業祝賀ビデオ!の小道具を一つ買い求め,帰宅した。
 
 家人はもうすでに夕食の準備に取り掛かっていた。
 ふと見ると,カウンターの上に一個のショートケーキがある。細い一本のろうそくが立ててある。

 さすが心優しき我が妻…別にケーキ好きではないが,やはり縁起物?でもあるし,形が欲しいのは誰しも同じであろう。用意するその心根が嬉しいではないか。

「あらっ,ケーキ」
というと,
「誕生日だもの」という返答があったが,妙に怪しい笑顔をする。
しばらく間があって,
「これ,昨日の」
という言葉。

「えっ,昨日?なに?」

「昨日の,向かいの…」
と濁している。

 えっ・・・・前日は,向かいの家のお葬式。午前から夜まで様々な式,供応があり・・・・ああ,このケーキは引き出物のお菓子・・・・
 驚愕の展開である。

「それは,ないべえぇぇ」

「だって,食べなきゃいけないし…。92歳で天寿を全うした御祖母さんにあやかれるかもしれない」

 素晴らしい言い訳である。微笑みながら言うな。


 その後,初老夫婦二人の食卓の前に置かれた,小さな紫色のショートケーキ。
 細い一本のろうそく。

 「ハッピーバースディ」と軽く言って,火を吹き消す前に合掌してみせると,思わず笑いがこぼれ,終いに吹き出してしまった。

 その息で,ろうそくの火が消える。

 延命長寿は約束されたか。

 乾杯。