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「でっちあげ」に引きずられないために

2012年03月07日 | 読書
 教員に薦めたい本である。
 いわゆる教育書ではないが、これは読んでおいて損はないだろう。

 『でっちあげ ~福岡「殺人教師」事件の真相~』(福田ますみ 新潮文庫)

 かすかにそんな事があったかなと頭の隅で思ったぐらいだった。
 もしかしたら,教育界ではかなり有名なことなのかもしれない。

 新聞でも週刊誌でもワイドショーでも取り上げられたらしいが、遠くの地で起こった、とんでもないことをする教師もいたもんだといった程度でしか受けとめていなかったのだと思う。

 しかし、「史上最悪の教師」と題された序章を読めば、やはりこれは本当のことなのか、あり得ることか、真相とは何だ…と思わざるを得ない。それだけ語られた「報道の事実」は強烈だ。

 そして読み進むにつれて、どうしてそうなるのか、どこで間違えたのか、どこで止めればよかったのか、あの時ああすればよかったのに…といった対象への同化感情がわき起こったり、少し醒めた目で、原因はあそこだった、この人の姿勢が問題だ…といった分析的な視点で見えたりする内容だった。

 こうした裁判に関わるドキュメントという性質上似たような記事や陳述が何度も繰り返されるのが気になるが、それが逆に作者の根掘り葉掘り的な作業の緻密さを表しているのかもしれない。

 読みながら考えさせられるのは、大きく二つ。

 学校及び教育界の抱える体質に対して、教員個人が備えておかなければならないことは意外と多く、かなり綿密であるべきだということ。

 もう一つは以前から言われているが、マスコミはいつの場合も結論を決めてかかって取材することが多いということ。

 そして大事なのは、職場であれ、プライベートであれ、周りに信頼して相談する人がいることのように思った。
 そのごく平凡なことに気づき、その平凡なことさえ大事にできない日常を送っていないか、そんなことも気になる。

 とにかく、このような事件があり,このような顛末となり、その時学校を含めた周囲はこう動いたという貴重な一例を知るだけでも、価値は高い。

 (注:ネット検索をしてみると,この著書自体が「でっちあげ」だと論ずるサイトもある。出版社同士の諍いや宗教関係も絡んでいるような気配で,「真相」にはたどり着けてはいないかもしれない,という思いが残った。)