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桜と絵本と豆乳と

工場で紡がれた言葉

2013年02月07日 | 読書
 『短編工場』(集英社文庫編集部編)

 冬休み中に読み始めたと思うが、遅々として進まなかった。
 短編はぱっと読めるけれども逆にぱっと止められるので、中編、長編に比べれば続けて一気にとはいかない。便利でもある分あまり懐かないという感じなのか……。

 さて、この文庫は12人の著名な作家が、文芸誌『小説すばる』に発表したもの(その後単行本に収められているものも多い)である。2000年から2008年が初出となっている。
 半分程度の作家は読んだことがあるし、個人的にフェイバリットとしている作家もいる。
 しかし読了して改めて思うのは、総じて「流行作家」それも直木賞、同候補の方々が多いのだが、素材が似通ってきている(どこかで読んだという意味で)なあということである。

 そんなに小説読みでない自分が、そんな単純に言っていいかという気もするが、なんだか飽き気味ということもあるかもしれない。


 さて、そんななかで目を惹いたのは、乙一という作家の著した『陽だまりの詩』という作品。
 「アンドロイド」(?)とそれを作った「人間」の心の交流を描いたもので、それ自体はよく取り上げられる内容でテーマも珍しいとは言えないだろうが、設定の独自性や文体に特徴があり、面白かった。
 「死」を焦点化し、それに対する恐怖がどうして生ずるかを考えるとき、「心」のどの部分の感情が最も対象となるか…あまり考えなかったなあと素直に思った。
 この文の意味を考えられただけでも価値は大きい。

 愛と死とは別のものではなく同じものの表と裏だった


 最後に収められた『約束』という村山由佳の小説は、子ども時代の仲良しの子の病気と死をめぐって、仲間と一緒にタイムマシンづくりをする主人公の葛藤と成長を描いた作品だ。
 重松清が書きそうな内容で、このタイトルだとこうなるだろうと予想してみたが、少しずれた結末となり、さすが作家殿ですなあと思った。

 何気ない一言だが、友達の隣のベッドの「おっさん」が、名文句を語っている。

 「不公平」ってのはもしかして、「人生」ってやつの別の呼び方じゃねえか

 大人になった主人公が、現状を語る一言に、対応することばがある。

 なるほど、人生は不公平というか、案外公平というか。

 具体例も出さずに、こんな言葉遊びのような引用をしても仕方ないが、これに関わる実例なら、周囲を見渡せば腐るほどあるだけに、その必要もあるまい。

 ちなみに、たまたま読んでいた雑誌で見つけた一言が、今の時点の自分の感覚に一番近いかな。

 人生は不平等だが公平だと思う。

 短編でも長編でも、小説の工場で紡がれる言葉の中にはいろいろなタイプがある。
 
 愛用できる品選びをしているみたいだ。