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「きく」は手ごたえ

2013年02月10日 | 雑記帳
 2012年最も売れた本として年末あたりに挙がっていたので,気にはなっていたが,『聞く力』(阿川佐和子 文春新書)には手が伸びなかった。
 阿川の軽妙な文体は嫌いではない。しかしなんとなく予想できるイメージが強いというかなんというか……。

 お気に入りの連載「とかなんとか言語学」で,橋秀実がそのミリオンセラーの読後感をこんなふうに言う。

 全体的にホステスの心得のような印象

 なあるほど。うまいことを言うなあ。
 ビジネス書で関連の本を読んだときのことを思い出せば,確かにそんなこともある。よく「超売れっ子ホステスが教える聞き上手のコツ」なんていう本もあるくらいだから,当然なのかもしれない。

 橋の連載の内容は,別にその書評ではなく,「きく」ということの本質について述べている。実に興味深いことだ。

 特に面白いのは,古語辞典などから得られたこととして紹介してあることだ。
 「きく」には「聞く」「聴く」「訊く」があり,それらが同系列であることは簡単に理解できる。
 ところが,それ以外の「効く」「利く」も同源らしいというのだ。

 『古典基礎語辞典』(角川学芸出版)によると,次のような意味を共有しているらしい。

 「神経を働かせて物事の感じを試し,その手ごたえがわかる」

 この意味で括れば,確かに直接言語をつかって「きく」ことも,そうでない場合の「きく」も該当するようだ。

 子どもたちに教える場合も,たしかに「うなずき」を一つの技術として示したりする。
 それはそういう動作は応答の一歩であることを強調しているのだが,肝心なのは「神経を働かせる」ということであり,そういうことを時々確認しないと,やはり小手先だけになってしまうなあ,と改めて感じる。

 「きく」は「手ごたえ」のことと解すると,実に明快になってくる。