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桜と絵本と豆乳と

ど真ん中にストレートな一冊

2021年09月11日 | 読書
 一昨日の『マイ仏教』を変化球やスローボールを使い分けて「読者」を打たせてとるタイプとすれば、この新書はまさにストレート一本で丁寧にコーナーをつくような感じだ。日本の実業界を牽引してきた稀代の読書家は、生きることの根源を探り、人間とは何かと問い続ける。経験に裏打ちされた説得力ある一冊だ。


『人間の本性』(丹羽宇一郎 幻冬舎新書)


 「人間は所詮、動物です」という諦観をもとに、いかに「動物の血」をコントロールして生きるべきかが語られる。「足るを知る」という字句はよくもち出される。そして「分相応」といったニュアンスで受け取られがちだが、著者は老子の原典から一つ高い観点を示す。「足るを知る者は富む、強めて行う者は志有り


 この前段「人を知る者は智なり。自らを知る者は明なり。人に勝つ者は力有り。自ら勝つ者は強し」を引用し、「足るを知る」ためには「己をよく知り、己に勝たなくてはいけない」と解釈する。つまり今に甘んじることを肯定するのではなくて、「自分をよく知る」ことが肝心の条件であり、そのうえで心は満たされる。


 3年前、老子の国より「帰国」した日

 この国では、もはや死語と化しているのではないか。「清く、正しく、美しく」。著者は死に体の会社をまかせられたとき最初に提案したことが、その実行だった。「きれいごと」より「きたないこと」の方がまかり通る世の中で大変なことは承知のうえで、「しかるべき行動と情熱を伴っていれば、必ず通用する」という。


 最後に「不都合な真実」への向き合い方について語る。癒着、汚職、改ざん等々、慣れきってしまった目を洗うように促される。「歴史は、不都合なことを隠す為政者などの勝者によって常に書き換えられる宿命を持っている」…この現実に対して諦めるか、抗うか。「清く、正しく、美しく」とど真ん中に直球を投げてくる。