丸谷才一氏が対談の中で、こう語っていたことがありました。
「ぼくは、辞書は書評の対象として非常に大事だと思うんですよ。普通の読者が買う、いちばん高い本は辞書です。しかも地方の書店には実物が揃っていないことが多い。すると書評が購入の基準になる。・・・ところがそれを一般の書評は取り上げない。理由のひとつは面倒だからですね。それから辞書は書評欄では取り上げない、という不文律のせいもあります。」(「今週の本棚」の11年・和田誠氏との対談)
さてっと。3月3日の読売新聞二面の下に、広辞苑の広告が載っておりました。「広辞苑を贈ってくれた人のことは、忘れない。」という文字がありまして、それより小文字で「お祝い・贈りものに、広辞苑 第六版。新たに1万語を収録し、10年ぶりの大改訂。」とあります。10年ぶりといえば、うるおぼえですが10年前の広辞苑広告では、作家の推薦文が載っていたような気がします。大江健三郎・井上ひさし等々の名前が踊っていたような気がしますが、どうでしたでしょう。そういえば、今回は推薦人の名前がないなあ。と、ふと思ったりします。
最初に引用した丸谷才一氏の言葉は、毎日新聞の読書欄「今週の本棚」の紹介パンフレットに掲載されていた対談の言葉です。的確なことを指摘しておられるのですが、ところで、昨年の暮から大々的に広告していた「広辞苑」について、どうやらしっかりとした書評は、どの新聞書評もしておられないようです。
もしも、広辞苑を買うかどうか、お迷いの方がいましたら、おすすめの書評が出ております。「正論」2008年4月号に、渡部昇一氏が9ページの書評を展開しております。机上版が12600円で普及版が7875円(どちらも税込み)のお買い物です。もしも買おうかどうか、お迷いでしたら、680円の雑誌「正論」の出費など安い安い。
9ページの書評から、半ページだけ引用するのは、もったいない気もするのですが、チラッと紹介するのも、後学のためになるでしょう。ということで、すこしぐらいは引用させてください。
「私は、広辞苑が六版まで版を重ねていることにむしろ喜びを感じている。(イギリスを代表する辞書である)ブリタニカは初版から約二百年間、私はそのすべてを持っている。各版が何を書いたか。それを見れば、その時代の思想や事情がよくわかる。・・・・それを考えると、五版(1998年)から十年間で、日本人にとって最も記憶に刻むべき事件であった、日本人拉致事件(2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝で、金正日総書記がこれを認めて謝罪)が盛り込まれていないのは、何ということか。まさに許しがたい。広辞苑には中国の地図まで載っているが、台湾は『台湾省』にされている。総選挙によって成り立っている台湾を省というのはけしからん話である。・・・もっと許し難いのは【台湾】の項の記述である。単なる島扱いしかしていないことは、最近の学研の地球儀などでも問題になったが、広辞苑は記述の方も間違い・・・」
ところで、辞書といえば、もうひとつ紹介したい書評がありました。はじめて買った雑誌なのですが、「一個人」2008年3月号。特集が「大人の読書案内・人生、最高に面白い本」。そこに谷沢永一氏の「日本の常識をくつがえす名著7冊」というのが載っておりました。その7冊のなかに谷沢氏は「新潮日本語漢字辞典」を入れております。その辞典について谷沢氏の文は短いですから、丁寧に引用してみましょう。
「・・漢和辞典の歴史を変えたといっても良いくらい、画期的な辞典です。・・日本人の使用法に基づいて編まれた、初めての漢和辞典です。日本での漢字の使われ方や用法が、日本語の用例を用いて解説され、『秋刀魚』『炬燵』など、日本でしか使われない言葉もふんだんに載っています。外国で生れた言葉を輸入・翻訳し、自国の言葉として使う際には、多かれ少なかれ混乱をきたすものです。たとえば『日本国憲法』の原文は英語で書かれていますが、『religion』をそのまま『宗教』と訳したことが、軋轢のもとになっています。英語のレリジョンは、『ひとつの宗派を固く守ること』を意味しますが、この辞典に載っている日本語の『宗教』の解説は、『神仏または神聖とされるものに関する信仰』となっています。『レリジョン』の意味に基づくなら、たしかに政治家の靖国参拝は違憲となるのでしょう。しかし、日本語の『宗教』の意味ならばなんら問題はないわけです。同じものを表しているはずの言葉でも、正確に訳すと意味がまるで違う、ということはままあることです。その昔、外国語であった文字が日本語になっていく過程にも、さまざまな意味の変化がありました。日本人が漢字を吸収し自分のものとしていった歴史を、しみじみと考えさせられる一冊です。」
この新潮日本語漢字辞典、昨年2007年9月発売。一万円で小銭のお釣りがくる価格です。私には買えないなあと、思っていたのですが(笑)。いちおうですね、ネットで確認してみたのでした。すると現在は品切れ。そして古本の価格が出ておりまして、何と15500円となっております。ちなみに、広辞苑机上版は2008年1月11日発売で12600円。ネット安値で9808円となっておりました。なんだか連想として、テレビの「開運!何でも鑑定団」を私は思い浮かべておりました。
追記。広辞苑については、以前2008年2月4日にこのブログで「イケメン・いけ面。」と題して書いたことがありました。
「ぼくは、辞書は書評の対象として非常に大事だと思うんですよ。普通の読者が買う、いちばん高い本は辞書です。しかも地方の書店には実物が揃っていないことが多い。すると書評が購入の基準になる。・・・ところがそれを一般の書評は取り上げない。理由のひとつは面倒だからですね。それから辞書は書評欄では取り上げない、という不文律のせいもあります。」(「今週の本棚」の11年・和田誠氏との対談)
さてっと。3月3日の読売新聞二面の下に、広辞苑の広告が載っておりました。「広辞苑を贈ってくれた人のことは、忘れない。」という文字がありまして、それより小文字で「お祝い・贈りものに、広辞苑 第六版。新たに1万語を収録し、10年ぶりの大改訂。」とあります。10年ぶりといえば、うるおぼえですが10年前の広辞苑広告では、作家の推薦文が載っていたような気がします。大江健三郎・井上ひさし等々の名前が踊っていたような気がしますが、どうでしたでしょう。そういえば、今回は推薦人の名前がないなあ。と、ふと思ったりします。
最初に引用した丸谷才一氏の言葉は、毎日新聞の読書欄「今週の本棚」の紹介パンフレットに掲載されていた対談の言葉です。的確なことを指摘しておられるのですが、ところで、昨年の暮から大々的に広告していた「広辞苑」について、どうやらしっかりとした書評は、どの新聞書評もしておられないようです。
もしも、広辞苑を買うかどうか、お迷いの方がいましたら、おすすめの書評が出ております。「正論」2008年4月号に、渡部昇一氏が9ページの書評を展開しております。机上版が12600円で普及版が7875円(どちらも税込み)のお買い物です。もしも買おうかどうか、お迷いでしたら、680円の雑誌「正論」の出費など安い安い。
9ページの書評から、半ページだけ引用するのは、もったいない気もするのですが、チラッと紹介するのも、後学のためになるでしょう。ということで、すこしぐらいは引用させてください。
「私は、広辞苑が六版まで版を重ねていることにむしろ喜びを感じている。(イギリスを代表する辞書である)ブリタニカは初版から約二百年間、私はそのすべてを持っている。各版が何を書いたか。それを見れば、その時代の思想や事情がよくわかる。・・・・それを考えると、五版(1998年)から十年間で、日本人にとって最も記憶に刻むべき事件であった、日本人拉致事件(2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝で、金正日総書記がこれを認めて謝罪)が盛り込まれていないのは、何ということか。まさに許しがたい。広辞苑には中国の地図まで載っているが、台湾は『台湾省』にされている。総選挙によって成り立っている台湾を省というのはけしからん話である。・・・もっと許し難いのは【台湾】の項の記述である。単なる島扱いしかしていないことは、最近の学研の地球儀などでも問題になったが、広辞苑は記述の方も間違い・・・」
ところで、辞書といえば、もうひとつ紹介したい書評がありました。はじめて買った雑誌なのですが、「一個人」2008年3月号。特集が「大人の読書案内・人生、最高に面白い本」。そこに谷沢永一氏の「日本の常識をくつがえす名著7冊」というのが載っておりました。その7冊のなかに谷沢氏は「新潮日本語漢字辞典」を入れております。その辞典について谷沢氏の文は短いですから、丁寧に引用してみましょう。
「・・漢和辞典の歴史を変えたといっても良いくらい、画期的な辞典です。・・日本人の使用法に基づいて編まれた、初めての漢和辞典です。日本での漢字の使われ方や用法が、日本語の用例を用いて解説され、『秋刀魚』『炬燵』など、日本でしか使われない言葉もふんだんに載っています。外国で生れた言葉を輸入・翻訳し、自国の言葉として使う際には、多かれ少なかれ混乱をきたすものです。たとえば『日本国憲法』の原文は英語で書かれていますが、『religion』をそのまま『宗教』と訳したことが、軋轢のもとになっています。英語のレリジョンは、『ひとつの宗派を固く守ること』を意味しますが、この辞典に載っている日本語の『宗教』の解説は、『神仏または神聖とされるものに関する信仰』となっています。『レリジョン』の意味に基づくなら、たしかに政治家の靖国参拝は違憲となるのでしょう。しかし、日本語の『宗教』の意味ならばなんら問題はないわけです。同じものを表しているはずの言葉でも、正確に訳すと意味がまるで違う、ということはままあることです。その昔、外国語であった文字が日本語になっていく過程にも、さまざまな意味の変化がありました。日本人が漢字を吸収し自分のものとしていった歴史を、しみじみと考えさせられる一冊です。」
この新潮日本語漢字辞典、昨年2007年9月発売。一万円で小銭のお釣りがくる価格です。私には買えないなあと、思っていたのですが(笑)。いちおうですね、ネットで確認してみたのでした。すると現在は品切れ。そして古本の価格が出ておりまして、何と15500円となっております。ちなみに、広辞苑机上版は2008年1月11日発売で12600円。ネット安値で9808円となっておりました。なんだか連想として、テレビの「開運!何でも鑑定団」を私は思い浮かべておりました。
追記。広辞苑については、以前2008年2月4日にこのブログで「イケメン・いけ面。」と題して書いたことがありました。