和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

正月の羽根つき

2024-11-15 | 道しるべ
ネットで古本を注文する際、有難いことに表紙画像を確認できる。
アマゾンだと、それを拡大できて、帯の文句まで読める。

ちょっと前でしたが、庄野潤三著「丘の明り」(筑摩書房)。
これが凾入りで帯があり、その帯をよめました。

「   庄野潤三作品集    永井龍男

   庄野潤三という人は、日本の作家の
   誰も持っていない境地を切り開いた。
   しかも、実に静かにだ。
   たとえばこの集の中にも、
   『 秋風と二人の男 』のような
   神品がおさめられている。
   こういう小説が書けたら、
   どんなにたのしかろうと思うが、
   この人のほかには絶対に、誰にもかけない。   」


「丘の明り」(筑摩書房・昭和42年発行)。
各文芸雑誌などに掲載された作品をまとめた一冊でした。
ちなみに、定価は1円+送料350円=351円。
はい。買っちゃいました。

ちなみに、私は庄野潤三の小説は未読。
ただし、庄野氏の学生時代の先生が詩人の伊東静雄であり、
私は詩人を先生に持つ庄野氏がどのような作品を書くのか、
気になっておりました。それで帯の文句に惹かれたのです。

こういう場合、他の作品にも手がでてしまいます。
庄野潤三随筆集「自分の羽根」(講談社・昭和43年)も購入。
随筆集をひらくと、まずは表題となった「自分の羽根」を
読む。はい。4ページほどですから、すぐに読めちゃう(笑)。
そのはじまりを引用。

「 先日、私の娘と部屋の中で羽根つきをやった。
  冬休みがもう終りになるという頃だった。
  小学五年生の娘は、
  私が一日机の前で浮かぬ顔して仕事をしているのを見て、
  運動不足になることを心配したらしい。

  『 羽根つきをしよう 』 という。
  『 もう外は真っ暗だよ。 それに庭はドロンコだ 』
  『 部屋の中でやれるよ 』

  本当にやれるかと私は危ぶんで立ち上ったが、
  なるほどやって見ると、出来る。
  少しつき合いをしているうちに、
  ひとつどれだけ落さずに続けられるか、
  やってみようということになった。

  一番長く続いたのが五十回で、
  あとは大抵三十回にならないうちに
  どちらかがしくじった。・・・・・・・・

  ・・・弧をえがいて落ちて来る。その動きがきれいである。
  『 いいものだなあ 』と思いながら、私は打ち返していた。

  『 われわれの先祖はたしかにすぐれた美感を持っていた。
  お正月の女の子の遊びに、羽子板でこういうものを打つことを
  考え出すなんて。まるい、みがいた木の先に鳥の羽根をつけて、
  それでゆっくりと空に飛び上って行き、落ちて来るまで
  全部見えるようにこしらえるとは、よく考えついたもんだ! 』

  いい年をした親父になって、今ごろこんなことを
  感心しているのは、あまり賞められたものではない。   」(p185~186)

  
はい。これは随筆の始りの箇所で、これからが読みどころなのでしょうが、
私には、この箇所が読めればじゅうぶん(笑)。

さっそく、「日本のわらべ歌全集24・佐賀長崎のわらべ歌」(柳原書店)の
この箇所が思い浮かびました。最後にそれを紹介して終ります。

「 佐賀の子供たちは、初正月のお祝いにもらた羽子板で、
  手製の羽根をついて遊んだ。

  明治の頃までは、現在のように二人がつき合うのではなく、
  一人で羽根を落とさないように、何回つけるかを較べあうものであった。

  その頃の佐賀では、子供のいる家では、
  羽根つきの羽根は、たいてい手製であった。
  それはお正月の主料理に鴨(かも)が多くて、
  どこでも鴨の羽毛があったからである。

  冬になると有明海に鴨が渡って来て、鴨猟がはずむ、
  暮れの街には、乾物や荒物を売っている店にも
  鴨がぶら下がり、お歳暮用に売られていた。

  子供たちは、ムクロ(無患子・むくろじ)の木の
  黒くてかたい実に小さい穴をあけ、
  むしった鴨の羽根の中から一番形のいいものを選んでさしこみ、
  クサビを打ちこんで抜けないようにする。
  かたい羽根はシンに、柔らかい羽毛はフワリと落とすための
  抵抗にというふうに気を使ったようである。・・・    」(p46)


うん。この説明のあとにある、羽根つき歌も最後に引用しておきます。


       大黒さんという人は   ( 羽根つき )

      大黒さんという人は
      ここのお国の 人でなし
      天竺天から 舞いおりて
      一つ俵を ふんまえて
      二つにっこり 笑うて
      三つ盃 さしよって
      四つ世の中 よいやさ
      五ついつもの ごとくなり
      六つむくろじ 手にすえて
      七つ何事 言わしゃんす
       ・・・・・・・・・
       ・・・・・・・・・


コメント
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