和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

知的生産。知的正直。

2021-06-22 | 本棚並べ
加藤秀俊著「整理学」(中公新書・1963年)
板坂元著「考える技術・書く技術」(講談社現代新書・1973年)

はい。「整理学」の出版から10年後に、
板坂元氏の新書は出ておりました。

加藤秀俊氏の著作は、そのあとにも中公新書で、
ぞくぞくと出ているのでした。

加藤秀俊著「見世物からテレビへ」(岩波新書・1965年)。
これは、どうしてか岩波新書から出ております。
あとがきの最後には、こうあるのでした。

「・・こうして岩波新書の一冊として出版されるにあたっては、
岩波書店の田村義也さんの献身的努力にすべてを負っている。
ありがとう。
   昭和40年祇園祭宵山の夕    加藤秀俊    」


さてっと、時は過ぎます。
加藤秀俊著「メディアの展開」(中央公論新社・2015年)が
出ておりました。そのあとがきの最後の方に、こうあります。

「気がついたらおやおや、いつのまにやら
 わたしは85歳になっていた。」(p612)

はい。あとがきを引用したら、はしがきからも引用。
こんな箇所がありました。

「・・わたしは落語・講談を基礎教養として、
八、熊、与太郎を友として育ってきた人間である。

みずから徳川時代、とりわけ『江戸』という都市を
経験してきた者だと自負している者である。・・・・

『見世物からテレビへ』以降の雑多な著作のなかでも
ずいぶん徳川期の書物などを引用しているけれども、

あれは手当たり次第に発見した文献をもっともらしく参照していただけで、
本格的にあれこれの書物を完読したわけでもなかったし、たとえば
天明狂歌の仲間たちのように同時代人たちのこまやかで愉快な交友など
をしらべることもなかった。・・・・・

若気の至り、といって弁解することもできようが、
いま再読してみるとわれながら恥ずかしい。・・・・・

わたしはあらためて『江戸時代年代表』を机のまえにかかげ、
それと首っ引きであれやこれやの随筆類に目をとおすことにした。

・・・・その結果、元号からいうと、どうやら享保から天明に
かけてのおよそ一世紀、つまり18世紀にかなりおおきな
社会変動と文化革命があったような気がするようになってきた。
・・・・」


はい。ここにある『再読してみるとわれながら恥ずかしい』
なんて、ふつうは、なかなか、言えないですよね。
板坂元著「考える技術・書く技術」の最後の方に、

「学者というものは、自分の知らないことを
はっきりと知らないと言えるようになったとき、
はじめて一人前になったと言われるものだ。

自信がなければ、知らないとは言いにくい。・・・
けれども、それを公然と言えるようにならなければ
一人前とは認められないのだ。」(p202)

はい。それじゃ、いつまでたっても、私は一人前にはなれない。
そう思うと、恥ずかしい。

ちなみに、板坂元氏は、文学部国文学科卒で江戸文学専攻。
それでなのでしょうね。この引用した文の少し前にこんな箇所。

「わたくしどもの日本古典の分野では、
活字の本でやる勉強は、勉強のうちに入らない。
入らないことはないけれども、活字になった本だけでは
資料が不十分で、どうしても昔の写本やら刊本を読まなければ
事足りないのだ。・・・」(p199)

とあるのでした。
はい。85歳で本を出版した加藤秀俊氏は、
その本のなかで堂々と書いておられます。

「わたしはまともに漢籍が読めないし、古文書もほとんど読めない。
いくらか勉強したこともあるが、結局のところ『活字人間』だから
古い本も明治以降に活字本になったものしか読んでいない。

じっさい、『徒然草』などは中学生のころから
なんべんも読んできたが、すべて活字本。・・・・

塙保己一(はなわほきいち)記念館で整版の『徒然草』を
拝見したのは眼福であったが、あれをスラスラ読むだけの能力はない。

そんなしだいで・・・それら古本の読解力がない。まことに情けない。
えらそうに日本の古典から引用しているが、モトになっているのは
『日本古典文学大系』『日本随筆大成』以下もろもろ、
すべて現代の『活字』になったものだけ。

中野三敏さんの命名なさった『和本リテラシー』は
わたしのばあいかぎりなくゼロにちかいのである。
まことにはずかしい。」(p258~259)

はい。加藤秀俊著『メディアの展開』の副題は
「情報社会学からみた『近代』」とあり、
これがどうして、めっぽう面白いんです。

うん。その面白さが引用できますように。
はい。請うご期待。




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