地震は大陸の地殻(大陸プレート)の下に大洋の底の地殻(海底のプレート)がもぐりこんだために起きるという説が有力です。堅い海底の地殻が堅い大陸の地殻の下に滑り込むのですから界面はギザギザに割れ、ストレスがある部分に溜まります。それが大きくなり過ぎて突然破壊と断層滑りが地下深くで起きます。当然大きな揺れが起き、それが地表へ伝わって地震となります。
大きな海底の上下の揺れが起きれば大津波が起きます。
仮設とは言え、原因がこれほどはっきり分かっているのに地震の予知は殆ど不可能です。不可能な理由は2つあります。
第一の理由は、岩石が割れる現象は脆性破壊という種類の破壊で、その破壊を起こさせる力は何回測定しても再現性が無い事です。測定値は岩石の中に無数に存在している微細な割れの分布の仕方で変化します。この微細な割れを英語ではマイクロ・クラックと言います。このマイクロ・クラックの分布は複雑で科学的予測が不可能なのです。熔解した火山岩が冷えて固まる過程でマイクロクラックが出来ます。堆積岩が水底で出来る過程でマイクロクラックが岩石中に複雑に分布します。
余談ながら鋼鉄線を引っ張ると初めは弾性伸びをします。もっと力を加えて行くと塑性伸びをして終いには塑性破壊をして切れてしまいます。こういう種類の破壊をする金属材料の引っ張り実験をして見るとその切断力の測定値は何時も一定しています。
この実験的事実を考えると海底での岩石の脆性破壊による地殻変動は科学的な予測が不可能な事が理解出来ます。
第二の理由は、大陸プレートと海底のプレートの界面は地下数十キロ以上と深いので局部的なストレスの溜まった場所を探すことが不可能なのです。
下の写真の真ん中近辺に横長の四角を描いた所が3ケ所あります。そこが地震の発生源になり易い大陸プレートと海底プレートの境目です。素人の私が描き込んだので正確ではありませんが大体正しいと思います。
この3ケ所の四角形の下に線が引いてあります。この場所が地震発生の可能性がある場所を示す線です。
海底の地殻(海底プレート)がゆっくり動くのは地球の内部で熔けているマントルが流れ動いているからです。太平洋プレートは毎年10cm位西へ動くそうです。
下の写真は太平洋海底プレートとフィリッピン海プレートが西方向へ動いてユーラシア大陸プレートの下に潜りこんでい様子を示しています。潜り込むとき、海底が削り取られ日本列島が出来あがっている様子をご理解下さい。
今回の大地震と大津波は悲しい事態になりました。先日、つくば市のそばへ行きましたので地質標本館によって地質模型を見て来ました。海底が剥ぎ取られたり、隆起して出来た島々が日本列島です。暗い気持ちで地質標本館の専門家の説明を聞いて来ました。
地震と津波は現在の地質学や地震学では絶対に予測がつかないのです。太平洋岸だけで起こるのか、日本海でも起こるのか予測がつきません。兎に角海があれば何時かは津波が起きると考えた方が良いのです。
私は仙台に生まれ22歳まで育ちました。三陸地方には津波があるが、仙台平野には津波が無いと教わって育ちました。しかしそれは間違った教えだったのです。仙台平野へは弥生時代と950年ころの貞観時代に大津波がありました。今回のように海岸から5km以上も内陸まで津波の運んだ砂礫層が明快に残っているそうです。
したがって海岸に危険な工場を建設する人々は、もう一度地質学を勉強し直して、その限界を正しく理解した上で工場を建設すべきです。今回の福島原発の建設に関係した人々が「地震や大津波は絶対に予測出来ない性質の自然現象だ」という事実を理解していなかったのでしょう。実は私も理解していなかったのです。自戒を込めて地質学の重要性が分かった次第です。地質学に興味を持ったのは引退して暇になってからです。専門家は、現役の間はとかく専門バカになり地質学を無視しがちです。明治維新とほぼ同時に当時の政府が欧米の地質学者を招聘して地質調査所を作った賢さに頭が下がります。是非一度、つくば市にある「地質標本館」を訪問して見て下さい。(終り)
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