先立つ不幸者

まったくどういうことにしろ
先に死ぬってことはないだろう
そりゃあ、あんただって言い分はあるだろうけどさ
お袋さんを置いて死んじゃだめでしょ

勿論、好きでガンになるやつは、いないけどさ
それでも、これはないだろうってことさ
お袋さん、ぽつんと座っていたよ、遺族席にさ

まったくあんたは・・・
あんただって残念無念と思っているだろうけどさ
後悔先に立たずってこともあるさ
この世の中には

まあ、あんたもちょっと
酒に溺れすぎたんじゃないか
飲みたくなるけどさ、こっちだって
この生きにくい世の中じゃさ

まったくあんたってヤツは
ホント、迷惑かけすぎじゃないの

でも、辛いよな、お袋さんも、兄さんもさ
でも、一番辛いのはあんただよな、きっと

見ろよ、次々と弔問客が
あんたのためにこんなにたくさん・・・
あんたみたいなヤツにこんなにも・・・

まあ、この１年間は大変だったろうけどさ
見舞いにも来なくて悪かったよ

そうそう、職場の、あんたが提案した時計
反対するヤツもいたなかでさ
あんた一人何だか張り切って備え付けたあれ
今日で取っ払って、新しいのになったよ
電波時計とさ、交換で

でも何だか寂しい気がしたさ
あんたが死んで、時計もなくなってってさ
まだまだ動くヤツだから
人知れず動き続けるのかね、電池のなくなるまでさ

生きてるときは、あんたも好き嫌いが激しかったけど
今晩は別！
そう思って、飲もうにも
この雨じゃ待ってられないよ
これで失礼するよ
まったくあんたってヤツは、死ぬときまで人に迷惑・・・
オレもホントは寂しく辛いんだ

元同僚が死んだ。
土砂降りの雨の中、通夜の席に出かけた。
たくさんの人たちが別れを惜しんで、雨の中を並んだ。
私よりも若いヤツ。
どうして死に急ぐんだ！
生き急ぐんだ！
赤ら顔の、本当は憎めないヤツが、死んだ。
今晩は、少しばかり供養の酒を飲むとするか。