「カタバシス」所収の「夏目漱石『それから』が投げかけ続ける問題」を読む前提作業として「それから」を読む。確か中学時代に読んだきりで、映画も見たような記憶があるが、内容はほとんど忘れてしまっている。
まあ、さすがに小説の中に「社会」が息づいている。日本だけでなく、当時の世界大の出来事が背景に浮かんでくる。例えば、
「何故働かないって、僕が悪いんじゃない。つまり世の中が悪いのだ・・・日本は西洋から借金をしなければ、到底立ち行かない国だ。それでいて、一等国を任じている・・・」
村上春樹氏の小説とは好対照である。
ひとつ、目が点になるほど驚いたのは、主人公の代助が、友人の妻である美千代に惹かれる余り、父や兄らが強引に推し進める縁談を断ろうと考えているところ(新潮文庫版p211)。
「彼は美千代と自分の関係を、天意によって・・・発酵させることの社会的危険を承知していた。・・・彼は又反対に、美千代と永遠の隔離をを想像してみた。その時は天意に従う代わりに、自己の意志に殉ずる人にならなければ済まなかった。彼はその手段として、父や兄嫁から勧められていた結婚に思い至った」
ここで重要だと思うのは、自己と社会との相克が明確に捉えられていないことである。代助は、天と社会を対立するものとして把握しておききながら、「天意」に従わないとすれば、「自己の意思」に殉ずるしかないという風に、自己と社会がいつの間にか同化している。「天」はもちろん「エス」を、「社会」は、「父」とあるところから明らかに「超自我」を、それぞれあらわしていることからすれば、自我が確立しないまま成人した人間だったのではないかと思われる。実際、代助は、父に対して違和感を抱きながら、明確に反抗したことが一度もないらしい。
そして、この代助の性格こそが、ストーリー展開の機動力となるのである。
まあ、さすがに小説の中に「社会」が息づいている。日本だけでなく、当時の世界大の出来事が背景に浮かんでくる。例えば、
「何故働かないって、僕が悪いんじゃない。つまり世の中が悪いのだ・・・日本は西洋から借金をしなければ、到底立ち行かない国だ。それでいて、一等国を任じている・・・」
村上春樹氏の小説とは好対照である。
ひとつ、目が点になるほど驚いたのは、主人公の代助が、友人の妻である美千代に惹かれる余り、父や兄らが強引に推し進める縁談を断ろうと考えているところ(新潮文庫版p211)。
「彼は美千代と自分の関係を、天意によって・・・発酵させることの社会的危険を承知していた。・・・彼は又反対に、美千代と永遠の隔離をを想像してみた。その時は天意に従う代わりに、自己の意志に殉ずる人にならなければ済まなかった。彼はその手段として、父や兄嫁から勧められていた結婚に思い至った」
ここで重要だと思うのは、自己と社会との相克が明確に捉えられていないことである。代助は、天と社会を対立するものとして把握しておききながら、「天意」に従わないとすれば、「自己の意思」に殉ずるしかないという風に、自己と社会がいつの間にか同化している。「天」はもちろん「エス」を、「社会」は、「父」とあるところから明らかに「超自我」を、それぞれあらわしていることからすれば、自我が確立しないまま成人した人間だったのではないかと思われる。実際、代助は、父に対して違和感を抱きながら、明確に反抗したことが一度もないらしい。
そして、この代助の性格こそが、ストーリー展開の機動力となるのである。