筑摩書房「現代の金融入門」(池尾和人)
金融機関が取引先を審査し、モニターすることによって遂行している役割のことを、「情報生産機能」と呼ぶ(p31)。とりわけ審査は金融機関にとって要の仕事である。「審査もなしに、ただお金を手渡すだけであるならば、誰にでもできることであって、わざわざ金融機関に頼むまでもないことである」(p26)
ここで私は不謹慎にも、吹き出してしまいそうになった。すくなくとも、10年前の日本の金融機関の審査は、「ただお金を渡す」のと大差なかったからである。
例えば、倒産した長期信用系銀行における、福島で問題を起こした某電力会社に対する貸付稟議書の記載は、「当社は●●電力である」のたった1行であったし、私がもと勤務していた金融機関では、2カ月弱かけて審査した結果、融資実行後数か月で倒産するというケースがときどきあった(売上を伝票や取引先照会で確認する作業も、資金繰り表を預金通帳と照合する作業も、怠っていることが明らかである。)。
メガバンクでは、現在では、オーソドックスな審査は全くやっていないと思う。取引先の決算書を、関連会社に整理させ、データ化し、ランク付けする。そして、当該ランクのデフォルト(延滞倒産)率から、適正な(つまり、倒産を見込んでも利潤を確保できる)利率をはじき出し、融資するのである。定量的分析の極致である。
ただし、ここで落とし穴がある。多くの企業の決算書は、多かれ少なかれ粉飾を含んでいるが、これは原則として加味されない。従来一部の金融機関で行われていた、職人芸的な決算書分析はなおざりにされている。定性的な分析作業をオミットすることで、コストを削減しようと考えているようである。
金融機関が取引先を審査し、モニターすることによって遂行している役割のことを、「情報生産機能」と呼ぶ(p31)。とりわけ審査は金融機関にとって要の仕事である。「審査もなしに、ただお金を手渡すだけであるならば、誰にでもできることであって、わざわざ金融機関に頼むまでもないことである」(p26)
ここで私は不謹慎にも、吹き出してしまいそうになった。すくなくとも、10年前の日本の金融機関の審査は、「ただお金を渡す」のと大差なかったからである。
例えば、倒産した長期信用系銀行における、福島で問題を起こした某電力会社に対する貸付稟議書の記載は、「当社は●●電力である」のたった1行であったし、私がもと勤務していた金融機関では、2カ月弱かけて審査した結果、融資実行後数か月で倒産するというケースがときどきあった(売上を伝票や取引先照会で確認する作業も、資金繰り表を預金通帳と照合する作業も、怠っていることが明らかである。)。
メガバンクでは、現在では、オーソドックスな審査は全くやっていないと思う。取引先の決算書を、関連会社に整理させ、データ化し、ランク付けする。そして、当該ランクのデフォルト(延滞倒産)率から、適正な(つまり、倒産を見込んでも利潤を確保できる)利率をはじき出し、融資するのである。定量的分析の極致である。
ただし、ここで落とし穴がある。多くの企業の決算書は、多かれ少なかれ粉飾を含んでいるが、これは原則として加味されない。従来一部の金融機関で行われていた、職人芸的な決算書分析はなおざりにされている。定性的な分析作業をオミットすることで、コストを削減しようと考えているようである。