Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

安楽椅子派の聖地巡礼(10)

2023年11月04日 06時30分00秒 | Weblog
⑤ 山内埠頭、市営プール
 今朝彼らは弁当を持つて、神奈川区の山内埠頭まで出かけ、倉庫裏の引込線のあたりをぶらついて、いつものとほりの会議をひらき、人間の無用性や、生きることの全くの無意味などについて討議した、彼らはかういふ不安定な、すぐ邪魔の入るやうな会議場が好きなのだ。」(「全集9」p266)
 「登が首領のたのんで緊急会議を招集してもらつたので、六人は外人墓地下の市営プールに、学校のかへりに集まつた。 (p364)

 神奈川区の山内埠頭は、少年たちの定例会議の議場とされ、中区の市営プール:元町公園プールは、緊急会議の議場とされた。
 だが、ここにきて私は、この2つ以外にも議場があることに気づいた。
 それは、正月に少年たちが会議を開催した、新しい議場:山下埠頭である。
 ここには丸々一章(「全集9」p337~346)が充てられており、「コンテナ―の聚落」(p338)という呼称が与えられている。
 取材旅行の際に訪れた山下埠頭の印象(1冊目の「創作ノート」p634~636)が強烈で、三島としてはどうしても小説に登場させたかったのだろう。
 市営プールも同様と思われ、「創作ノート」では、続く2ページ(p637~638)が「水なきプール」とその周辺の描写となっている。
 ちなみに、「元町公園プール」は、フランス人のアルフレッド・ジェラールが湧水を利用した水道事業を開始すべく取得した土地を、ジェラールの会社が経営不振に陥った後に横浜市が買い取って、昭和5年6月1日、湧水を利用したプールとして開設したものである(「横浜もののはじめ物語」p125)。
 もっとも、「創作ノート」の「水なきプール」は、桜が終わった後の情景を記述したものだった。

 「外人墓地の岡を下って高島埠頭に向う辺りを取材した時は、ちょうど桜も終わりの頃であった。夕暮れに近くたまたま市民プールの横でわれわれは車を降りて一服した。シーズン・オフで水を落したプールの青く塗られた底に一面に散った桜の花辨が、つむじ風に舞い上がっていた。
 「これも桜吹雪っていうんだろうか」
 三島はメモを取りながら振り返って言った。
 このときの情景を三島は作中で、第二部の「冬」の場面に使っている。」(川島・前掲p198)
 
 小説の中で、登は”首領”に竜二の「罪科決算報告」(「全集9」p633)を行った。
 そして、少年たち(裁判員たち)は、誰もいない真冬の空っぽのプールを眺めながら、竜二に対し「死刑」を宣告したのである。

 
 

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