Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

安楽椅子派の聖地巡礼(9)

2023年11月03日 06時30分00秒 | Weblog
④ 「ニュー・グランド・ホテル」

  「『昨夜のニュー・グランド・ホテルでの夕食は』と、房子は考へた。『まだ、あれはただのお礼の夕食だった。あの人は士官らしく、きちんとした作法で、夕食を喰べた。食後の長い散歩。あの人は家まで送って来てくれると言ひ出して、山手町の丘の新しい公園のところまで来て、まだ別れる決心がつかないで、港を見下ろす丘の公園のベンチに腰を下ろした。それから二人で永いこと話をした。いろいろととりとめのない話をした。良人が亡くなつてから、私はあんなに男の人と長い会話をしたことがない。・・・・・・』」(「全集9」p254)
 「一月二十二日の午前中、房子は竜二と一緒に横浜市長のところへ、媒酌人になつてくれるやうに頼みに行つた。そして快諾を得た。
 二人は市庁のかへるさ、伊勢崎町のデパートへ寄つて、案内状の印刷を頼んだ。披露宴のための、ニュー・グランド・ホテルの予約も、すでにとれてゐた。」(p373)

 房子が竜二をお礼の食事に誘ったのも、二人が披露宴の式場として予約したのも、小説の中では「ニュー・グランド・ホテル」とされている。
 このホテルのモデルは、言うまでもなく、「ホテル、ニューグランド」(横浜市中区山下町10番地)である(途中に「、」が入るのが正式な商号のようである。)。
 ちなみに、グーグル・マップによれば、「ホテル、ニューグランド」から「大佛次郎記念館」までは徒歩約16分となっている。
 その途中にある「山下町の丘の新しい公園」のモデルは、昭和37年に開園したばかりの「港の見える丘公園」である。
 「ホテル、ニューグランド」は、1927年に建設された横浜市歴史的建造物であり、マッカーサー、チャップリンなども泊まった歴史のあるホテルである。
 このホテルだけで、横浜についての一つの歴史の本が書けてしまいそうであり、実際、「横浜の時を旅する ホテル ニューグランドの魔法」を読むと、タイプトリップしたような感覚を味わえる。
 格式の高いホテルゆえ、ここは「ハレ」の場としては最適だが、竜二が出航する前夜を房子と過ごす場所としてはふさわしくない。
 なので、
 「ゆうべ二人は山下橋の袂にある古い小体なホテルに泊つた。大きなホテルに泊まることは、横浜ではかなり顔の売れてゐる房子には憚られた。」(「全集9」p298)
ということとなる。
 この限られたエリア内にも、(もとは船員用の宿泊施設だったようだが)房子がそうしたように使われるホテルがあり、「ホテル、ニューグランド」を頂点とするヒエラルキーが存在していたのだ。
 
 

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