明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



ここ十数年、実在の人物を作ってきた。最低限似ていないとならないので資料を集めるが、実は子供の時から、何かを見て創作することが大の苦手であった。想像で描いたり作ることばかりが好きで、写生が大嫌い。石膏デッサンにいたっては、専門学校の授業で少々齧った程度である。芸術学部がある大学系列の高校に通った私は、美術部にも属しておらず、放っておいてもそこへ行くつもりが、デッサンの試験があるのを知ったのは三年の進路相談の時であった。複製された学習用の石膏像ほど、長時間眺めるのに適さない物はない。クラスのもう一人志望していた男は一年の時から習っていたという。「何で俺に教えないんだよ」。「まさか知らないとは思わなかったし」。それはそうである。彼はいつか、テレビチャンピオンだったか、粘土細工を競う番組で、美術系の予備校の講師として、審査員で一度顔を観た。 そんなわけで初個展から黒人の人形を制作したが、その間は架空の人物ばかりであり、実在の人物は数える程度であった。ジャズシリーズ最後の個展に、写真も展示することにしたので、初めて実在の人物を中心に制作し、ファンのような気持ちで撮影することにした。そして翌年から作家シリーズに転向したわけだが、私はどういうわけか、苦手だったり嫌っていることに限ってやることになる。  好きな作家は凡そ作った。ここまできたら、満足するまで作り足していこうと思っているが、そろそろ実在の人物にこだわらない制作にシフトしていこうと考えている。その手始めといえるのが、今度出版される予定の作品である。主役、準主役とも架空のキャラクターで、脇役に実在した有名人は使うが、著者にいたっては登場しない可能性すらある。 早く作りたいのに自分を焦らしてまだ開始していない主役は人間ですらないが、これは一切の資料を参考にすることなく完成に至るであろう。架空のキャラクターの場合は、私が頭に描いたイメージにさえ忠実であれば良いわけで、資料から開放された制作は、私にどれだけ創作の快楽をもたらすのであろうか。そしてそれが判っていながら、まだ制作に取り掛からないマゾヒスティックな私である。

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