只今制作中の妖怪は一体目が完成に近づいている。撮影用に視線に変化をつけられるよう、初めて眼球を可動式にしている。しかし目玉の着彩に失敗。どうせなら幾つも作れば良いものを、練習、試作嫌い、保険嫌い。二つしか作らなかった。作ることでは失敗することを考えないタチである。他のことだと常に最悪のことを考えて、いざという時のショックを和らげようとする小心なタチなのだが。
昨日K本で、小学校で草木や兎の世話など、ボランティアでやってる元大工のSさんに、使い古した麦藁帽がないか聞いてみたら十年物があるという。撮影の小物として必用なのである。古びた感じは、出そうとしても、そう出る物ではない。昔、新品のコートを父に委ね、着古させようと企んだら、妹の旦那にあげてしまった。人の話を聞いていない父親であった。 本日は古びた太鼓をヤフーで落札したが、いちいちこんなガラクタを必用だから、と集めていたらキリがない。 Sさんは80歳くらいなのにK本の前に、K越屋ですでにひっかけてきている。ロレツが怪しくなりながら十八番の洲崎遊郭の話。「今の若い人は本当に可愛そうだよ」。口癖である。大工の小僧時代の修行の話など。親方はそうとうな大酒飲みだったそうで、小僧のSさんに現場をまかせて飲みにいってしまったそうである。 「明日の朝、ドアノブに味醂干しをかけといてやるよ」。よく私の寝ている間に、採りたてのピーマンなどかけておいてくれる。しかし朝になってみると、かけてあるのは“味醂干し”ではなく“麦藁帽子”であった。
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