今朝の各新聞者のWEB記事が一斉に東電福島原発1号機の「メルトダウン」(炉心溶融)を東電が認めたと伝えていた。その一つ、「asahi.com」記事――《燃料の大量溶融、東電認める 福島第一1号機》(2011年5月13日3時1分)
東電は核燃料上部まで格納容器内を水で満たす「冠水」作業を通じて核燃料を冷却するための1万トンを超える水を注入していた。だが、昨日の検査で高さ20メートルの圧力容器内の水位は底部から約4メートルの位置より下にあると考えられ、2割程度の貯水しか認められず、注水量1万トン超に対して3千トンの水が行方不明、圧力容器に複数の穴があいていて、どこかに漏れ出ている可能性が浮上。
そのため全露出状態となっていた核燃料棒は「メルトダウン」(炉心溶融)を引き起こして圧力容器の底部に溜まっていると予想、東電は昨夜そのことを公表した。
東電はこれまで核燃料の状態を「一部損傷」と、いわば軽症に診立てて、そのような軽症に基づいて、4月17日に事故収束の「工程表」を発表し、菅仮免政府もその工程表に基づいて放射能避難者の帰宅等の今後の見通しを発言してきた。
その前提がすべて崩れることになる。
〈冷却が長期化して注水量が増えれば、圧力容器の底から原子炉建屋やタービン建屋、地下坑道へもれる放射能汚染水が増える。東電は汚染水を浄化して冷却に再利用する設備をつくっているが、処理すべき量や濃度が増えて計画見直しが求められる可能性もある。
東電によると、溶けた燃料が圧力容器の外に漏れている可能性が否定できないといい、汚染水の発生量はさらに増える恐れがある。汚染された格納容器そのものの処分も、格段に難しくなる。〉――
当然工程表の見直しが必要となると記事は書いているが、最悪、工程表に描いた計画そのものがご破算になりかねないのではないだろうか。
東電が4月17日に発表した工程表は、3カ月を目安に「原子炉を安定的に冷却し、高レベルの放射能汚染水の流出をさせないようにする」ことに目標を置いた「ステップ1」と、さらに3カ月~6ヶ月を目安に「原子炉を冷温停止状態にするとともに、放射能汚染水全体の量を減らす」ことに目標を置いた「ステップ2」の2段階に設定し、合計して最終的に9カ月を事故収束の目標に置いていた。《原発安定冷却に3カ月、冷温停止は最速半年 東電会見》(asahi.com/2011年4月17日15時23分)
東電自らが作成したこの原則が崩れるとなると、この工程表に基づいて発言してきた政府の見通しも、あるいは政策自体が崩れることになる。
東電が工程表を発表した翌4月18日の東日本大震災をテーマとした参院予算委員会集中審議で、菅仮免は工程表について次のように発言している。《東電社長、国会集中審議で陳謝 首相「原発政策を検証」》(asahi.com/2011年4月18日13時55分)
菅仮免「どういう形で住民が従来の所に戻ることが可能になるか(一定の段階で)方向性が出せる報告書になっている。政府も全力を挙げて東電の作業に協力し、国の力でやれることはやっていく」
なかなかの力強い発言となっている。政府としてどう検討を重ね、どう検証したのか分からないが、工程表を全面肯定しているのだから、力強い発言となるのは当然のことで、この力強さは放射能避難者に対する帰宅に向けた力強い保証ともなったはずである。
原発政策に関しては。
菅仮免「安全性を大事にしながら原発を肯定してきたが、従来の先入観を一度白紙に戻し、なぜ事故が起きたのか根本から検証する必要がある。核燃料サイクルの問題を含め、必ずしもしっかりした体制がとれていない中で、使用済み燃料が(原発内に)保管されていたことも検証しなければいけない」
震災対応に関しては。
菅仮免「すべて100%とは言えないが、政府が一丸となって取り組んできた。初動が不十分だという指摘はあたっていない。ほかの場合に比べても十分な対応ができている」
物資支援の遅れや仮設住宅建設の遅れなど眼中にない態度となっている。
清水東電社長「放射性物質を外部に放出させる重大な事故で、大変なご迷惑とご心配をおかけしていることを改めて心からおわびしたい。福島第一原発と連携を密にして復旧に全力をあげてきた。高い緊張感を持って対処した」
事故を起こしたことを一方で謝罪しながら、事故対応に不備はなかったの証言となっている。
菅仮免は放射能避難者の帰宅の「方向性が出せる報告書」だと請合ったが、工程表はメルトダウンとその処理を前提として作成されていない。メルトダウンを前提として、その処理にどのくらいの期間が必要か、「ステップ1」及び「ステップ2」には含まれていない。
菅仮免の首相官邸で行った4月22日の記者会見。
菅仮免「福島原発事故の今後についてでありますが、既に17日に東電から今後の見通しについて工程表が提示をされております。政府としては、この工程表を予定どおり実現する。ステップ2は、ステップ1の3か月に加えて、更に3か月から6か月となっておりますけれども、できることならなるべく短い期間の間にそれを実現する。そうすれば、その中から避難した皆さんに対してどういう形で戻ることが可能なのかを提示することが、ステップ2が終わった段階に立ち入れば、できるのではないか。このように考えているところであります」――
「政府としては、この工程表を予定どおり実現する」――
政府としてどう検証したのか、東電作成の工程表の全面肯定となっている。工程表を基準として、原発対応の政府政策が決定していく姿を見て取ることができる。
いわば政府にしても東電にしてもメルトダウンを想定していない危機管理となっている。勿論、「核燃料の一部損傷」のみを前提とた、メルトダウンを想定していない東電の判断に従った政府の判断だろうが、だとしても東電の判断をどう判断したかの責任は政府も負わなければならない。
「世界の知見を集めて解決する」と言ってきている。当然、東電の工程表が第三者機関の知見に耐え得る内容かどうかの二次検証を行ったはずである。
また菅仮免は自身のことを「原子力に強い」と言っていた。東電の判断に対する自身の判断にも個人的な責任を負わなければならない。負えないとなれば、「原子力に強い」ということにならない。
震災発生2ヶ月に合わせた5月10日の記者会見。
菅仮免「既に2か月になるわけですけれども、東電が示している工程表などもきちんきちんと進んできて、完全に原発の事故も新たな放射性物質を出さないで、低温停止になるというメドがつけば、逆にその後のメドもお示しできるということを、私その場でも申し上げてまいりました」
工程表どおりの実現の可能性に基づいた発言となっているが、第三者機関の検証を前提とした実現の可能性でなければならないはずだ。
また工程表発表の4月17日から既に約3週間経過した5月10日の記者会見である以上、この間の工程表と東電の対応との間に齟齬がないことを前提とし、その前提に基づいた発言となるから、工程表を全面肯定していることに変わりはない。
菅仮免は5月4日に 福島県双葉町住民が集団避難場所としていた埼玉県加須市旧県立騎西高校体育館を訪問した際も、東電の工程表に何ら疑いを差し挟まない、全面肯定した発言を井戸川双葉町長らに行っている。《首相、双葉町の避難所に5時間滞在 避難住民に「気持ちを強く持って」》(MSN産経/2011.5.4 22:32)
菅仮免「東電の工程表が予定通り進めば、年明けには(原発が)一定の安定状況になる。その時点でモニタリングの結果を含め戻れるか判断する」
「予定通り進めば」の実現可能性の発言、仮定の発言ではあるが、工程表に基づいた政府の対応であることに変わりはない。尤も責任回避意識順風満帆の政治家だから、東電の判断に対する自身の判断の責任をどれ程認識しているかどうかは不明である。
細野首相補佐官も、同じ政府の一員だからだろう、東電の工程表全面肯定に立っている。《放射性物質止まる時期「数カ月後が目標」 細野補佐官》(asahi.com/2011年4月3日10時36分)
4月3日の民放テレビ番組出演の際の発言。
細野補佐官(放射性物質放出停止時期について「おそらく数カ月後が一つの目標になる。国民に不安を与えないためにも目標を設定すること(が大事だ)。原子炉を冷却する仕組みを完全に作って安定させるという目標がある。試行錯誤で行っていることを説明する時期が来た」
原子炉の冷却後の事態の完全収束期間について――
細野補佐官「使用済み核燃料が1万本以上あり、処理するのに相当時間がかかる」
細野補佐官(番組後に記者団に対して)「事故発生直後は炉心溶融(メルトダウン)の危機的な状況を経験したし、原子炉格納容器が破断するのではないかという危機的状況も経験した。しかし、そういう状況は脱した。若干落ち着きを取り戻している」
炉心溶融(メルトダウン)一歩寸前の危機的状況に達したが、一歩寸前で回避、「若干落ち着きを取り戻している」状況だと言っている。
細野補佐官の発言は4月3日。その2週間後の4月17日に東電は工程表を発表。当然の結果として、工程表は炉心溶融(メルトダウン)という危機的状況を事故対応の対象には含まない内容となり、今日に至った。
一部識者が1号機でメルトダウンを起こしているとする指摘を前々から行っていた。いわば炉心溶融の疑惑を引きずってきている。なぜ最初から炉心溶融を可能性として想定した工程表の作成、危機管理としなかったのだろうか。
危機管理とはあくまでも最悪の場合を想定して、そのことに備えることをいう。最悪の場合に備えた対処方法を取れば、対処自体に大きなズレが生じない。
炉心溶融を引き起こしていたことが判明したことによって、工程表に描いた「ステップ1」と「ステップ2」の期限の見直しが必至となり、そのことに対応して放射能避難者の帰宅や生活の原状回復を含めた政府の事故対応政策も見直すことになる。
東電の工程表を菅仮免は第三者機関に検証させたのだろうか。検証させた上での確実性に基づいた各発言であり、政府の対応だったのだろうか。
メルトダウンを想定した事故対応であったなら、想定しない場合よりもより迅速な処理が可能と言えたのではないだろうか。政府にしても東電にしても、どう見ても危機管理が甘かったように思える。
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