昨日の記事――《注水中断、明確な指示なし 東電、あいまいに「合意」》(asahi.com/2011年5月29日8時19分)
題名のみから判断すると、菅仮免から明確な海水注入の一時中断の指示はなかったが、中断を求める何らかの指示らしき不明確な意思表示があり、東電側はそれが菅仮免の指示なのかどうなのか確認を行わずに中断したということになる。
だが、記事は冒頭部分で、〈海水注入の一時中断は本社と発電所で「合意した」と東電は説明してきたが、この合意はあいまいで、本社は明確な中断指示をしていなかった。発電所は所長判断で注水を続行。つじつま合わせが、のちに問題を大きくさせた。〉と書いている。
指示の主体は東電本社のことを言っていて、菅仮免ではない。中電本社と発電所現場間のことを扱っている。
この記事は関係者の証言等で綴ったものだとしている。記事の中から、事実行為を時系列で拾ってみる。
3月12日
午後2時50分――清水正孝社長、海水注入を指示
午後7時過ぎ ――海水注入開始(午後7時04分)
午後7時25分――海水中断
1.官邸に詰めていた東電幹部武黒一郎フェローから「首相の了解が得られていない。議論が行われてい
る」と東電本社に連絡
2.東電本社はテレビ会議で武黒フェローからの連絡を発電所の吉田昌郎所長らに伝え、中断決定
中断決定の経緯についての東電側の説明――
武藤栄副社長兼原子力・立地本部長「首相の了解がなくては注水できないという空気だと伝わり、本社と所長が合意した。理解いただけるまで中止しようとなった」
小森明生常務「首相の了解を得るまでの一時的な中断で、ある面でやむを得ないという風に本社側は思っていた」
ところが武藤栄副社長兼原子力・立地本部長が証言している「本社と所長が合意した」というのは、実際は吉田所長はテレビ会議で黙していて中断反対の意思表示は示さなかったために本社は中断を了承したと理解し(このことが事実としたら、憶測したに過ぎないことになるが)、これを以て合意形成と看做して、小森常務の話として、〈注水や停止の指揮権限は原子力防災管理者である発電所長にあるため、あえて本社から中断を指示しなかった。〉ことになった。
いわば吉田所長が中断を了承したものと看做して、本社から正式な中断指示を出さなかった。
吉田所長は中断の意思はさらさらなかったためにイエス・ノーの意思表示をに敢えて示さなかった確信犯の疑いが出てくる。
海水注入続行を記事は次のように書いている。〈あいまいな「合意」の後、吉田所長は原発の運転責任者らに中断を指示せず、注水を続けた。指示を受ける立場の所員は数人。事実を知る人間は、発電所内でも限られていた。〉――
午後8時5分 ――海江田万里経済産業相、原子炉等規制法に基づき海水注入を命令
午後8時20分――海水注入再開(続行を隠すための虚構事実)
〈発電所は吉田所長名で「20時20分に海水注入を始めた」と実態と異なる報告をファクスで本社に送付。〉
何よりも問題なのは東電本社と発電所現場の曖昧な合意の事実よりも、官邸に詰めていた東電幹部の武黒一郎フェローから「首相の了解が得られていない。議論が行われている」と東電本社にあった連絡の事実であるはずである。
菅仮免は東電が海水注入を開始した事実を知り、「俺は了解していない」といった不快感を伴わせた発言をした。あるいは不機嫌を覗かせた発言をした。その発言を受けて、官邸に詰めていた東電幹部の武黒一郎フェローが東電本社に対して「首相の了解が得られていない。議論が行われている」と伝えた。
当然、菅仮免の「俺は了解していない」の言葉にも、武黒一郎フェローの「首相の了解が得られていない」の連絡にも官邸に断りなしの海水注入は認めることはできないという意思表示が含まれていたはずだ。
菅仮免にはその時点で東電側に海水注入を中断させる意思はなくても、「俺は了解していない」の意思表示を満足させる方法は中断を以って果たすことができる。また、菅仮免の意思表示を受けて東電本社に伝えた武黒一郎フェローの「首相の了解が得られていない」の連絡に含まれる意思表示にしても、中断を以ってして叶えることができる。
だが、菅仮免は5月23日の国会で次のように答弁している。
菅仮免「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした。・・・報告が上がっていないものを、やめろとか、やめるなと言うはずがありません」
菅仮免「注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」
因みに枝野詭弁家官房長官も5月25日午前記者会見で注入開始については同じことを言っている。
枝野詭弁家「海水注入が実施されたことについて報告がなかった。実際に水を入れ始めましたということの報告は全く聞いていない」
ということは、東電が官邸に断りなしに注入を開始したことに対する菅仮免の「俺は了解していない」といった意思表示の事実は存在しなかったことになる。
だが、武黒一郎フェローの東電本社に対する「首相の了解が得られていない。議論が行われている」の連絡は事実として存在したはずだ。では、その連絡は何を根拠としたものだったのかということになり、そこに不整合が生じる。
また、武黒一郎フェローの連絡自体が菅仮免の意思表示を勝手に解釈したものだとしても、海水注入を既知の事実としていたことを前提としている。注入開始の事実も注入中断の事実も官邸に「直接には報告上がって」いなかったにも関わらず、武黒一郎フェロー一人のみがそれらの事実を知っていたことになって、前後矛盾することになる。
知っていたからこそ、「首相の了解が得られていない」と連絡することができたとしなければ矛盾を解くことはできない。
一人だけ海水注入開始の事実を知っていて、それを前提として菅仮免の意思表示を勝手に忖度して東電に連絡したとするのはあり得ない矛盾となる。
海水注入は菅仮免自身の意思表示を受けた、それに添って認めることはできないという意思表示を込めて「首相の了解が得られていない」と連絡してきた武黒一郎フェローに対しては、少なくとも中断決定は、それが中電本社と発電所現場との間の曖昧な合意であったとしても、報告されたはずだ。
中断が菅仮免の認めることはできないとする意思表示を満足させることができると考えただろうからだ。
このように予測できる経緯に対して菅仮免の官邸には海水注水開始もその中断も何ら報告がなかったとする「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした」を事実とすると、武黒一郎フェローが東電本社に行った「首相の了解が得られていない。議論が行われている」という連絡の事実・経緯が浮いてしまう。
この食い違いに整合性を与えるとしたら、中電の中断報告が官邸に対する「直接」のものではなく、あくまでも武黒一郎フェローを介した間接的な、あるいは官邸に直接報告したものではないという意味で正式のものではない報告とする以外にない。
この意味に於いて菅仮免が言う「私共には直接には報告上がっておりませんでした」であろう。
だが、中電は実際には海水注入を中断せずに続行していた。
上記「asahi.com」記事が指摘している中電と発電所現場との間の曖昧な中断合意の決定よりも、中電に対して正式に中断を指示するでもなく、官邸に詰めていた中電の人間に対して「首相の了解が得られていない」と判断させた曖昧な態度をこそ問題とすべきであろう。
そのような曖昧な態度が発端となって、武藤副社長が言う「首相の了解がなくては注水できないという空気だと伝わり、本社と所長が合意した。理解いただけるまで中止しようとなった」という経緯を踏むことになり、さらに東電本社と発電所現場との曖昧な合意による表向きの中断へと進み、中断を事実とした場合の事故拡大の疑いから、国会で誰が中断させたのかの応酬に発展した。
すべては菅仮免が一国のリーダーでありながら、指示するなら指示する、指示しないなら指示しないという明確な意志決定を示すことができない指導力欠如の姿勢が発端となった一騒動であり、リーダーが負うべき責任の不在として、このことをやはり追及しないわけにはいかない。
だからこそ、未だ仮免状態の仮免首相だと称することにしている。
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