東電福島原発1号機事故に於ける政府と東電の初動対応の遅れが事故拡大を招いたのではないかと言われ、国会でも取上げられてきたが、ここに来て原子炉を冷却するための原子炉への海水注水作業で政府と東電の言い分に違いが出てきた。海水注水の遅れが被害を拡大させた可能性を疑わせることから、それぞれがどう対応したかによってどちらに責任があるかの問題へと発展する。
先ずは海水注水に関する政府と東電の対応を《震災翌日の原子炉海水注入 首相の一言で1時間中断》(MSN産経/2011.5.21 00:42)を参考に時系列で並べてみる。
この中断は政府関係者らの話で3月20日に判明したことで、〈首相の一言が被害を拡大させたとの見方が出ている。〉としているから、記事は当然、そのことの批判を背景とすることになる。
●3月12日午後6時――炉心冷却に向け真水に代え海水を注入するとの「首相指示」が出るが、班目原
子力安全委員会委員長が首相に海水注入で再臨界が起きる可能性を指摘、一旦指示を見送る。(以上政府
発表)
●3月12日午後7時4分――東電は現場の判断で(政府側からすると東電の独断で)海水注入。
●3月12日午後7時25分――東電判断の海水注入を聞いた菅首相が「聞いていない」と激怒したとの情
報が東電に入り、東電は首相の意向を受けてから判断すべきだとして、海水注水を停止。
●3月12日午後8時20分――海水注入でも再臨界の問題がないと判明、再臨界を防ぐホウ酸を混ぜた上
で注水が再開。(記事には書いてないが、菅仮免からオーケーの指示が出たからだろう。)
中断時間は55分。
記事は最後に安倍首相と枝野官房長官のバトルを伝えている。〈自民党の安倍晋三元首相は20日付のメールマガジンで「『海水注入の指示』は全くのでっち上げ」と指摘。「首相は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべき」と断じた。これに対し、枝野幸男官房長官は20日夜「安倍氏の発言が偽メール事件にならなければいいが」と牽制(けんせい)。首相周辺も「激怒はしていない。安全を確認しただけだ」と強調した。〉――
「偽メール事件」は野党時代の民主党議員が引き起こした事件・騒動であって、当時の前原誠司代表がその責任を取って代表を辞任している。何も民主党の古傷まで思い出させる事件・騒動を例に引くことはないと思うが、そこは詭弁家、譬えに事欠いて自分達の古傷を持ち出してしまったのではないのか。
東電判断の海水注入を聞いた菅首相が「聞いていない」と激怒したとの情報が東電に入ったということは首相官邸設置の原子力対策本部の首相周辺人物が、「こちらから指示が出ないうちに東電が海水注水したことに首相は怒っています」と何とか、注水を停止させる意思表示のもと東電に連絡があったということだろう。そこで東電は首相のオーケーの意向を受けてから注水開始の判断をすることになって注水を中断させた。
ところが政府は海水注入中断は東電の判断であって、政府は一切指示していないと食い違いを見せたばかりか、海水注入で再臨界が起きる可能性を首相に指摘したと名指しされた班目原子力全然委員会委員長が「再臨界の危険性があるなどと私は言っていない。侮辱と思っている」 と抗議、昨22日に政府に訂正を申し入れているが、政府と班目委員長との間にも食い違いを見せることになった。
東電の海水注水中断は首相の指示なのか、あるいは東電の独断なのかとマスコミが取り沙汰している中で、「NHK」2011年5月22日 19時8分記事――《1号機 ベントの判断に遅れか》が、格納容器内の圧力を下げる「ベント」操作の遅れが水素爆発を招いた原因の一つと指摘されているとして、NHKが入手した1号機の運転手順書に基づいて操作遅れの疑いを炙り出している。
福島第一原発1号機が津波直後から冷却機能を失い、原子炉を覆う格納容器内の圧力が急激に上昇した。上昇によって格納容器が破損し、大量の放射性物質が外部に漏出する危険性回避のため、内部の気体を外に放出して圧力を下げる「ベント」操作が必要となった。
だが、その操作が遅れた。記事は専門家の声を伝えている。
専門家「もっと早い段階でベントを行うべきだった」
では、ベントを行う適切な段階はどの時点かと言うと、NHKが入手した1号機の運転手順書によると、ベントは格納容器の圧力が使用上の上限の2倍に当たる「853キロパスカルに達すると予測される場合」に行うと定められていたという。
記事を参考に1号機の格納容器圧力の推移を水素爆発の時間帯との関係でほぼ記事どおりに時系列で見てみる。
3月12日午前1時過ぎ――格納容器の圧力600キロパスカル(水素爆発の14時間半前)
3月12日午前2時半 ――格納容器の圧力840キロパスカル(水素爆発の13時間前)
この時点で、〈手順書の値に迫り、ベントを行う条件を満たしていた可能性が高いことが分か〉ったと書いている。
3月12日午前9時04分――東電、ベント操作に取り掛かる(水素爆発の6時間半前)
だが、高い放射線量に阻止されるなどして作業に遅れが生じる。
3月12日午後2時半 ――ベント操作開始(水素爆発の1時間前)
3月12日午後3時36分 ――水素爆発
如何にベント操作が遅かったかを浮き立たせ、この線に添って原発メーカーで格納容器などの設計に携わった元設計士の声と東電の発言を伝えている。
後藤政志氏「遅くとも格納容器の圧力が上限の2倍近くになった段階でベントを行うべきで、その時点でベントができれば、格納容器から漏れる水素の量が抑えられ、水素爆発の危険性が小さくなった可能性がある」
東電「格納容器の圧力が600キロパスカルから840キロパスカルに上がった段階でベントを行う必要があったと考えられるが、ベントの判断については検証を行っているところなので、現段階ではコメントできない」
だとしても、手順書通りのベント操作とはなっていなかった。
以上の水素爆発の時間との関係からのベント操作に関わる時系列にこれまで当ブログのいくつかの記事に書いてきたベント操作を含む政府の初動対応の時系列を重ねてみる。
3月12日午前1時過ぎ ――格納容器の圧力600キロパスカル(水素爆発の14時間半前)
3月12日午前1時30分頃 ――海江田経産省、東電に対してベント指示。
3月12日午前2時半 ――格納容器の圧力840キロパスカル(水素爆発の13時間前)
3月12日午前6時14分 ――菅仮免、官邸からヘリで視察に出発。
3月12日午前6時50分 ――海江田経産相、東電に対してベント指示を法的拘束力のあるベント命令
に切り替え発令。
3月12日午前7時11分 ――菅仮免、福島第一原発に到着
3月12日午前9時04分 ――東電、ベント操作に取り掛かる(水素爆発の6時間半前)
(高い放射線量に阻止されるなどして作業に遅れが生じる。)
3月12日午前7時前後 ――メルトダウン
3月12日午後2時半 ――ベント操作開始(水素爆発の1時間前)
3月12日午後3時36分 ――水素爆発
3月12日午後6時頃から――官邸、原子炉冷却のため海水注入を検討。
3月12日午後6時 ――菅首相「真水での処理をあきらめ海水を使え」と指示。
3月12日午後7時4分 ――海水注入
3月12日午後7時25分 ――海水注入を中断(「政府の判断を待つ」とした現地判断)
3月12日午後7時55分 ――菅首相注水指示
3月12日午後8時20分 ――注水再開(55分注水中断)
3月12日午後8時45分 ――ホウ酸投入
当ブログ20011年5月18日記事――《福島原発事故拡大は菅仮免が東電にベント指示を早急に機能させることができなかったことが原因の人災 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》
にも書いたことだが、やはり菅仮免政府が東電に対して3月12日午前1時30分頃にベント操作を指示してから、3月12日午前9時04分にベント操作に取り掛かるまでに7時間43分も要したことが放射線量をいたずらに高くすることになり、このことに加えて3月12日午後2時半に実際にベント操作を開始するまでに5時間26分も遅れたことがベント開始から約1時間後の水素爆発につながった疑いが濃く、その根本的原因は政府のベント指示を東電に対して直ちに機能させることができなかったことと、ベント指示が機能しないと見たなら、早い段階で法的拘束力を持つベント命令に切り替えるべきを、命令がベント指示の3月12日午前1時30分頃から5時間20分後の3月12日午前1時30分頃と遅れる臨機応変の対応を取れなかったことにあり、そういったことが招いた水素爆発の疑いであり、また、直ちに継続して行うべき原子炉冷却の海水注水ということであたったはずだが、中断が起きた。
ベント操作指示を直ちに機能させることができなかったことの責任と、機能しないと見たなら、直ちにベント命令に切り替えるべきを、それが遅れたことは事故拡大がまさしく人災の側面を持つことになり、当然のこととしてその責任は偏に菅政府にあり、その責任者が主たる責任を負わなければならない。
もし菅仮免が間違った判断で海水注水を一時中断させたとしたなら、そのことも人災に数えられることとなり、犯罪を重ねるようなもので、その責任は救い難いまでに重くなる。
|