菅仮免は昨5月13日(2011年)の参院予算委員会質疑で山本順三自民議員が浜岡原発停止要請は「法的根拠がない」と指摘したのに対して、例の“東海地震発生30年以内87%確率”を錦の御旗として持ち出して次のように答えたと言う。《菅首相、浜岡原発の全面運転停止について「評価は歴史の中で判断してほしい」》(FNN/2011/05/14 02:48)と伝えている。
菅仮免「緊迫性と特別な事情がある。国民の安全と安心という観点から要請すべきだと。政治判断でさせていただいたわけでありまして、それの評価は、歴史の中で判断をいただきたいと」
どのように政策が批判されようと、あるいは間違った対応をしようとも、「それの評価は、歴史の中で判断をいただきたい」としたなら、批判も対応もすべて正当化し得る。
歴史の評価と一国のリーダーの判断一つで、もしくは政府の対応一つで動いていく現実世界の利害に対して国民がそれぞれに下す評価の全体的趨勢とは時間的な影響の点でも性格そのものも異なる。
歴史がいくら評価したとしても、現時点での現実世界には手の届かない評価に過ぎない。現実世界の政権運営からは隔絶した、何ら影響することはない評価に過ぎない。
影響するのは現時点での最終的に下す国民の全体的な評価であり、その評価が政権運営に於ける挙措進退にも影響を与えていく。
政権運営に影響を与えるとなると、当然、リーダーの出処進退にも影響していく。菅仮免は「それの評価は、国民に判断をいただきたい」と言うべきだったろう。
歴史を相手に政治を行っているわけではない。現実に生き、生活している国民相手の政治であるはずだ。認識能力・判断能力共に欠いている単細胞な頭脳の持主だから、国民の評価と勝負することができずに歴史の評価に逃げ込む。
そのくせ国民の評価である内閣支持率を上げようと人気取りのパフォーマンスにあくせくする。
菅仮免は浜岡原発停止要請は「政治判断」と答弁しているが、このことは原子力安全委員会班目委員長及び原子力安全・保安院寺坂院長と事前に協議していないことに対応させて用いた発言であることが次ぎの記事で分かる。
《首相 原発停止要請は政治判断》(NHK/2011年5月13日 18時41分)
菅仮免「最終的に海江田経済産業大臣の話も受けて、熟慮を重ね、国民の安全と安心のために運転停止の要請を行うことが必要だという結論に達した。結果として行政指導であり、私や海江田大臣を含めた政治判断で、その評価は、歴史の中で判断いただきたい」
この発言に続けて、記事は〈運転停止の要請について、国の原子力安全委員会の班目委員長と原子力安全・保安院の寺坂院長は、いずれも事前に相談は受けなかったことを明らかにしました。〉と書いている。
国の機関として原子力政策委に関わっている原子力安全委員会委員長とも原子力安全・保安院院長とも事前の相談も協議も行わなかった。それを以て「政治判断」だとする。最終的には「政治判断」だとしても、関係機関との協議を経て万全を期す手続きを取るべきを、そういった手続きを省いた独断性に否応もなしに政治主導を演出することによって人気を得ようとする意図が窺える。
菅仮免は“東海地震発生30年以内87%確率”を緊急性ある重大な危険性と看做して、そのことを錦の御旗とし、地震発生した場合の「国民の皆様の安全・安心を考えて」中部電力浜岡原発の停止要請をし、中部電力は首相の要請は重いとその要請を受入れた。
言葉は軽い、態度は軽い菅仮免の要請は重いとする逆説性は滑稽ではあるが、菅仮免の思惑通りに進んでいる。
だが、5月6日の停止要請の記者会見では、“東海地震発生30年以内87%確率”を持ち出して、「極めて切迫をしております」とその緊急性ある重大な危険性を訴えながら、続けて、「こうした浜岡原子力発電所の置かれた特別な状況を考慮するならば、想定される東海地震に十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要です。国民の安全と安心を守るためには、こうした中長期対策が完成するまでの間、現在、定期検査中で停止中の3号機のみならず、運転中のものも含めて、すべての原子炉の運転を停止すべきと私は判断をいたしました 」と、停止期間を「防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施する」までとしている。
いわば菅仮免は「防潮堤の設置など、中長期の対策」をクリアしさえすれば、そのことを以って“東海地震発生30年以内87%確率”の万が一の現実化に対して浜岡原発を守る、あるいは浜岡原発事故を回避する唯一絶対の条件と看做している。
このことは海江田経産相も浜岡原発停止要請の独断性を菅仮免と共にした関係から意見を同じとしている。《海江田経済産業大臣談話・声明》(経産省HP/2011年5月9日午後7時過ぎ)
緊急安全対策の実施状況、浜岡原子力発電所の停止及び中部地域の電力需給対策について
海江田経産相「浜岡原子力発電所については、耐震安全対策はこれまで適切に講じられてきており、また、技術基準等の法令上の安全基準は満たしている。しかしながら、文部科学省の地震調査研究推進本部地震調査委員会の長期予測によれば、30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性が87%と極めて切迫している。同発電所は、30年以内に震度6強の地震が発生する可能性が84%と、他の発電所に比べて、際だって高く、他の発電所と全く異なる環境の下にある。地震発生に伴う大規模な津波襲来の切迫性と、津波による今回の事故を踏まえ、苦渋の決断として、『一層の安心』のための措置が必要と判断した。
このため、6日、中部電力に対し、同発電所について、短期対策だけではなく、防潮堤設置や原子炉建屋の水密化工事などの中長期対策を完了するまでの間、全号機の運転を停止することを求めた。従って、中長期対策が完了したことを原子力安全・保安院が確認できれば、現時点の知見によれば、再起動するのに十分な安全性を備えることとなる。これは同発電所における、大規模津波襲来の切迫性という特別な状況を踏まえたものであり、同発電所の耐震性能自体を問題とするものではなく、また、他の原子力発電所については、このような切迫した状況にあるものではない」
菅仮免同様に「防潮堤設置や原子炉建屋の水密化工事などの中長期対策」をクリアすれば、再稼動は可能だとしている。尤も菅仮免主導、二人で企んだ停止要請なのだから、意見・立場に違いがあっては困る。
海江田経産相のこの記者会見で新たに分かったことは、「大規模津波襲来の切迫性という特別な状況を踏まえた」原発停止要請であって、「同発電所の耐震性能自体を問題」とした原発停止要請ではないということである。
福島第一原発事故は果して津波のみによる被害だと絶対的に断定できるのだろうか。断定できない動きを内閣府の原子力安全委員会は見せている。《原発周辺の断層の活動、さらなる注意促す 原子力安全委》(asahi.com/2011年4月30日6時42分)
原子力安全委員会が4月28日、全国の原発の耐震安全性について、これまで考慮していなかった断層が活動する可能性がないか再確認するよう経済産業省原子力安全・保安院に求めたとする記事である。
この再確認要請の措置は東京電力が地震を起こさないとしていた断層が東日本大震災後に起きた地震(余震)で動いたことを受けたものだとう。
〈4月11日に福島県で起きた地震(余震)では、東電や保安院、安全委が指針(2006年改定の耐震指針)の対象になる活断層ではないと判断していた「湯ノ岳断層」に沿って地表がずれているのが確認された。〉――
記者「今回のような想定外の活断層が、既存の原発直下に見つかった場合は運転を止めるのか」
班目原子力安全委員会委員長「そういうところにはつくっていない、と理解いただきたい」――
菅仮免や海江田経産相のように津波のみの備えを原発稼動の条件とするなら、考慮外の活断層の活動の可能性は問題にならないはずだが、原子力安全委員会は注意を促している。
耐震指針の対象となっていなかった、いわば東京電力が地震を起こさないとしていた断層が地震で動いた。
「湯ノ岳断層」は余震で動いたが、本震で動く可能性は否定できないはずだ。地震学説が想定していないことも起こるのが地震だからだ。
この「湯ノ岳断層」については《「活動しない」認定の断層、地震で動く 福島・いわき》(asahi.com/2011年4月21日15時3分)が詳しく伝えている。
「湯ノ岳断層」は福島県いわき市の福島第一、第二原発の南40~50キロ地点に存在。〈土木研究所や京都大チームの調査で、長さ約10キロにわたり地表の亀裂やずれが見つかった。4月11日夕方に震度6弱を観測した地震(マグニチュード7.0)で動いた可能性がある。 〉
2006年制定の新耐震指針に基づき地震を起こさないと認定された断層が活動したのは初めてだという。
このことはどのような断層も活断層に変身する可能性を教えている。但し、〈揺れは原発で想定した範囲に収まったものの、結果的に地震を起こす活断層を見落としたことになり、電力会社の調査や国の審査、指針のあり方が問われることになる。〉と記事は書いているが、この揺れは結果であって、常に「原発で想定した範囲」に収まる保証はどこにもないはずだ。
東日本大震災自体が、マグニチュード9.0にしても、高いところでは16メートル近くにも達した津波高にしても誰もが「想定した範囲」ではなかったはずだ。
「湯ノ岳断層」は過去の研究で活断層と見られるとされていたが、東電は改めて調査後、原子力安全委員会の新指針が過去12万~13万年前以降に動いていない断層は再び地震を起こさないとの想定のもと作成されているために「12万~13万年前以降の活動はない」として、活断層の想定外に置いた。いわば一般的な断層と看做した。
また、東電のこの「湯ノ岳断層」に対する想定を保安院と安全委が昨年、福島第一原発の機器変更の申請に伴って活断層を再審査し、妥当と判断、お墨付きを与えていた。
お墨付きの根拠は、〈周囲の地形に地震による変形が生じていない、断層の境目が固結していることを挙げていた。〉としている。
記事は、〈東電の福島第一、第二原発の揺れの想定は、より近くて規模も大きい双葉断層などの揺れをもとにしている。4月11日の地震の揺れは想定の10分の1程度に収まっている。〉と締め括っているが、〈想定の10分の1程度〉が常に想定の範囲内となる保証はどこにもないことは想定していなかった断層がずれたこと自体が証明している。
当然、マグニチュード7.0の余震以上のマグニチュード9.0の本震で誘発されない保証もないはずである。
また東日本大震災が単一の地震では終わっていないことも、想定している活断層のみならず、活断層と想定していない断層まで活断層化し、地震を誘発する可能性は否定できない。
このことは次ぎの記事が証明している。《「列島各地で誘発地震、M6以上が広がる可能性も》(YOMIURI ONLINE/2011年3月12日13時27分
記事は冒頭、3月〈11日午後2時46分に三陸沖を震源として発生した東日本巨大地震に続き、長野県北部で震度6強の強い地震が起きるなど、東北、中信越、関東など列島各地で地震が相次いでいる。
マグニチュード(M)6以上の地震だけでも(3月)12日午前11時現在、合計20件発生した。周辺部の地盤が連鎖的に刺激を受け、地震が頻発していると専門家は見ている。〉
その後5月に入ってからも各地で余震を誘発している。
横山気象庁地震津波監視課課長(3月12日)「今回のように日本各地の広域にわたって地震が多発した例はない。(長野県北部で最大震度6強を記録した地震(M6・7)について、東日本巨大地震の発生によって)地盤にかかる力が変化し、誘発された可能性がないとはいえない。ほかの地域でも地震が起きる可能性がある」
加藤照之・東大地震研教授(地殻変動)「今回の震源域での余震だけではなく、広範囲でM6~7クラスの地震が起こりうる」
岡田義光防災科学技術研究所理事長(地震学)「今回の地震では茨城県沖まで断層がずれた可能性があり、半年から1年の間は注意が必要だ」
1677年房総半島東方沖発生の200人以上が津波で亡くなっているM8・0クラスの巨大地震が東日本大震災で半年から1年の間に誘発されることへの懸念だという。
以上のことは巨大地震が襲った場合、地震発生地域以外の各地の活断層、あるいは想定外の断層まで刺激して単一の地震では終わらない連鎖的な地震発生の可能性を教えている。
かくまでも日本列島は脆くできている。東日本大震災発生の3月11日から4日後に起きた静岡県東部を震源とする地震(マグニチュード6.4―暫定値)は東日本大震災の誘発の可能性が指摘されている。
《2011年3月15日静岡県東部の地震の評価》(地震調査研究推進本部地震調査委員会/2011年年3月16日)
一部抜粋――
〈3月11日に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の発生に伴って、水平方向に4m以上の水平変動が観測されるなど、大きな地殻変動が観測され、概ね東西方向に伸張、南北方向に圧縮するひずみを、広域にわたり与えており、今回の地震はその影響によって発生した可能性は否定できない。〉――
三陸沖を震源とした巨大地震が静岡県東部の地震を誘発した。このような関連性を考えると、果して“東海地震発生30年以内87%確率”を根拠として浜岡原発を停止させる「政治判断」を“大英断”とし、津波のみを想定して、原発事故は「防潮堤の設置など、中長期の対策」によってクリアできるとしていることに不備はないだろうか。
《防潮堤設置・かさ上げ、全国の原発26基が計画》(asahi.com/2011年5月11日9時31分)によると、その対策をこれから挙げる原発は1、2年の範囲内で行う予定としている。
26基の中には福島第一原発と静岡県東部間の距離とほぼ等距離に当たる浜岡原発を起点とした福井県内の美浜原発・大飯原発・高浜原発・敦賀原発の13基と石川県内の敦賀原発の2基の合計15基が含まれている。
東海地震は南海地震・東南海地震と3連動型巨大地震が言われている。巨大地震が各地の活断層、あるいは非活断層を刺激して地震を発生させない保証はない以上、またその震度、津波の発生如何と津波の高さを想定できない以上、現時点では浜岡原発と同様に津波対策等をクリアしていない同条件にあるなら、15基全部に対して停止要請の「政治判断」を示してこそ初めて公平性が担保できるはずである。
記事は各原発の防潮堤のかさ上げは各原発地震が想定していた津波の高さに9.5メートルを加えた高さとしているが、福島第一原発が想定した津波は5.5メートルで、実際に襲った津波の高さは想定5.5メートルに9.5メートル上回る15メートルだったということだから、福島第一原発の想定を上回った9.5メートルを基準としていることが分かる。
とすると菅仮免の「政治判断」は“東海地震発生30年以内87%確率”によってもたらされるかもしれない巨大津浪の危険性のみを判断基準とし、誘発地震を判断要素に入れていない原発停止要請であり、さらに東海地震発生の危険性は40年前から言われているにも関わらず、他の地域で巨大地震が発生している現実的な確率性を計算に入れていない中途半端な「政治判断」だと言うことができる。
尤も中途半端は菅仮免の人間性そのものとなっている。
この中途半端を補って、真に「国民の安全と安心」を担保するにはどこでどう、あるいはどこでいつ、どのような地震が発生するか想定不可能であることから考えると、地震列島下に於いては福井県や石川県の原発のみならず、すべての原発停止以外にはないはずである。
菅仮免が“30年以内87%確率”の東海地震が発生したとしても、東南海、南海地震と誘発することはない、それが各地の断層を刺激することもない、東海地震・南海地震・東南海地震の3連動型巨大地震となったとしても、それ以外は如何なる誘発地震も発生することはないと原子力安全委員会や原子力安全・保安院、あるいは他の原子力関係機関とも相談も協議もせずに自らの「政治判断」で保証してくれるなら、話は別である。
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