3月12日に菅仮免が中電の海水注入を一時中断させたことで放射能被害を拡大させたのではないかと一部報道があることのみに限って、昨5月23日(2011年)の衆院震災復興特別委員会でのみんなの党の柿澤未途(みと)議員と谷垣禎一自民党総裁の国会質疑から取上げてみる。
二人とも自らの思惑通りには菅仮免を攻め切ることができなかった。両者とも戦術に間違いがあった。菅仮免を攻めることだけを考えたために菅仮免のみに視線を集中し過ぎるという過ちを犯した。この問題で一番の弱点は班目原子力安全委員会委員長だとは最後まで気づかなかった。
弱点から切り崩していって全体への攻撃に替えていくのは戦術の常道だと思う。
班目委員長は自身が「再臨界の可能性がある」と意見をしたことが東電の海水中断の理由となったと報道されたことに21日夜、「再臨界の危険性があるなどと私は言っていない。侮辱と思っている」(asahi.com)と反論、次の日の22日午後に官邸に出かけて訂正を求め、その後の記者会見では「きのう統合対策室が出した文書について訂正を申し入れたところ、快く引き受けていただいた」(NHK)と言っていながら、細野首相補佐官は記者団に、「基本的には政府のこれまでの説明と変わらない。ただ、当時菅総理大臣の問いかけに対して、班目さんが『そういう可能性はゼロではない』と述べたという文書に変えることになった」(同NHK)と発言、「言っていない」としていたことが実際には「ある」が「ゼロではない」に変わっただけで、「言っていない」ことはない矛盾を曝け出しているのである。
いわば「再臨界」に関することに言及していながら、言及していないとした。先ずはその発言の信頼性を問うべきだったろう。なぜ「言っていない」としていたことが次の日には「言っていない」ことはなかったことになったのか。
考え得る理由の一つは政府の意向を受けた訂正の可能性である。「再臨界の危険性がある」はより具体的危険性に属し、「危険性がゼロではない」はより予測的危険性に属す。具体的危険性を「言っていない」ことになるからと、予測的危険性に過ぎない「危険性がゼロではない」で政府の意向を受けて妥協したとも考えることができる。
先ずは「再臨界の危険性がある」と「再臨界の危険性がゼロではない」とどう違うのか追及すべきだったろう。
他にも班目委員長を追及すべき点があったが、それぞれの質疑の中で指摘する。
最初にみんなの党の柿澤未途議員の質問を取上げる。丁寧語や間投詞は無視することにする。
柿澤議員「3月11日の1号機への海水注入について、菅総理は海水注入による再臨界の可能性を心配していたと、細野総理補佐官が話をしていた。原子力安全委員会に助言を求めたら、『可能性はゼロではない』と言われたと。
(班目発言の)訂正が昨日から朝にかけてあったが、『可能性はゼロではない』と、こう言われたと。
班目委員長からも助言を得た当時菅総理が再臨界を心配していた。そういうことが事実としてありますね、総理。イエスかノーかで答えてください」
菅仮免「色々な心配をする可能性の中で、そういうことも含まれていたので、そういうことに対して専門家の皆さんにご意見を聞いたわけです」
柿澤議員「総理は臨界の可能性を心配して専門家の意見を聞いた。この場合の再臨界の可能性のあると言うのはどういう事態を示唆しているのか。これは燃料棒が原形をとどめ、制御棒が入っている状態であれば、そういうことは起こらないと思う。再臨界と言うのはそういう安定した状態では起こらない。
再臨界が起こるということはどういう事態が原子炉の格納容器内で想定されるか」
班目委員長「実際に燃料が若干でも溶けて、再配置と言いますか、イキ(閾?)が変わって、より臨界になりやすくなることをおっしゃる方がいる。そういう意味では、今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる。
しかしながら、そういう危険性は認識していないが、そういうふうに聞かれたから、ゼロではないという答になるかと思う」――
班目委員長本人は3月11日の時点で再臨界という「危険性は認識していな」かったし、その危険性があるかと聞かれた場合は、予測可能性の点でゼロとは言い切れないと答えることになると言っている。
いわば自身としては再臨界の認識はなかったし、再臨界の危険性を聞かれもしなかったとしている。なぜ柿澤議員は「『聞かれたら』と言うことは実際には聞かれていないと言うことですか」と追及し返さなかったのだろうか。『聞かれたから、ゼロではないと答えた」とは言っていないのである。
勿論本人が「そういう危険性は認識していない」と言っているからといって、それが事実だとは必ずしも断言できない。認識していたとすると、メルトダウンを知っていたことになりかねない別の危険性が生じるために政府が班目委員長から「再臨界の危険性がある」と意見の具申があったために検討に時間を取ったとしていることを、メルトダウンを認めかねないことになるためにそんなことはないと否定した可能性も疑うことができる。
もしこれが実際の経緯だとすると、首相が東電に指示して海水注入を中断させたことを隠蔽するための政府演出による班目委員長作の「再臨界の危険性がある」のテッチ上げであり、その後の政府と班目委員長共犯の「再臨界の危険性はゼロではない」の修正の疑いが出てくる。
班目委員長の「危険性がある」から「ゼロではない」に訂正した発言まで含めて、徹底的に集中して追及すべきだったはずだ。
柿澤議員「私の答弁に私の質問の意図と外している部分をあるが、冒頭で言ったように燃料の一部は溶けて、そして再配置と言いましたが、要は容器の下のほうに落ちていく、これはメルトダウンという、まさにその言葉そのものであります――」
班目委員長本人が燃料の一部溶融を言ったわけでなない。そう「おっしゃる方がいる」と誰か別の人間を指している。もし班目委員長自身がメルトダウンを認識していたとしたら、情報の共有という点から菅仮免も認識していなければならないことになる。ウソかホントか、本人は認識していないと否定している。
柿澤議員「要するに燃料が溶けて落ちるメルトダウンという状態を発生するからこそ、再臨界という懸念が生じる。再臨界を起こると菅総理が心配したということは、菅総理はメルトダウンの可能性を3月12日時点で認識していたということになるのではないのか。
覚えていると思うが、3月12日の午後3時からの与野党党首会談で菅総理は何と言ったのか。みんなの党の渡辺喜美代表が『メルトダウウンしているのではないか』と質問したところ、菅総理は『メルトダウンはしていない』と断言をした。メルトダウンを認識していた以上、その場でメルトダウンしていませんと断言していたのは意図的に与野党党首会談でウソをついたことになるのではないのか」
菅仮免「この事故の経緯は柿澤さんもずっとフォローされていると思うが、私は物事を判断する場合は、原子力安全委員会の委員長を始めみなさんと、原子力安全・保安院のみなさんと、当事者である東電の官邸に詰めている責任者と常に同席いただいて、皆さんのご意見を聞いて何らかの判断が必要なときは、特に原子力安全委員会の助言を踏まえながら、判断をしてきた。
私が与野党党首会談のときに私として申し上げたのは、そういう公式的な形で政府としてその時点でメルトダウンと言うことは公式的にそれを認めることは、当然その当時、なっていませんで、その公式的な政府としての見解を申し上げた。
勿論色んな意見が当時からあった。そういうことも勿論私の耳に入っている。先程一つの仮説を立てていたけれども、再臨界のことを心配したのは、そういうことじゃないのかと言ったけど、心配する方はありとあらゆることを心配しなければならないというのが、こういう場合の原則だと思います。
つまりは大丈夫だろうと思うんじゃなくて、大丈夫だと思えても、こうなるかも、ああなるかもしれないと言うことは考えて、それらのリスクを小さくする。今回の場合であれば、再臨界いうのはホウ酸を注入すれば、それがよりリスクが小さくできるわけだから。そういうことも専門家のみなさんに、あとで出てくるわけですけれども、そういう意味で検討をお願いしたというわけです」
この「心配する方はありとあらゆることを心配しなければならないという」リスク回避論は詭弁でしかない。今現在存在すると考え得るリスクの現状把握と危機管理上仮定しなければならないすべてのリスクに亘った想定把握とは別種のものである。
あくまでも海水注水に限定した場合の現状把握しなければならないリスクとしての「心配」=「再臨界の危険性」でなければならないはずだ。それを危機管理上仮定しなければならないありとあらゆることの心配の中に「再臨界の危険性」を潜り込ませて、ありとあらゆる心配の一つに過ぎないと一般論化している。
巧妙な誤魔化しとしか言いようがない。このことは菅仮免のこの答弁が、あー、うー、えーを盛んに用いた苦し紛れの答弁となっていたことでも証明できる。柿澤議員にもこの苦し紛れを指摘されている。
柿澤議員「ご答弁の様子をテレビでご覧になっている国民のみなさんが感じておられると思うが、大変如何にも苦しいと答弁だと思う」
柿澤議員は再び3月12日の与野党党首会談での菅仮免のメルトダウン否定を取上げ、その否定論理を崩しもせずにメルトダウンを実際は認識していたを事実と看做して、菅総理が言うとおりに「みんなの党の渡部代表が対外的に説明していたなら、結果的に間違った情報を広めるお先棒を担ぐことになりかねなかった」、「結果的に大変間違った情報を国民の間に広めてしまった」とズレた追及している。そして――
柿澤議員「メルトダウンを否定する姿勢を少なくとも公式に取ったことで、何が起きたか、原子力安全・保安院の中村審議官。3月12日の午後2時の記者会見で『炉心溶融が進んでいる可能性がある』、メルトダウンの可能性を認めました。
今から考えれば正しい指摘をした中村審議官を政府は半ば更迭のように見える形で記者会見の担当から外している。その後炉心の一部損傷という言葉は使っても、メルトダウンという言葉は封印をされてしまった。枝野官房長官はその後炉心溶融の可能性を問われて、『炉を直接見ることはできない』。こんなふうにも言っていた。
これでは政府の誰もが最悪の事態を想定し、現実を直視して、今起きていることを率直に国民に説明することができなくなってしまう。率直に語れば更迭されてしまうんだから、物言えば唇寒しで、後任者は本当のことを言えない。何でこんな配置換えをしたのか。かつての答弁で国民により分かりやすい説明をするためと海江田経産大臣は答弁しているが、この人事によってむしろ本当の情報が覆い隠されてしまったのではないのか。海江田大臣答弁を」
相手が事実としていることを論理的に突き崩すことができずに単に疑惑を並べ立てるだけの堂々巡りを演じているに過ぎない。
詭弁家枝野「引用をきちっとして貰いたい。私の3月13日の記者会見に於いては、1号機で炉心溶融が起きたのかと問われたことに対して。それは十分可能性のあることで、当然炉の中だから確認できないが、と言っている。もし炉心溶融の可能性があると言ったことで更迭されるなら、私がその場で更迭されなければおかしいことになる」
最大限の薄汚い詭弁となっている。炉心溶融の「可能性がある」とは合理的且つ科学的な根拠に基づいてそういう認識を持つということであるか、あるいはそのように判断したということであるが、その認識、あるいは判断は「炉の中だから確認できない」とすることによって合理的且つ科学的な根拠が否定を受けることになり、その可能性は合理的且つ科学的な根拠に基づかない単なる曖昧な推測に貶めることになっているばかりか、「炉の中だから確認できな」ければ、確認しようがないことになり、確認しようがないことを「十分可能性がある」とするのは相矛盾した言及ともなる。
多くの国民に被害を与え迷惑をかけている重大な事故を前にして原発事故を収束させて安定化を図るために指導・監督する立場の政府要人が合理的且つ科学的な根拠に基づかない単なる曖昧な推測で炉心溶融の可能性に言及する、あるいは「炉の中だから確認できない」が、炉心溶融の可能性は十分あると相矛盾することを言う無責任は見苦しいばかりである。詭弁家でなければ口にできないレトリックであろう。
また、「もし炉心溶融の可能性があると言ったことで更迭されるなら、私がその場で更迭されなければおかしいことになる」と言っているが、これはそれぞれが置かれている立場を無視した詭弁に過ぎない。
保安院は政府の管轄下にある。一方は政府によって人事を武器にどうとでもその言動を操作され易い立場に置かれているのに対して枝野は逆に人事を武器にどうとでも操作し得る立場に立っている。その違いを平気で無視して、さも平等な立場にあるかのような鉄面皮なことを言う。
次に答弁に立った海江田経産相もひどいことを言っている。
海江田経産相「私は本当に正しいことを正しく伝えた人を更迭などとは毛頭考えたことはありません。これまでも考えておりませんでしたし、これからも考えておりません。
中村審議官は元々国際畑の方であります。そしてこの後IAEAの会合やOECDの原子力機関の委員会など、私が原子炉の対応や国会の対応に専念しているので、国際会議に出て行くことができないためにしっかりと世界に向かって日本の原子炉の状況を説明をしていただいている」
枝野といい海江田といい、開き直りもいいとこである。「私は本当に正しいことを正しく伝えた人を更迭などとは毛頭考えたことはありません」と言っているが、中村審議官が「炉心溶融の可能性がある」と言ったことが「正しいことを正しく伝えた」根拠ある説明なら、政府も東電も3月12日以降から1号機は炉心溶融を前提に事故対応に当たらなければならなかったはずだ。
だが、柿澤議員が指摘したように「炉心の一部損傷という言葉は使っても、メルトダウンという言葉は封印をされてしまった」。いわば「正しく伝え」ていないことにしてしまった。
多分、政府の意向に添った記者会見をして貰わなくては困ると因果を含めて海外勤務としたのではないのか。
柿澤議員は枝野と海江田の詭弁・開き直りに何ら反論することなく海水注入の問題に移るが、結局菅仮免を追い詰めることができなかったことと、これから取り上げる谷垣総裁の質問と重なるゆえに省くことにする。
追いつめることができなかったのは質問のトップに立った谷垣総裁も同じだが、柿澤議員と同様に原子力対応のチームの中で一番弱点となっている班目委員長を重点的に攻めない戦術の間違いを犯していたからではないか。
谷垣総裁が取り出したパネルに書いてあることを先ず記載する。
「海水を巡る経緯」(3月12日)
18:00~18:20頃 菅総理、官邸に於いて打ち合わせ
19;04 海水注入(試験注水)
19:25 海水注入中断
19:55 菅総理、海水注入指示
20:05 海江田経産相、海水注入命令
20:20 海水注入
谷垣総裁(海水注入は)「総理の指示で判断をしたのではないかという報道がある。この経緯に関して伺いたい。政府が関連した発表では3月12日の18時に菅総理を含めて会合が行われたと報道されている。この官邸で行われた会合はどういう位置づけで何を議題としたものか」
菅仮免はこの質問に直接答えずに、官邸に詰めていた原子力安全院会や東電の責任者、保安院と様々な協議をしていたと関係ない話を長々と答弁。谷垣総裁が、質問に答えていない、端的に質問の答えてもらいたいとクレームを付けるかと思ったら、我慢強く同じ質問を繰返した。
谷垣総裁「3月12日の18時には何を議論していたのか」
菅仮免「海水注入に当たって、私の方からどのようなことを考えなければならないかといった議論があって、いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた。そういうことを含めて海水注入に当たって、どのようにすべきかという検討を今申し上げたようなみなさんが一堂に会されておりましたので、それを皆さんにお願いをした。
その時点では東電の担当者は海水注入はこれから準備しても、1時間半程度は準備がかかりそうなのでと指摘があったので、18時の段階でそれではそういったことも含めた検討をお願いすると私の方から申し上げた」
谷垣総裁「海水注入に当たって勘案すべき問題点を検討すると、こういうことですね。班目委員長に伺います。報道によると、色んな報道があって何が正しいかであるが、委員長はこの会議で再臨界の可能性を指摘されたという報道があった。
そのような意見具申をされたのか」
班目委員長「その場に於いては海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示がございました。私の方からは海水を入れたら、例えば塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等、色々と申し上げた。
その中で、多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた。これは確かなことであります」
「海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示」があったから、色々と問題点を述べた。だが、再臨界に関しては自分から言い出した問題点ではなく、総理なのかどなたなのかはっきりしない方から聞かれて答えたとしている。
このことは原子力問題の専門家で、政府の原子力安全委員会の委員長を務めている立場からしても、多くのことを学習して豊富な知識を持っているはずの予定調和に反する矛盾する経緯となる。
この矛盾は、もしその時点で「再臨界の可能性はゼロではない」の認識が事実とするなら、「塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等」よりも重要な危険性として第一番に口にすべきことなのに第三者に聞かれるまで失念していたことにも現れている矛盾であろう。
この矛盾に谷垣総裁は気づかなかった。
谷垣総裁「そうするとこの時点で何よりも必要なことは冷却していくことだと、この点はみんな一致した考え方だと思うが、その中でなかなか真水による冷却ができないということで海水注入の問題が出たのだと思うが、今の議論の中で、再臨界の可能性がゼロではない、専門家としてそういう意見を言った。その時点で海水注入はすべきではないと言ったのか」
班目委員長「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」
もし海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造にあるなら、班目委員長は真水でも海水でも冷却のために炉心に注水する必要性を言う場合は再臨界の危険性とセットにして言及していなければならなかったはずであり、言及してきたはずだ。
だとしても、注水の必要性は再臨界の危険性を無視できた。無視できなければ、「とにかく水を入れることだけは続けてください」とは言えないことになるからだ。少なくとも再臨界の危険性を無視できるその回避方法と共に注水の必要性を説かなければならないことになるが、そのことは原子炉事故が起きて以降は菅仮免に向かってもレクチャーしていたはずだから、今度は3月12日の夕方6時の時点になって「海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれ」と言うこと自体が矛盾した指示となってくる。
この点を班目委員長に追及すべきだが、そうしなかった。
谷垣総裁「総理は問題点をすべて挙げろという中で、再臨界、その可能性はあるのではないかという疑念はお持ちだったのか」
菅仮免「今委員長の話にあったように水を入れる、冷却機能が停止しているわけだから、水を入れなければならないという認識はあった。そのために色々な消防車等を電源車と同時に送って、注水を行う。真水の注水が行われた。真水がなくなった場合には海水を入れるしかないわけだから、そういう必要性は十分に認識していた。と同時に色々なことが一般論としては心配される。
例えば水素爆発。例えば水蒸気爆発。あるいは圧力が上がり過ぎて、格納容器が損傷するといった色んな可能性がある。そのいろんな問題の中で、再臨界ということも、もし本当の起きたなら大変なことだから、核分裂反応が再び起きるということだから、そういうことについては従来からホウ酸を注入して防ぐという手立てができるようになっているから、そういう問題もすべて含めて、検討をお願いしたわけです」
繰返しになるが、もし海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造にあるなら、菅仮免は「真水がなくなった場合には海水を入れるしかないわけだから、そういう必要性は十分に認識していた」と言うなら、班目委員長同様に海水を注入することを認識すると同時に再臨界の可能性も認識していなければならなかったはずである。
また、海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造としているということは海水注入と再臨界の危険性は常時セットとしていなければならない認識ということになる。
セットということなら、海水注入で心配されることは少なくとも再臨界の危険性に限って言うと、一般論ではないことになる。
発言に様々な矛盾がありながら、谷垣総裁は素通りして、政府と東電の統合対策室が発表した文書を取上げ、海水注入を開始した東電が官邸で色々議論しているから注水を中止したと記述してあるのに対して政府は知らないとするのは、「政府が責任を持って出した文書としてはあまりにも無責任だ」と追及を変えている。
対して菅仮免。一部分。
菅仮免「現場(官邸)に私共と一緒にいた東電関係者に海水注入を準備しても1時間半程度はかかるという指摘があったので、じゃあ、色んな可能性を検討してくださいと。当然リスクを対象化することは重要であるから、検討してくださいと言ったので、注水の前から検討をはじめていることからして、それに対して注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」
谷垣総裁はこれ以降も攻めきれなかった。
だが、この海水注入準備に1時間半程度かかるから、リスクの対象化を検討させたと言うのも矛盾している。海水注入と再臨界の危険性を前以てセットしていなければならないからということだけではなく、1時間半程度の準備時間は必要とせずに直ちに始めることができたなら、リスクの対象化の検討はしないことになるからだ。
リスクの対象化は、もしそれを厳格に必要としていたなら、決して海水注水の準備時間を要件としないはずだ。準備時間を要件とするのではなく、準備時間あるなしに関係なしにリスクの対象化をこそ絶対要件としなければならない。直ちに注水が開始できたとしても、リスク対象化まで待て、何が起こるか分からないからと開始を遅らせるだろう。
それを1時間半程度の準備時間があるからと、準備時間をリスク対象化の要件としている。
誤魔化し以外の何ものでのない。誤魔化さなければならないのはウソをついているからに他ならない。
|