◆南沙諸島巡る中越対立、表面化の背景には
中国とフィリピンが南沙諸島問題を巡り緊張が増している事は四月に報じられていましたが、今度は中越関係です。
日本の重要なシーレーン、南シナ海波高し、というところでしょうか。ヴェトナム海軍は13日、クワンナム省沖合の公海上において海軍部隊による実弾演習を数時間に渡り実施した事を発表しました。同国海軍には旧型のフリゲイト5隻、コルベット9隻、ミサイル艇10隻と哨戒艇27隻が配備されており、2013年からロシアよりキロ級潜水艦の導入を開始する計画です。
一方で14日、中国海軍は海南省の海域において旅団規模の海軍陸戦隊による上陸演習を実施、仮設敵には多数の戦車部隊を配置して機甲脅威状況下での両用作戦の実施と上陸部隊の海岸堡維持に関する能力向上を演練したとのことです。南沙諸島に向けた示威的な演習と同時に日本の南西諸島に対する脅威ともなる訳ででもあるわけで、これは日本として重大な関心事を持つ必要があるように考えます。
そういいますのも、中越間には南沙諸島における領有権問題が既にあり、両国海軍による小規模な海戦、そしてヴェトナム守備隊が中国海軍に攻撃され全滅させられるとともに島が占拠されるという事案が過去にはあり、昨今は海洋調査を行うヴェトナム船に対する中国船による妨害行為、中国巡視船によるヴェトナム漁船への威嚇射撃事案があった中、ハノイでの反中デモが行われる等緊張は高まる傾向にあり、この海域に関心がある事を示さなければ歯止めがかからないからです。
歯止め、というのは、元々この海域には緊張状態があった中で、中比関係に続く中越関係でも緊張状態があり、中比関係では日米に、中越関係では米国への関与を求めている部分から、この地域を含む東アジア全域においてポテンシャルの変化を諸国が感じ取っているという背景を共通点として考えなければ論理的に説明が難しくなるからで、そのポテンシャルの変化とは時期的に東日本大震災と、それに伴う日本の国力変化に伴う影響力の低下への危惧に他なりません。
核戦力を除けば海軍力でも、また総合的な航空戦力でも現時点では日本が優位にあり、同時に中国が海洋資源確保の観点から重大な関心と行動を以て接近している南沙諸島に日本のシーレーンが通っている、この事自体が実のところ大きな抑止力になっている訳です。これが揺らげば、軍事的均衡が崩れるのではないか、即ち、ということを警戒しているのでしょう。
日本にあっては、南西の壁構想に代表されるような、日本国土への着上陸阻止という冷戦時代の発想を継続して防衛政策に反映しています。これは脅威対象をソ連に見立てた場合、ソ連太平洋艦隊は日本海への封じ込めが可能であるという地政学的要件に依拠すれば必ずしも間違ってはいないのですが、中国となると自由に大洋へのアクセスが可能な広い海域に面していますので違ってきます。
この点、日本は封じ込めるというような発想ではなく、関与、即ち緊張が武力衝突に発展する以前に、例えば親善訪問や練習航海、友愛ボートに代表されるような共同訓練という形でも良いのですからポテンシャルを継続的に発揮し、日本はこの海域の安全保障に強い関心を持っている、という事を示す事が肝要でしょう。
同時に、日本はこれまで継続してきた安全保障政策と防衛政策を震災後にあっても滞りなく継続することがこの地域における紛争抑止に寄与します。日本は衰退ではなく復興を目指しているのですから、この方式には矛盾はありません。とにかく、東日本大震災がポテンシャルの変化を生まないように、政策を実行することこそが、結果的にシーレーンへの脅威を予防するという意味で重要と考えます。
北大路機関:はるな
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