◆参考までにF-4EJ戦闘機は初飛行1971年
ロイター通信が報じたところでは、ロッキード社の話として日本がF-35を導入するのならば一部生産委託の意向だと発言したとのこと。本日はこの記事を元に少し考えてみます。
米ロッキード、日本がF35戦闘機購入なら一部生産委託の意向=幹部・・・2011年 06月 3日 15:59 [東京 3日 ロイター] 米防衛機器大手ロッキード・マーチン(LMT.N: 株価, 企業情報, レポート)のF35戦闘機日本キャンペーン担当幹部は、日本政府が次期主力戦闘機にF35の購入を決めれば、日本企業に一部生産を委託する意向を明らかにした。 ロッキード・マーチン・エアノーティクスのキャンペーン統括担当者ジョン・ボルダーストン氏は、ロイターとのインタビューで、2016年までに実用試験を完了し、防衛省が設定した引き渡しおよび技術面での条件を満たすことができると確信していると述べた。 その上で「国家安全保障にとって日本の防衛産業が重要であることを全面的に理解している。次世代戦闘機の生産に向け、日本と協力していく」と語った。http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-21521520110603
F-35、一部生産委託の可能性、といわれましても日本の航空産業の水準からどの程度の部分が担当させられるのか、多国間国際共同開発という航空機の特性上既に生産分担は決定しているのに対して開発参加国でないだけではなく優先顧客としての調達表明さえも行っていない日本が、これから一千機以上の機体が生産されるという新世代戦闘機の生産に関与するという事は現実的なのか、ということが一つの疑問点として浮かんできます。生産した部品を海外に供給するのであれば武器輸出三原則の問題が生じてきますし、現時点で単価がどの程度になるのか分からない航空機を導入するというのは時期尚早ではないか、とも。また、これまで自衛隊の戦闘機をライセンス生産してきたのは、防衛産業に仕事を与える事が目的ではなくて、国内で部品プールを構築することで高度な整備と修理補修を行えるようにすることで、最小限の機数であっても高稼働率を維持することが目的です。このあたり、厖大な機数を保有し国内で生産している米国や、共同部品プールからの部品供給と相互整備支援が期待できるNATOとは根本的に異なる日本独自の事情があるわけですから、この視点を忘れてはならないでしょう。
F-35,開発が難航する航空機の代名詞的な存在となりつつあるようですが、F-35Aについては順調な部分もあり先月にはF-35A八号機が初飛行、2016年という年限はある程度現実味を以て考える事は一応できるようです。しかし、評価試験を完了したとして、米空軍と同時に航空自衛隊への取得開始が実現したとしても、飛行開発実験団での評価試験を経て初度作戦能力を確保するには更に二年程度を重ねることは必至で、果たして航空自衛隊に1971年から導入が開始された戦闘機、今年で四十周年となる航空機の導入、その開始を後五年待て、というのは余りに難しいのではないかと思うわけで、一括取得を行うほど防衛費が潤沢ではない現状に鑑みますと下手をすれば航空自衛隊でファントム導入50周年記念行事、などといった冗談のような事が実際に起き得る事は一つの懸念事項のようにも。なによりもあのF-15でさえも今年で導入30周年ですからね。
また、今回の提案はライセンス生産ではなく、一部の部品のみを日本国内で取得する、ということになるのですけれども、二個飛行隊程度を導入するという視点に依拠して、導入される機体は機種転換訓練用や在場予備機等を含めても40~50程度、単価が非常に高い航空機である事を考えれば一個飛行隊当たりの保有機数がこれまでの戦闘機と比べて少なく抑えられる可能性も昨今の財政状況では否定できないのが実情です。そういうのもF-4の一個飛行隊定数は24機であったのに対してF-15の一個飛行隊定数は20機程度、導入当初は18機であり、費用が高ければ防衛大綱に明記された定数を確保できない可能でいが出てくる訳です。開発に参加しなければ取得することが出来ないF-35,そのF-35を少数で部品の協同運用基盤から切り離した場合、短期間の運用ではなく数十年単位での運用を考えた場合でどの程度の稼働率を維持できるのか、導入するのが40機として有事の際に即応できる機数はどの程度で、緊張状態や航空消耗戦が数カ月続いた場合どれだけ残るのか、これが未知数であるのがF-35導入におけるリスクです。
そして導入を表明するとして、二個飛行隊所要を配備するのにどの程度の費用が掛かるのが、つまり開発費を分担するという上での不透明さが不確定要素。もちろん、F-35は次世代機として整備性の高さが航空自衛隊のこれまで導入してきた航空機と比べ飛躍的に上昇しているので、自己診断能力等を含め、少数分散運用を行ったとして稼働率は維持できるのかもしれませんが、このあたりも未知数。ところで、先日ノルウェー政府がF-35Aの四機追加発注を決定、2016年引渡の予定なのだけれども四機分の費用は8億8700万㌦とのこと、参考までにどうぞ。
北大路機関:はるな
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