◆防空第一運用とF-X候補多用途戦闘機
内閣不信任案が可決すれば変更の予定ですが、鳩山元首相がブレまして、小沢代議士が議員会館に籠ったので否決されました。それで予定通り戦闘機の話題。
次期戦闘機ですが、産経新聞が米海軍関係者の話としてF/A-18Eを数機導入してF-35までの繋ぎにするらしいという話を掲載しています。この記事、よくよく読んでみますと数機入れただけでは部品確保や教育関連の基盤構築に必要な費用を考えた場合全くの無駄ですので、F-35導入後は偵察機や電子戦機に転用するとか、数機ではなく二個飛行隊程度導入とか、第21飛行隊を含め数個飛行隊、という声でも出無ければ、ちょっと信憑性は無いな、と記事を見て思いました。もっとも海軍関係者、というソースも不思議ではあるのですが。
さて、現在の航空自衛隊の能力を考えますとF/A-18Eであっても、例えばその分取得費用が少ないので飛行隊を増強するとか、増強しなくても飛行隊の充足定数を増やし航空団あたりの保有数を増強する、という手法、作戦機ではなく総隊司令部飛行隊等に分散して予備戦力化するなど方策を練れば、元々代替するのがF-4EJ改ですので、充分な能力は発揮できるとは考えます。しかしながら、充分な能力を発揮することを前提として航空自衛隊の現在の運用を見てみますと、そもそも運用上全力を発揮し得ないのではないか、という指摘をしたいとおもいます。
F-35,これについても指摘の前に一つ書いておきましょう。F-4とは根本的に発想が違う航空機でF-35は単なるステルス戦闘機ではなく、情報優位と航空打撃力の根幹を担い、無人機とともに協同し指揮する、戦闘機部隊として行動するだけではなく地上や海上を含む情報端末として、情報伝送装置として、目となり耳となり、爪となり牙となる、そういう航空機です。したがって、陸海空の協同交戦能力の一端を担うものですから、単純にステルス性を以て優位な空中戦を行う機体、という観念で導入するのではなく、陸上自衛隊の師団・旅団や護衛艦隊・潜水艦隊・航空集団と協同して運用されるべき航空機です。
ここで、F/A-18Eにしても、F-35にしても、もちろん米空軍の運用を見ればF-15であっても共通しているのは打撃力の行使手段という運用を行う事です。防空能力、つまり戦闘機としての空戦能力の高さというものは、空域における敵戦闘機を排除して航空優勢を握る為のものであり、続く戦力投射の為の持てる一部分の能力を行使しているだけにすぎません。それならば、防空一辺倒の機体は、と問われれば現代では迎撃を主任務とする戦闘機は、F-15Cが制空戦闘機としてその任務に近いものですが、しいて言えばMiG-31やMiG-25,引退しましたがF-14にトーネードADVぐらいでしょうか、戦闘機は多用途の時代になっています。
一方で航空自衛隊は防空自衛隊というべき迎撃一辺倒の運用を行っています。F-2飛行隊は対艦攻撃を担っているのですが、他方で近接航空支援の訓練はNATO基準からは非常に低いレベルの訓練しか不可能である演習環境に甘んじていますし、北朝鮮ミサイル事案が表面化するたびに指摘される策源地攻撃能力にしても、地形追随飛行能力や低空侵攻能力等の訓練が行えない国内の演習場環境に甘んじています。必要であれば整備努力をするなり海外に演習場を求めるなり幾らでも方法はあるのですが、放置されている訳ですね。
航空自衛隊は現時点で防空以外の任務、例えば策源地攻撃能力や迎撃以外の敵戦闘機部隊攻撃による絶対航空優勢確保という打撃力の観点、F-35の導入を望むのであれば航空団を地域防空の貼り付けとして迎撃に運用するという観点を根本から捨て、陸海空の協同交戦能力の一つの端末として、運用する事を視野に入れなければ、持てる能力、つまり取得費用における迎撃能力以外の部分、少なからずの水準になる事が挙げられるのですけれども、これらを無駄にする事にも繋がります。
自衛隊は専守防衛、という枠にとらわれ過ぎているのではないか、防空一辺倒の視点からはそうした印象が強く感じられます。域内絶対優位保持の維持を行うにはどのような防衛力が必要なのか、という視点が必要になるわけですし、また多用途戦闘機を導入するという事は、既存の防衛力に関する運用と装備体系、近代化を行うにも整合性という意味で大きな影響が出てきます。このあたり、運用と装備体系の趨勢がかい離し始めているという実情がありますので、専守防衛と装備体系、これを再度考えてみる機会となるかもしれませんね。
北大路機関:はるな
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