◆迅速に設置された陸海空を統括する司令部
防衛省は未曽有の大被害をもたらした東日本大震災へ対応するために東北方面総監君塚陸将を指揮官に陸海空災害派遣部隊を統括する統合部隊を設置しましたが、今回、その任務を震災復旧の一段落という形で終えようとしています。
陸海空自衛隊はその任務の必要性から独自の組織体系と補給体系、運用から用語までを別個に整備していますが、有事に際しては協同を目的とした統合運用の必要性が叫ばれていました。今回の東日本大震災では、まさにこれを必要とする有事にあって、その運用司令部が迅速に設置された事が、被害を局限化することに寄与したことは間違いないでしょう。その統合部隊ですが、防衛省によれば復旧がひと段落したとの判断から、間もなく解散する方向とのことです。解散後は災害派遣任務を引き続き東北方面隊を中心とした陸上自衛隊主体の任務へ切り替え、生活支援等を継続するようです。NHKからの引用。
自衛隊 震災の統合部隊解散へ:6月29日 15時34分 ・・・防衛省は、東日本大震災の発生から3か月以上たち、自衛隊による被災地の支援活動に一定のめどがついたとして、陸海空の自衛隊を初めて統合した仙台市の「統合任務部隊」を、近く解散する方針を決めました。今回の震災では、被害が広範囲に及んだことから、防衛省は、自衛隊による人命の救助や物資の輸送を円滑に行うため、仙台市に陸海空の自衛隊を統合した「統合任務部隊」を初めて編成し、支援活動に当たってきました。
この統合任務部隊について、防衛省は、▽震災から3か月以上たち、行方不明者の捜索や救援物資の輸送に一定のめどがついたこと、▽人員も大幅に縮小し、各自衛隊が別々に指揮をとっても支障はないことなどから、解散する方針を決め、29日小川防衛副大臣が菅総理大臣の了承を受けました。これを受けて、防衛省は、7月1日、省内で災害対策本部を開き、北澤防衛大臣が、統合任務部隊の指揮官を務める陸上自衛隊東北方面総監部の君塚栄治総監に対し、指揮官の任務を解く辞令を交付することにしています。そして今後は、陸上自衛隊を中心に、避難所で食事や入浴などの支援活動を重点的に行っていくことにしています。 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110629/t10013846961000.html
統合任務部隊司令部がいよいよその任務を完了しようとしています。今回の東日本大震災は、復旧や復興に関する法整備や平時と有事における法の使い分けという面で、特に政治の視点から見た場合、残念ながら最悪の危機管理能力の下で被害が拡大しました。何故、物資移送などの面で非常措置を採る事が出来る非常事態宣言を発令しなかったのか、緊急事態を布告すれば医事法や航空法、建築基準法や消防法の面で平時お手続きが出来ない事により失われる生命をどれだけ救えたのだろうか、必要な措置を受けられず命を絶たれた事への怒りは禁じ得ず、政治とは基本は暴力であるという認識を強く持ちました一方で、その政治が暴力装置と唾棄した自衛隊の即応性と高い能力、迅速な判断は多くを助ける事が出来たという一点だけが幸いでした。
この中で特筆されたのが、今回その任務をようやく完了しようとしている統合任務部隊司令部の発足です。旧軍では陸海軍の運用における障壁が共同任務の円滑な遂行を妨げ、こうした中で戦後自衛隊が発足した際に陸海空の幕僚監部を調整する統合幕僚会議が発足、統合幕僚会議議長として運用調整という型を採ったのち、今世紀に入り統合幕僚長というポストが設置され、陸海空自衛隊の統合運用が本格的に模索されるようになりました。そうはいったものの、危機に際して迅速に統合任務部隊を編成し、その司令部を置く事が出来るのか、日本の行政機構等はこうした起点に弱いという印象がありましたし、旧軍が最も苦手としたのもこの分野でしたから、震災前には不安はあったものの、これは杞憂だったようです。今回は第一線部隊に最も近い東北方面総監部に司令部を置く形で迅速に司令部が発足、この点の迅速さと判断の的確さは、今回の大震災への災害派遣を以て防衛省自衛隊の機能が、特に危機管理対処の面で旧陸海軍を凌駕した、といえるでしょう。
この迅速な対応は、次の東海東南海南海連動地震はもちろん、将来的に危惧されている南西諸島有事を含めた国土への軍事的脅威に対しても充分な対応能力と即応性を有しているということを示す事が出来ました。示す事が出来た事がそのまま抑止力となり、抑止力では災害は防止できませんが有事は抑制することが可能となります。他方で、政治の面では特に政治家の資質、意見集約や利害調整と意思決定能力、政策画定という点で大きく後退してしまっていることが浮き彫りになりました。自ら問題を解決した経験を持たない“ゆとり世代政治家”、自らの意見のみを盲目的に信じ現実性と事業評価を検証しようとしない“中二病政治家”という新しい問題の現出です。この点は、次の災厄までに、災厄とは災害と武力紛争を含めたものですが、対応できる為政者を養成し選定する主権者の気構えが必要になるおだろう、そう思いました次第です。
北大路機関:はるな
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