◆危機に瀕し新技術で大逆転、そんな例は極稀有
この新技術で原発が無くとも電力不足解消!、目の前に夏の電力不足が迫っているにも拘らずこうした考えで新法を制定しようとする動きは、あたかも末期のヒトラードイツが、新重戦車、ジェット戦闘機、弾道弾の実用化で勝てる、と叫んだのと似ています。ヒトラードイツが叫んだときにはベルリンの総統地下本営十数キロの位置にソ連軍が、日本の首相が叫んだ今現在はあと十日足らずで七月の電力不足があるわけです。
次世代再生可能エネルギーの実用化はそんなに甘くない、できるのならば既に世界がやっている。震災復興に膨大な予算が必要となっている今日ですが、我らが菅首相は震災復興に一定の目途が立った時点で退陣すると今月初旬に表明し、しかし震災復興で幾ら予算があっても足りない状況下で再生可能エネルギー基本法の制定が終わるまでは辞職出来ないと周囲を混乱させています。そもそもバブル期に地震が発生していれば海外の資本や不動産を買い漁ることなく潤沢な資産を復興資金に充てられ、変な出費をしなくて済んだのでは、これは同期の方が震災前に首都圏直下型地震の話の際に口にしていた事なのですが、その通り現在の日本には余剰資金は無く、政権交代後経済政策を怠ってきた事により今年度では赤字国債が税収を上回っているという状況です。そんな状況下で再生可能エネルギーの開発への国費投入と次世代エネルギーの開発を両立させる事は、例えば被災地の基幹産業に太陽電池パネルを構想して製造国営企業でも創設し、明治以来の殖産産業を行うくらいしか考えつきません。これでは復興が一段落することなど永久になくなり、菅内閣は長期政権を実現、次の総選挙まで続く事になってしまいます。復興の機会を逃した東北地方太平洋岸は数十年に渡り現状維持、となってしまうでしょう。
さて、その再生可能エネルギーですが、太陽光発電は多くの資金投入を必要とする事は既に過去の記事で繰り返し掲載しています。正直なところ、電気料金は一般家庭で一世帯当たり15000~25000円程度、といわれていますから太陽光発電により全電力を賄えるという発電量をパネル設置と整粒装置、変圧器とインバータにバッテリーにより確保した状態で、年間整備費用を込みで実質18万~30万円程度の負担に抑えられる程度でなければ普及しないでしょう。十年計画で、それこそ家庭用に電力会社と契約せずとも電力を自給自足可能な耐用年数数年で50万円程度の電源装置でも開発できれば、話は違ってくるのですが、そういった技術開発を行うべく国費を投入する、という話は聞こえてきません。こうしたなかで既存技術だけにより目的を達成して原発を廃止しようなどというのは土台無理な話。
こうした中で、オーランチキトリウム、ジャガイモ発電、等など怪しい技術の一般化という話が出てきています。オーランチキトリウムとは淡水や海水は勿論下水などの排水でも繁殖する藻の事で生成することにより石油の代替物質を精製することが出来るそうです。ジャガイモ発電とは早い話がバイオエタノールをジャガイモから精製する事で、種イモの時点では成長速度が早く食用には適さないもののエタノールの精製には流用可能な品質を有していることからこれを大量生産する事でバイオエタノールの生産量を爆発的に増大させることが出来れば、石油不足を補う事が出来原子力発電を脱することが可能になる、という夢の技術。
新型のジェット戦闘機が完成すれば連合国から制空権を奪い返す事が出来る!、超重戦車の量産によりソ連軍の戦車部隊を一気に押し返してモスクワを攻略できる!、V-1号ミサイルはロンドンの半分を破壊出来たので最新型のV-2号が完成すれば残ったロンドン市街を全て破壊することが出来る!。そういう会話がベルリン陥落直前の総統本営で話し合われていたそうですが、ソ連軍は数キロ手前まで迫り米軍が快進撃を続けている状況での数年後の技術を語ったものでした。オーランチキトリウム、ジャガイモ発電、破壊力は異なりますけれども、電力不足は今年の夏、今年の夏と言っても六月は暦の上では既に夏ですし、あと一週間少々で七月になる中で電力不足が叫ばれる中、再生可能エネルギーの導入で脱原発を実現できる、という発想は大戦末期のドイツはヒトラー総統にも劣る考えと言わざるを得ません。
日本も米軍のM-4戦車に能力的に充分対抗し得る四式中戦車を、P-51戦闘機にも対処できるだろう五式戦や烈風を、太平洋渡洋爆撃が可能な巨大爆撃機富嶽を、それぞれ開発していまして、少し前までのシュミュレーションノベルなどではこれらが量産されていれば、太平洋戦争大逆転!、という話がありました。大きなロマンですが、本土決戦に米軍はM-4よりも強力なM-26重戦車を用意、とかP-51と同時に間もなくP-80ジェット戦闘機を開発、等など事情を差し引いても、充分な数を生産して充分な教育訓練を行う環境を維持し、万全の状況で実戦に投入できるという体制を構築できない限りは夢の域を出るものではありませんでした。
この技術さえ実現すれば、という考えは同時に何故実現しないのか考えてください。オーランチキトリウムやジャガイモ発電は原子力を置き換えるほどの規模まで量産体制を構築するのにどれだけの期間、どれだけの予算、どれだけのプラント規模、どれだけの人的資源を必要とするのでしょうか。実は地下の秘密工場で着々と進んでおり政府の号令一家で明日にも機密費で開発された秘密火力発電所から極秘燃料を内緒電線を通じて一般家庭に供給できる、というのならば別なのですが、どうもそうではないようです。ですから、下級的な対策が必要な現状には見合わない対策でして、そもそも資金自体が震災復興に充てなければならない、消費税を10%まで上げる計画があるとの報道、民主党内で喧々諤々の議論になっている様子とともに報じられていますが、これは震災復興予算までを想定しているものですから、次世代エネルギーをどうするか、資金の面でも言及されていません。
そもそも埋蔵金があるので高速道路無料化と子供手当と農家個別所得補償を毎年補える、という言葉を基に政権につき、探せば埋蔵借金ばかり出てきて、というのが現在の政権なのですから、流石に騙される人はいないとも思いますが、いや、今でもオレオレ詐欺とか出ているから分からないか、と思いつつも、まあ、財源は税金でしょう。太陽電池パネル、パネルだけでそもそも400~600万円程度とのことで、まあ、バッテリーは除外して悪天候時と夜間送電だけは電力会社と契約を結んで購入するとしましょう、最近の太陽電池は十年から二十年は機能を維持できるとのことですけれども、ローンか一時金か、補助金が出ても自分の税金から出ることになりますから世帯ごとに400~600万が必要になってしまいます。維持費は別途かかるのですが、これが現実問題可能か、現在の与党では年収500万を低所得層、と代議士が発言している事例、度々ありましたので何とかなりそうな印象を持たれているのかもしれませんが、まあ、自家用車の二倍か三倍、安い負担では絶対ありません。このあたり考えれば、非現実なのは一目瞭然。
オーランチキトリウムに関しては現在検討中の技術ですので、実現には大量生産に必要なプラント、これを日本の原子力発電を置き換えるほどに大規模に構築するには、それこそ現時点で研究室レベルの精製しか行えていない以上、実質的に零からの出発、しかも同じく零から日本に置いて出発した原子力発電は原子力先進国アメリカからの支援と技術提供を受ける事が出来たのですが、オーランチキトリウム精製は大規模プラントの構築は世界にまだ例が無く、どこも研究室レベルですので、一国の電力需要を賄う規模に仕立て上げるには更地からの出発になります。誰が出資するのか、原子力がここまで来るには広報費用と助成金だけで年間7000億円、インフレ率がありますから一概には言えないのですが十年間で十倍すれば7兆円、この数字とはケタ違いの費用が大量生産による実用化と市場流通には必要でしょう、しかし、軌道に乗るまでは全く利潤を生まず、そして計画そのものが政権交代により政府支援が破たんする可能性があるのですから投機的、ここに資金を投機するということは投棄する覚悟にも繋がり、数兆円規模で資金を集めるのは不可能ではないでしょうか。
ジャガイモによるバイオエタノール生成、なんでも成長期のジャガイモは短期間で大きく成長する事で大量生産が可能になるとのことですが、これにより驚きの10kg5円での生産が理論上可能になる、という事です。10kg5円であればバイオエタノールへ生成したとしてもガソリンと同程度の1リットルあたり150~200円に収められるのだとか。この技術には驚きました、農家が200万円の収入を得ようとすれば年間4000㌧もを生産しなくてはならないのです。諸経費を合わせればこれではとても足りず、結局黒字への産業として軌道に上げるには一世帯当たり10000㌧近くを生産しなければならなくなるでしょう。4000㌧として2㌧トラックで2000台分、毎日頑張って生産して2㌧トラック5~6台分を出荷しても年収は200万ですから、ちょっと非現実的だろうと思います。
第一、バイオエタノールそのものが宮古島や伊江島で精製プラントが税金を投じて建設されたものの、その後音沙汰無しではありませんか。新技術を開発して量産して、そして普及させるには市場メカニズムから社会構造まで影響する大きな事業です。それも考えずして、いきなり脱原発に応用しようなどというのはちょっと理解できません。まず、どの程度のエネルギーを確保するのかという長期計画で大綱を画定し、その長期計画を実現するには大まかな段階を分けて中期計画に明示、こうした上で毎年の予算に明記する必要があり、同時に中期計画で事業評価を高く確保するにはどれだけの予算が必要なのか、そういうことも明示せずに、新技術だけ推し進めるのは、まあ、特許収入にはつながる部分があるのかもしれませんがそれ以外の普及と流通には繋がりません。
そもそも市場原理にだけ任せようとする姿勢が間違っています。例えばバイオエタノール一つとっても、アメリカは戦闘機を含めた航空機用燃料としての位置付けを考えた上で、普及の下地を徐々に造っています。日本では単に市場原理にだけ任せたのでは石油関連団体からの圧力に対抗することはできませんので、例えば次期戦闘機選定などにバイオエタノールとの適合性を考えるなどして使用しなければならない状況を構築、つまり資源確保と安全保障を絡めて石油関連団体からの圧力をかわせる位置に依拠し、防衛用需要等で毎年数千トン単位の需要を構築する、とか裏技を使わなければ、ちょっと無理でしょう。市場原理を無視して景気対策を行わず、当然訪れた景気悪化に祈るのみでしかない政党であれば、ここまで考えが回らないのかもしれませんが、国が推し進めなければ進まない分野で、しかも日本は後発です。これでは受験勉強を高三の初冬にようやく始めた受験生が、睡眠学習枕やイメージ録音語学学習を使えば受験生との競争でも充分打ち勝てるので大学受験は怖くない、と考えているのと何処が違うのでしょうか。後発であるのに楽をしようという考えはちょっと呆れてしまいます。
こうして多くの期間と多大な予算を必要とする分野、そんな巨大計画を震災復興のために全く予算が足りていないので増税しなければならない、というこの時期に何が何でも行わなければならないのでしょうか。脱原発は国家の将来を左右する、東北の復興なんて後回しにして次世代再生可能エネルギーだ、と叫ぶのであればいいのですが、そういう訳でもない模様。そして脱原発を叫ぶ前に、浜岡原発が地震に脆弱という事で首相が止めるよう叫んだ事で、それならばウチの原発だって近くに活断層が、津波対策不十分、として全国に原発運転再開停止の波が広がっている状況、これにより終戦以来最大規模の電力不足が、電気により通信と生産と維持している現代日本を襲おうとしている、順番が逆なのではないのか、と。まあ、再生可能エネルギーの代名詞となる水力発電を、脱ダムの叫びとともに一緒くたにして蔑にしているのが、どこの政党とは言いませんが、ありますので、期待してはいけないのでしょうけれども。しかし、現実逃避はよくないように思う、こんな大人を見せては子供の教育にもよくない、そう思いました次第です。
北大路機関:はるな