北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

連動地震(東海・東南海・南海):自衛隊の迅速展開に向けた防衛大綱再改訂の必要性

2011-06-16 23:01:23 | 防災・災害派遣

◆必要な派遣規模は?太平洋ベルト襲う巨大地震

 連動地震、という単語が本格的に使われ始めました。東海地震・東南海地震・南海地震が連動して発生する巨大地震への警戒です。

Img_3915  中部方面隊管区のほぼ全域と東部方面隊管区の一部を襲う巨大地震、それに伴う津波災害と長期浸水被害が産業中枢、人口中枢、交通中枢を破壊するわけですので、今回の東日本大震災の被害の大きさを考えれば戦慄するとともに、復旧と復興の迅速化を本気で考えなければならないという決意も湧いてまいります。

Img_0_386  本来、災害派遣について大きく掲載してきている北大路機関ですが、基本的な認識として自衛隊の本来任務は国土の防衛、特に軍事的脅威を以てわが国の主権と安全を直接的間接的に脅かす事案に対し武力紛争を抑止し、抑止が破綻した際には自衛権の発動を以て上記任務を完遂する、という事が主任務であり、災害派遣任務は副次的任務であることは理解しているつもりです。

Img_27083  したがって、自衛隊は防衛に必要な各種任務用の装備を重点的に整備しなければ災害以外の理由でこの国が無くなってしまいますから、当然戦車や護衛艦に配慮は必要です。もっとも、護衛艦は情報拠点や航空機運用拠点になり、戦車や特科は情報収集と情報伝送に加え部隊そのものが有する輸送能力と補給能力の大きさが災害派遣に大きな威力を発揮するのですが。

Img_31_36  しかしながら、巨大地震により復旧と復興が遅れる事が結果的に日本周辺の国際政治における近郊を破綻させるという危険に対して、即座にその展開能力と自己完結能力を活かして人命を救助し、復興へ移行する為の必要なインフラを復旧させる、という意味では自衛隊の任務が極めて重要であるということも、また理解が必要でしょう。

Img_0049  災害派遣を行うにも、この連動地震は自衛隊でなければ対応が難しい事も事実で、厳に東日本大震災では自衛隊へ10万名の派遣を求めるという過大任務を自衛隊に政治は強いたのですから、この連動地震へ、自衛隊はどの程度に派遣を求められるのか、想定外の規模をも想定して検討する必要があると考えます。

Img_0002 この為には、その任務水準に応じた防衛大綱の改定をも必要になるだろう、というのが今回のお話。特に緊急展開能力と情報収集、そして情報優位の獲得は既存の防衛出動に置いても重要な任務となる訳で、この点では災害派遣と防衛という双方に応用できる能力を整備する訳で、矛盾は無いといえるでしょう。

Img_5262 連動巨大地震に広域的対策を6月16日 20時42分  ・・・東海・東南海・南海の3つの巨大地震が連動して発生した場合に備え、太平洋沿岸の9つの県が協力して対策を進めることになり、16日、松本防災担当大臣に対し、なるべく早く広域的な救援活動の計画をまとめることなどを提言しました。

Img_479_6 3つの巨大地震は、およそ100年から150年の間隔で繰り返し起き、3つの地震が連動した場合、東日本大震災を上回る広い範囲で甚大な被害が出ると予想されています。今回の会議は、東海から九州までの太平洋沿岸の9つの県が協力して対策を進めようと設けられたもので、東京で行われた初会合には、4県の知事と知事の代理が出席しました。

Img_2238_2 この中で高知県の尾崎知事は「3つの地震の連動に備えた対策は、東日本大震災の復旧・復興と共に、国家の2大課題だ」と訴えました。また、徳島県の飯泉知事は「9つの県がスクラムを組み、津波などへの対策について積極的に政策提言をしなければならない」と強調しました。

Img_6430 このあと4県の知事は、松本防災担当大臣を訪ね、巨大地震が連動した場合の被害想定を早い時期に作成し、広域的な救援活動の計画をまとめることや、避難場所を確保するために高い場所にある道路や線路を活用することなどを提言しましたhttp://www3.nhk.or.jp/news/html/20110616/t10013577181000.html

Img_9696  そもそも単一震源での地震はマグニチュード8.4以上のものは起きないという壺井論文は過去にあったのですが、単一点ではなく震源が面で発生する、という事例は20世紀にも観測事例があるようでして、日本でも今回の東北地方太平洋沖地震が震源が極めて広く、エネルギーもマグニチュード9.0という巨大地震となったわけです。

Img_3400  東海地震は1970年代の大規模地震対策特別措置法により警戒が行われているのですが、これは海溝型地震であるのに対して一部の震源が地上にある事、そして1943年の昭和東南海地震において静岡県内では前兆現象が観測されたことから、この予知が可能ではないか、と考えられたのがその背景にあるとのこと。

Img_0187  他方で過去の東海地震は当時に東南海地震を伴う、正確には一つの地震であったのだけれども、昭和東南海地震、日本の戦闘機産業に痛撃を与えた地震ですがこのように日本に置いて地震研究が本格化した以降に生じた、百数十年に一回という地震ですが、これが分けて発生した、連動までの間隔が長かったという背景も含めありましたから、東海地震と東南海地震と南海地震が別の地震名称になった模様。

Img_4453  今回、東北地方太平洋地震の発生により、連動した地震というメカニズムが見えてきた訳でして、連動地震という名前で本来の名称に戻った、というわけでしょうか。ともあれ、その地震は太平洋ベルトという東京と大阪を結ぶ産業中枢で交通中枢を直撃するということになる、非常に寒気がするはなし。

Img_0328  東海道新幹線はその直撃を受けますし、東海地震では静岡市と浜松市に相模原市、東南海地震は名古屋市、南海地震は大阪市と神戸市という政令指定都市だけでこれだけの都市を直撃し、津波被害を考慮に入れれば東京や横浜はもちろん、本州太平洋沿岸に四国や紀伊半島が脅威に曝されるというかたち。

Img_0778  東日本大震災の災害派遣が続いているさなかであるのだから、少々気が早すぎる事は理解できるのですが、兎に角予想できる被害は想定外の地震が発生するという事そのものが今回の地震で判明したのですから、その想定外が太平洋ベルトを襲う前に想定、というものを想定外に合致させなければならないでしょう。

Img_41_51  自衛隊は最後の頼り、という言葉があるのですけれども太平洋面の東海道は、中央道とは高山部を経て孤立していますので高速道路や鉄道網が麻痺すれば孤立する危険性がある地域があります。この点、海上からの機動や空中機動、それに不整地突破能力の高い車両を有する自衛隊は文字通り最初に頼らなければならなくなる訳です。

Img_3_632  さて、東日本大震災における消防緊急援助隊の任務が終了したと報じられていましたが、その派遣規模は28620名、消防吏員の規模に対して派遣できる規模は自衛隊の10万規模と比べれば限界があるのですし、そもそも東京消防庁の人員18000名、非常勤の消防団員26000名、人数的には海上自衛隊の総人員に匹敵する規模の組織でも後方支援車両である自活車両は二つの消防署に数台があるだけ、自活能力に限界があります。

Img_4002  また警察も規模としては自衛隊に匹敵する規模があるのですけれども、治安維持と防犯に重点を置いた組織ですので、自衛隊の災害派遣のように大多数を派遣することはそもそも想定していない任務を負っている訳です。この点から、やはり復旧までは自衛隊に頼るほかないのが実情。

Img_02_90  そこで、冒頭に記した通り、例えば自衛隊をどの程度の規模集中させる必要があるのか。東日本大震災を念頭に、果たして充分な規模の派遣を行うのであればどれだけの自衛隊員が必要だったのかを踏まえ、連動地震までに例えば陸上自衛官を冷戦時代の18万規模まで戻す必要はないのか、という検討は必要でしょう。

Img_898_8_2  それだけではなく、どの程度の短期間で人員を集中させるのか。太平洋ベルトは中央道や日本海と高山部を経て孤立していますので、展開には艦船や航空機が必要となります。この場合、途絶した道路に依拠せず展開するには、どの程度の空中機動能力と海上輸送能力が必要か、という論点は師団編成や旅団の在り方、輸送艦部隊や護衛艦隊の編成にも踏みこんで、防衛と災害派遣を両立する編成と装備定数を考えねばなりません。

Img_8875  また、通信インフラの途絶により必要な救助を何処にどの程度展開させるのか、孤立地域の情報を如何に迅速に得て、必要な最大限の地域に最低限必要な物資を広範に展開させるという必要性がありますので、情報優位、無人偵察機や偵察機の幅広い導入と運用に必要な法整備が必要です。

Img_0191  加えて、情報優位とともに情報伝送の装備、リアルタイムで複数の大きな情報を全ての派遣部隊指揮官と中央が共有できるような体系が必要となるでしょう。C4Iとして整備してきた分野と技術を、大災害に際して即応して機能させ運用するだけの能力が必要になるのです。

Img_0671  また、空輸能力も、今回の東日本大震災では道路が不通となり地震発生後一週間は空輸以外全く物資が届かなかった地域があり、三週間程度は殆ど物資が届かなかった地域があります。道路網が復旧するまでの期間に、太平洋ベルトがこうした状況に陥った場合で必要な空輸能力はどの程度か、その分析が必要となります。

Img_8109  そうした上で、浜松基地、静浜基地、静岡空港への空輸によりこれらを支える場合にはどれだけの輸送機が必要になるのか、名古屋と大阪は被害を受けますからそれ以外の地域より民間の貨物機も含め輸送し支える為には自衛隊としてどの程度の能力が求められるのか、算出しなければならないわけです。

Img_9609  この能力は、防衛出動の場合には例えば第一空挺団の主力空挺大隊、もしくは中央即応連隊の装甲車部隊を一度に空輸できる程度の能力が上記検討の末で結果的に付与されれば、それだけで大きな抑止力にもなる訳ですので、矛盾にはならない事になるのですね。

Img_3977  もちろん自衛隊によってのみしか達成できない防衛任務に比べ、防災は自衛隊以外の官庁や自治体、住民との連携が可能。だから自衛隊だけが矢面に立つのではなく、国が一丸となって取り組む必要があるのですが、自衛隊でなければできない分野には自衛隊の能力を強化することで対応しなければ他に方法が無いという事。

Img_00531  防衛計画の大綱は改訂されたばかりなのですが、この大綱はわが国を護る上で必要な防衛力を整備するための指針です。まあ、自衛隊への予算を節約するための方便として勘違いされている政治家の方や財務省の方が居るようではあるのですが、本来は計画の大綱、長期計画なのです。

Img_0188  その計画の大綱が想定される脅威、大綱を画定した時点では想定外であった脅威が生じているのですから、その想定外を想定した規模へ改訂する、という事はこれは喫緊の課題以外何物でもない訳ですね。東日本大震災災害派遣がひと段落したのちに、戦訓を踏まえて画定しなければなりませんが、多くを救うにはどうするべきか、考えなければならないでしょう。

Img_0629  連動地震。東北地方太平洋沖地震により震源が点ではなく面で発生するということがわが国においても確認されました。問い海地震、東南海地震、南海地震、一つでも大規模災害となるのですが、この連動地震、実際に発生した際に想定外、という言葉は許されない事は、確かでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (2)
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