■九州での自衛隊統合演習
九州での自衛隊統合演習は過去最大の規模として報道されていますが、その根拠に北海道からの部隊参加が挙げられています。
第七師団は既に鉄道輸送により装甲車10両を展開、続いて現在大分に向けて戦車4両、装甲戦闘車10両を中心に支援車両を含め60両が洋上を移動中です。実質、一個装甲普通科中隊を中心とした中隊戦闘団というべき編成での派遣で、これまでの北海道への増援という体制から北海道からの増援という新しい時代に入ったのだな、という印象ですね。
特に九州には74式戦車は配備されていても90しい洗車の配備はなく、最新鋭の10式戦車が充当されるまでの数年間、まあ予算不足で10式が揃わず74式戦車が延命措置を受けて維持という可能性もあるのですが、それまでの期間は第二世代戦車で対応しなければならない状況も想定されます。そして、九州にも本州にも第一線部隊に装甲戦闘車を装備する普通科部隊はありません。
こういう意味では、装甲化されており、戦車もついているのですから一個普通科中隊規模の部隊を展開、という点には意味があるのですけれども、しかし、これは冷戦末期に戦車北転事業として、北海道の防衛強化に充てるために本州と九州のすべての戦車部隊から戦車中隊一個を抽出して展開させたものの、肝心の九州に脅威が迫ったころには抽出された戦車部隊は全て防衛計画の大綱改訂により削減対象となって返せなくなった現実の追認という印象もあります。
そして何よりも、機甲師団が維持されている背景には戦車は集中運用されてこその打撃力を発揮できる、という視点があるのですから、戦車を中心とした機甲師団から、しかも普通科部隊を小出しに抽出する、ということはちょっと理解できません。島嶼部防衛に戦車の重要性は非常に説得力があるのですが、そこになにも機甲師団から戦車を小出しにせずとも、と考えるわけです。
それならば、第七師団は最後の戦略予備として維持して、むしろ旭川の第二師団、戦車連隊一個と普通科連隊三個に特科連隊を持つ編成で機械化師団と通称される部隊ですが、ここに、それこそ装甲戦闘車を増強して集中配備することと合わせ、中隊規模での運用に対応するような改編を行う。もしくは、より小回りの利きそうな帯広の第五旅団や真駒内の第十一旅団にそういった改編を行ってはどうかな、とも考えます。
中隊規模での分散運用、というと非常に簡単にも見えることですが、まず、各種装備は増強に派遣されるのならば部隊とのデータリンク能力を均一化させねばなりませんし、離島など分散運用が求められ師団主力の支援を受けられない状況においては既存の装備では中隊規模での運用に大型化過ぎる対空レーダ装置や対砲レーダ装置、通信大隊の支援をかなりの面で衛星通信に頼らなければならないものもあるわけで、北部方面隊に戦車の余裕があるからと言って、この種の分散運用に対応する装備の増強無くして実施は、あまりに安易、と言えるやもしれません。
そういう意味では、国土面積に比較した場合、限られた少数の部隊からなる防衛力により、もっとも困難な島嶼部防衛を行うには、相応の部隊改編、というものも必要になるのではないか、それが今回の機動を見ての感想です。もっとも、今回は単なる始まりの試金石であって、数年内に輸送能力を大幅増強して一個戦車連隊戦闘団の同時輸送を実施する構想はあるのかもしれませんが。
一方、戦車や機械化部隊の銃装備に関しては演習環境により部隊練度が左右されることが多きですので、北海道偏重という意味は現時点で理解できなくもないのですが、九州への展開により本州では重すぎて運用できない、という部分が解消されるならば、特に民間フェリーの輸送能力も大きくなるのですし、本土部隊の重装備化と演習の北海道、それだけで不十分ならば豪州を含めた海外などでの演習、という方向に切り替えて、全般的な近代化を行う方向で政治は考えてはどうか、とも。防衛省の一存ではできないものですが政治決定とすれば財務省を統制できます。
通信や誘導弾、レーダ装置の面では陸上自衛隊の装備水準はかなり高い位置にあります。通信帯域の問題や演習環境はありますがね。無人機も航空法に悩まされながら大車輪で装備化に向かっています。すると、装甲戦闘車の圧倒的数量不足と戦車の近代化を一挙に推し進めることで対応できる抑止力の幅は大きく広がるのでは、とも。
装甲戦闘車について、89式は生産狩猟ですから例えばウラン装甲戦闘車やCV-90装甲戦闘車のような、運用国へエンジンや火力などの適合を重視している車両を数百両単位で取得してしまう、とかも選択肢にあるのでは、ということ。そうして、せめて各普通科連隊の第五中隊に配備するか、西部方面隊に直轄装甲輸送隊を配置してしまえば、こうした北部方面隊からの小出しではなく、北部方面隊は戦略予備に集中し、機動打撃力の集中運用は可能になるでしょう。鞘腫運用基本への装備改編か、装甲戦闘車の増強、双方ともどちらを選んでも両方選んでも多くの予算を必要としますが、しかし、それだけこの国土の防衛は難しいものであり、そうであっても政治はこれを維持する義務はあります。
北大路機関:はるな
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