◆災害派遣にはヘリコプター・輸送艦・輸送機の不足
政府地震本部が三陸沖から房総沖にかけての何れかの地域においてマグニチュード9規模の地震が再度発生する可能性を今後30年以内に30%とした予測を発表しました。M9の再来、予測した以上は相応の対策が必要となります。
M9級地震「30年以内に30%」 三陸から房総沖:三陸沖から房総沖にかけての地震の想定・・・ 東日本大震災を受けて、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は24日、三陸沖から房総沖で起きる恐れがある地震の発生確率を見直した結果を公表した。将来起きる地震の予測として初めてマグニチュード(M)9を想定。三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りで、今後30年以内にM9クラスの地震が30%の確率で起きると予測した。
地震本部は、東日本大震災の発生を想定できなかったことから、将来起きる地震の規模や発生確率の評価手法、発表の方法について見直しを進めている。 見直しでは、東日本大震災を起こした部分の多くはエネルギーを解放したとして、三陸沖から茨城県沖までが連動するような今回と同タイプの地震の再来は、30年以内の発生確率を0%とした。しかし、今回の震源域外の三陸沖北部や、震源域の中心から外れた福島県沖以南では、エネルギーをすべて解放したか不明として、予測し直した。http://www.asahi.com/science/update/1124/TKY201111240561.html
予測は科学的に行われたものではあり、この情報を握りつぶすか、M9再来を念頭に防災対策を根本から再編するのか、ということは文字通り政治決断というものに懸かっています。ただ、客観的事実として、菅直人前首相が首相在任中に静岡県の浜岡原発を首相の公式声明という圧力を用いて停止させた際の発言、東海地震がひっ迫している、という内容があたかも一両日中に東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震と同程度の地震が発生すると解釈され、世界に与えた影響を忘れてはなりません。
東日本大震災の要員となった東北地方太平洋沖地震は政府の予測では三十年以内の発生確率が一割未満でしたので、三十年以内に三割という予測は無視できるものではありません。こうした提言が出されている以上、再度のM9の襲来を想定した震災対策を根本から行う、という必要性は高いと考えられるのですが、その上では、もちろんM9クラスの地震が発生し、東北北部や北関東の何れかの沖合に震源地を持ち、今回に匹敵する津波が発生し、しかし、人的経済的損害を絶無とできるような防災減災基盤を構築できるのならば、それに越したことはないのですが、世界最大の防波堤をも乗り越えた津波と同程度の想定を前提とした防波堤、太平洋側全域に渡り構築することは事実上不可能です。おそらく東日本大震災災害派遣に匹敵する自衛隊の災害派遣が必要となるでしょう。
首都直下型地震を想定し、自衛隊は想定として最大五万人の災害派遣を考慮し、部隊配置と転回訓練、運用計画と後方支援基盤構築を進めてきました。同時に五万人の災害派遣は東日本大震災以前においては空前の動員計画と考えられていたのですけれども、東日本大震災発生により政府は想定の倍にあたる十万人の災害派遣を要請するに至っています。人員展開や輸送、後方支援基盤などについては当然限界を超え、これを原因としたとしかいえない殉職者も出しています。今後のM9再来を念頭に置けば、再度のこの規模の派遣命令が出るという前提に立たなくてはならない、そう考えます。
十万人規模の災害派遣を想定した体制。もちろん、現在の自衛官定数をそれこそ五割十割と抜本的に強化した場合は別なのでしょうが、現状の規模の範囲内を大きく超えない範疇で行う、という前提に立てば選択肢は限られてきます。こうしたなか、陸上自衛隊はヘリコプターによる空中機動能力とこれを支える後方支援基盤、海上自衛隊は輸送艦とこれに搭載される両用舟艇、航空自衛隊については更に遠隔地からの人員物資機材を輸送する輸送能力が根本的に改善されなければ、対応は難しいこととなるのではないでしょうか。
現実問題として、戦車や火砲については戦車駆逐車両や火砲能力の近代化、護衛艦についても一割二割程度の増強、戦闘機定数は質的能力の維持が出来ればこれまで想定していなかった方面からの防空が可能となる水準の確立と予備部隊の強化により現在の防衛計画の大綱が明示した範囲内を、そこまで大きく超えずとも対処できる部分はあるのかもしれません。しかし、ヘリコプター、輸送艦、輸送機についてはかなり思い切った増強を行わなければ対応はできないのではないかと考えるのです。
例えば、東日本大震災の当日において海上自衛隊の輸送艦にあって、地方隊配備の小型艦艇を除けば、二隻が定期整備、一隻が海外訓練に展開中で即応艦が皆無という状態にあり、定期整備の早期終了と海外訓練参加の即時中止を以て対処していました。しかし、輸送能力は極めて逼迫し、北海道からの災害派遣部隊は米海軍が佐世保に前方展開させている揚陸艦の支援を受けて派遣されたほどです。輸送能力の高さで注目されている民間フェリーも港湾施設が津波で全滅している状況では打つ手がなく、輸送艦の重要性が再認識された事案でした。
輸送機についても、C-1輸送機が不足し、飛行開発実験団が試験用に運用している機体までを輸送用に投入する必要があったのが東日本大震災です。どの程度必要なのか、ですが、陸上自衛隊のヘリコプターに関しては、方面航空隊が定数をかなり下回る充足率しか維持できていない状況があり、多用途ヘリコプターで方面航空隊所要が五個方面隊で100機、師団旅団飛行隊所要は当初四機程度が見積もられていたとのことですので60機、空中機動重視の旅団や中央即応集団所要で定数は20機程度でしょうか、更に観測ヘリコプターも180機程度が90年代には維持されていましたが、現状では下回っている状況です。
まずこの数量の充足は前提としても、観測ヘリコプターに或る程度の輸送能力を盛り込んだ機体を選定し、多用途ヘリコプターについては島嶼部防衛での運用需要もありますので最大限、特に防衛大綱改定により冷戦後削減された戦車700、特科火砲600と同数とまでは行かずとも、師団飛行隊には10機程度の多用途ヘリコプターが、方面航空隊にも30機程度の多用途ヘリコプターがあっていいのではないでしょうか。また輸送ヘリコプターについても中央即応集団以外には一部方面航空隊と空中機動重視の旅団にしか配備されていませんが、方面航空隊への配備をもう少し進めてもいいのではないでしょうか。
そして首都防衛にあたる第一師団か南西諸島を睨む南九州第八師団のどちらかを、1981年に第七師団を機甲師団へ改編したように空中機動師団への改編を考えてもいいかもしれません。むろん、第七師団が第一戦車団戦車抽出で機甲師団化したようなスクラップアンドビルドではなく増勢で対応しなくてはなりませんし、飛行連隊を創設しても普通科との直協をどう考えるのか、米陸軍第101師団のような空中機動師団を自前で編成できるのかは疑問が残るのですが、どの程度行える科の模索は行われて然るべきでしょう。
輸送艦についても、東日本大震災において指揮官として任務に当たり退官された方が前述の事情から即応艦を維持するために最低限四隻体制が必要、と世界の艦船別冊誌上で記されていましたが、今後の国際協力任務を考えれば八隻程度は必要であり、掃海母艦、航空練習艦所要として更に三隻程度転用可能な艦を建造する必要があるでしょう。輸送機についても、C-2輸送機が実用化されれば一機当たりの輸送能力は大きく向上しますが、航空隊定数を現状の15機から定数20機に増勢し、可能ならばもう一個航空隊程度増強という案があっていいでしょう。十万人動員は、M9再来を考えれば再度行われると考えるべき命題で、上記提案を実現するには財政支出が必須で、これは政治の責任でもあるのですが、政府が政府機関からの科学的予測としてM9級地震の再来可能性が、相応に高いという提言を受けた以上、政治としての責任を果たさなければなりません。
北大路機関:はるな
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