◆基幹部隊”師団2012編成”の画定と開示が必要
備忘録的な放言の一つとして、いや、この北大路機関の大半はこれに当たるのですが、論議の叩き台として一つ。
最初に、事業評価開示により火力戦闘車に関する新しい概要が出されました。FH-70の後継ということで相応の装備を期待したのですが、現時点では取得性を重視したようです、何よりも数を揃えなければならないという配慮でしょうか、それとも変化があるのでしょうか。さて、防衛予算概算要求が提示されるたびに、これでは師団の近代化がままならない、とか除籍数が配備数を凌駕しているので定数割れが進む、という話を掲載しているのですが、そもそも必要な定数というものはどれだけなのか、これをはっきり明示する事が重要である、と考えます。この点について踏み込んでみましょう。
防衛大綱の別表には、戦車定数、特科火砲定数が明示され、加えて基盤的防衛力を構成する平時地域に配備する部隊として8個師団6個旅団、動的防衛力にあたる機動運用部隊として一個戦車師団と中央即応集団、という明示があります。防衛白書には、師団はいくつかの普通科連隊と戦車大隊に特科連隊などなどを基幹として編制、とありますので、単純計算で戦車定数は戦車師団所要を差し引いた上で、8個戦車大隊所要と旅団戦車部隊所要が必要になる、と記されているのです。
しかし、普通科連隊は師団普通科連隊で必要数は全て三単位編成の場合24個ですべて四単位編成では32個連隊あり、ここに旅団普通科連隊が二単位編成統一でも12個で最大の四単位編成では24個連隊がおかれるのですけれども、必要な装甲車の定数は何両か、必要な対戦車ミサイルの数はどれだけなのか、迫撃砲は全部でどのくらい必要か、ということがはっきりと示されていません。これら装備は、特に施設大隊についても、戦闘工兵としてどう運用するのかの編成や定数は明示されなければ、充足率という事業評価も難しくなります。
一応、師団旅団の編成、という公開されない資料は部内向けに作成されているのですけれども、こういうの神保町で売るなよ、と思いつつも、しかし実態を見てみますと概略の編成はともかくとして、普通科連隊の装甲化度合はもちろん、特科連隊における特科大隊の隷下におかれた中隊数などはそれこそすべて異なった編成といっても過言ではなく、師団火力の均一化という状態からはかけ離れている、という実情があります。もしかしたらば、地形障害などを念頭に中隊数を調整しているのかもしれませんが、機動運用を考えれば均一化が必要です。
ここで一つ考えるのは、師団編成と旅団編成を均一化し、その具体的な編成と一個師団、一個旅団に装備される火力構成や車両体系などを防衛計画の大綱に明示してはどうでしょうか、そういう視点を立ててみました。例えば米陸軍などはフォース21編成というかたちで90年代末期に師団機械化体系を明示し、これをもとに師団が対応できる任務範囲と火力投射能力、概略での機動打撃による進出能力から、一個師団が戦闘に要する物量の具体数や機動に要する輸送需要等を明示しており、ストライカー旅団構想、FCS計画、GCV計画と開示を続けました。
師団2012。編成については、概略のみ少し示せば、戦車大隊は師団直轄、普通科連隊は第五中隊をFV中隊とし、四個中隊は軽装甲機動車と装甲車を運用、特科連隊は直援大隊を火力戦闘車とし全般支援にあたる第五大隊を自走榴弾砲化し戦車部隊との協同を重視、長射程化した多目的誘導弾による火力支援網の構築と、機動運用部隊直協防空能力整備、偵察隊へは威力偵察中隊と共に無人偵察機隊による情報優位獲得を企図、通信大隊の搬送能力強化と電子戦中隊の新設、複数小隊規模の空中機動能力付与、といったところでしょうか。
師団2012、具体的な火砲数は、防衛計画に基づき、どの程度の火力の投射能力が必要か、その必要数は画定されるべきです。装甲化の度合いについても必要とされる機動力を念頭に置くべきで、誘導弾による防空や火力投射能力も同様のことが当てはまります。その具体性とは、即ち全国配置の基盤的防衛力にあって、大規模着上陸事案に際し、6時間以内の即応部隊派遣、12時間以内の管区連隊派遣、24時間以内の拡大阻止体制の構築、続く速やかな機動打撃による撃退、一連の行動を行う上での能力を念頭にしめされるべきでしょう。
こうして、防衛計画の大綱に具体的な陸上自衛隊基幹部隊編成の在り方を示す”師団2012編成”というものを明示することが出来れば、陸上自衛隊全体で必要な戦車数、装甲戦闘車数、装甲車数、軽装甲車数、機動戦闘車数、迫撃砲数、自走榴弾砲数、火力戦闘車数、近接戦闘車数、多目的誘導弾数、施設装甲車両数、航空機数等が見えてくることになります。こうすることで、師団が必要に応じ他管区への機動運用を行う場合に必要な燃料規模や維持部品、後方支援部隊の必要能力が数値化するので、運用への計画立案が容易となります。
こうしたのちは、非常に明解で、防衛計画の大綱に示された部隊編成を実現するまでの具体的な期間について、例えば中期防衛力整備計画三期程度の15年を目安としたならば、必要数を年数で割った数量を毎年調達すれば近代化は可能となります。防衛計画の大綱は防衛省ではなく政治決定として公開される法的要素をもっていますので、財務省に対する必要予算要求は防衛省ではなく政府与党が主体となる構図になり、これまでよりはある程度予算の確保ができることでしょう。
装備品について、具体的な数量が明示されることとなれば、防衛産業としても突如として生産終了となる可能性が低減されますので、運用基盤を支える生産基盤の安定化に寄与します。この場合、旅団の位置づけはどうなるのか、師団に管区を任せ機動運用を念頭とした運用となるのか、旅団を師団に戻すのか、これは能力均一化には大きな課題となることは認識しています。いっそストライカー旅団に、と某外交研究所の主任さんから聞いたことがりますが、あの旅団はストライカー装甲車を300両以上必要とするので難しいところ、難しいところです。
旅団について、基盤的防衛力を担いつつ、必要に応じて管区師団を支援する機動運用部隊を増強する形、つまり現状では機動運用部隊は第七師団と中央即応集団ですが、脅威正面にある師団とその方面隊に対し他管区から優先的に展開する、いわば基盤的防衛力と動的防衛力の双方を兼ね備えた部隊、としてはストライカー旅団とまではいかずとも、装輪装甲車を大量配備する編成にも意味があるかもしれません。もっとも、機動運用部隊である第七師団は道南道央地区を、中央即応集団の第一空挺団も千葉県の基盤的防衛力なのですが。
方面隊直轄部隊はどうするのか、方面施設は補給線維持に活躍し方面後方支援部隊は増援部隊の後方支援を、そして方面高射特科部隊は全般防空をそれぞれ担うのですが、対戦車ヘリコプター隊を中心とした方面航空隊の打撃力は初動第一波を構成する部隊ですし、方面特科の地対艦ミサイル連隊や多連装ロケットシステムを運用する特科大隊は第一撃を担うもの。管区師団に臨時配備という形をとるのか、これも方面即応集団として統括運用し、独自の運用を行うのか、これも議論の余地はあります。
”師団2012編成”は仮、です。予防線を張ってみました。このように、放言として始まったいつも通りの記事ですから、細部を煮詰めてゆけば矛盾難点論点百出、突っ込み甲斐溢れた記事に仕上がっているのですけれども、少なくとも防衛計画の大綱に具体的な部隊編成を明示したうえで、更に具体的な必要装備数を明示することが、実のところ装備更新を支えることになるのではないでしょうか。現状の別表に或る戦車数や特科火砲数等は師団等の基幹部隊の編制を無視したものという印象がありますし、終わらない更新を前に毎年概算要求を前に嘆息するよりは、何か明示したほうが、とも思うわけです。無論、防衛計画の大綱を画定する当事者に、この能力と編成までを考える能力があるか、という問題にもなりますが、それならばさらに進んで大綱という概念や画定課程までも踏み込んだ議論が必要となるかもしれません。長くなり、収拾もつかなくなりましたが、この辺で区切りとしましょう。
北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)