北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える② 公海上における機雷敷設事案と浮流機雷対処

2014-06-04 23:21:15 | 国際・政治

◆周辺事態における浮流機雷の脅威

 先月末にシンガポールで開催されましたアジア安全保障会議において小野寺防衛大臣は日本が貢献できる分野について機雷対処を提示しました。

Img_8543m 機雷は海上に敷設し目標を待伏せる特性上、地味な印象がありますが敷設は比較的容易で、しかしながら陸上に敷設される地雷と異なり、大型船舶を一発で行動不能に陥れる能力を有し、費用対効果の面では海戦兵器において最も大きなものを有しているとさえ言われるものです。

Limg_3396 実際問題として例えば1991年の湾岸戦争では米海軍の強襲揚陸艦トリポリを始め、数隻の艦船がイラク軍が敷設した機雷により損害を被っています。重要海域に敷設されているだけで艦船の行動に大きな制約が加わり、掃海作業が行われるまで安全な航行は保証されません。

Miimg_5860 機雷は、例えばテロ手段として1986年に国籍不明船より国際海峡であるスエズ海峡に機雷が敷設された事案がありました。機雷被害の少し前にリビア船籍の自動車貨物船が乗降ハッチを展開しつつ低速航行していたため、機雷敷設に運用されたのでは、と疑いの目を向けられましたが、この際、日本を除く欧米各国と周辺国は掃海艇を派遣しています。

Kimg_9263  我が国への機雷の脅威はもちろん、国際海峡へのテロ手段としての敷設というものは考えられるのですが、それ以上に懸念するのは漁船偽装敷設艦による南西諸島方面への機雷敷設、そして台湾海峡有事の際に敷設した機雷が浮流機雷化し日本近海に流出するもので、これは海上保安庁の手には負えません。

Iimg_4323_1 浮流機雷の流出、グレーゾーン事態として考える場合には浮流機雷そのものを以て武力攻撃事態の宣言を行う事は出来ません。また、国際海峡や公海上における機雷の敷設事案についても、武力攻撃と考えられるかは難しく、これこそグレーゾーン事態の一例というべきではないでしょうか。

Img_1285 自衛隊法第84条の2第1項に機雷等の除去が明示され、“海上自衛隊は、防衛大臣の命を受け、海上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれらの処理を行うものとする”、との明示がありますので、例えば神戸港での毎年発見される大戦中の機雷除去のような行動は、現行法でも可能です。

Mimg_5991 しかし、例えば戦闘により生じる浮流機雷、浮流機雷は係留索が損傷し切断した機雷が浮上して流出するもので、故意に敷設することは国際法で禁じられていますが、こうした浮流機雷の発生は掃海を含む揚陸戦闘と表裏一体で生起しているものであるため、我が方が浮流機雷への掃海任務を行っている際に攻撃を受ける可能性は否定できません。

Ryimg_4815 周辺事態法では同様のことが想定されているべきなのですが、現在の周辺事態法では浮流機雷の発生とその掃海任務に対しての具体的な行動や、掃海部隊が攻撃を加えられることは、そもそもの前提が自衛隊の任務が非戦闘地域に限るとしているため、やはり想定外となっているのです。

Pimg_4075 この点、テロの手段として機雷が敷設される状況では、機雷除去を自衛権行使と見做すか否かにより、多国間における機雷除去の協力が集団的自衛権の行使に当たるのかという視点を解決すれば、大きな問題は生じず、テロ手段として実施された場合ならば継続的に脅威が同海域に存在するとは考えにくく、障壁は低いというべきでしょう。

Img_8769 半面、武力紛争に際しての浮流機雷の事案は違ってきます。まず、浮流機雷の処理海域をどの海域から行うかの線引きが必要となりますし、線引きの境界線がどの位置にあるかによって我が国への妨害行動の有無にも直結することは十分考えるべきです。

Mimg_92381 更に、掃海任務は航路の安全維持、という視点が我が国では協調され、特に海上自衛隊が創設以来時資してきた掃海任務は第二次世界大戦中の域機雷を処分市港湾や航路の安全性を確保するという任務に特化したものでした。しかしながら、機雷除去という行動が海洋法執行機関では無く海軍の主管とされている背景にはもう一つの要素があります。

Nimg_5429 それは、本来掃海任務が着状理うの実施直前に揚陸艦の着上陸への水路を啓開するという上陸への重要な過程という位置づけにある点で、例えば海上自衛隊が創設される以前の海上保安庁特設掃海隊による朝鮮戦争派遣は、そもそも機雷除去を沿岸部へ艦艇の接近を行うべく実施したもので、その接近とは揚陸を意味する部分がおおきものでしたから。

Img_2616 今回グレーゾーン事態としてこの想定を行ったのは、まさにこの点で、我が国としては掃海任務を海上交通路維持のための一分野として実施しているにもかかわらず、武力紛争当事者の視点としては一つに揚陸支援へ転用しうる障害除去の一端を担っている可能性を示し、もう一つは上陸を企図する側には海上自衛隊が行動することにより揚陸行動への洋上での妨害と見做される可能性、この二つが大きいこととなります。

Mimg_7364 加えて、洋上での我が掃海活動に対し一方の勢力が海上で妨害を実施した際、掃海艇との間での衝突事故や、最悪の場合妨害を行った第三国の艦艇が浮流機雷に触雷した際、我が国の攻撃ではなく浮流機雷により損傷した、という部分を明確にできなければ、これを口実として妨害行動が攻撃に展開する可能性もある訳です。

Simg_9300 周辺事態における浮流機雷の脅威は、こうしたグレーゾーン事態を同時に伴うものであり、この危機を回避できなければ我が国への武力攻撃事態への展開も十分想定されるものです。この場合の交戦規則や、危機回避への掃海海域の設定と護衛の在り方など、平時と有事に転換する危機を如何に回避するか、検討するべき点は多いと考えます。

北大路機関:はるな

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