北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える③ 邦人救出任務は一概に判断不能

2014-06-10 23:48:37 | 国際・政治

◆米軍艦船による邦人輸送のみが現行想定

 邦人救出、現在の集団的自衛権に関する論争において筆頭に挙げられているものです。

Img_8379 集団的自衛権論争と共にグレーゾーン事態の一例として提示されているのは邦人救出任務で、仮に紛争地帯からの邦人脱出に関し、邦人が米軍艦船により脱出する際、その米軍艦船が攻撃を受けた場合に自衛隊が米軍艦艇の防衛などを支援する行動が認められるか、という視点で論争が進められているのは御存じの通り。

Himg_5004 以前には洋上補給任務が挙げられ、海上自衛隊が国際平和維持活動や有志連合などの後方支援として補給艦を派遣する際、洋上補給を実施中に攻撃を受けた場合、これについて共同し対処することが集団的自衛権の行使に当たるのではないか、また非戦闘地域での戦闘に巻き込まれるのではないか、と議論になりましたもの。

Gimg_5125 新聞などの論説では米軍艦船に邦人が乗船し、その艦艇が攻撃されたとしても自衛隊の出番があるとは考えられない、という論調がありました。ま、連立与党を組む公明党は個別的自衛権行使により対応で気うものでは無いのか、という視点があります。この二つについて考えてゆきましょう。

Simg_2696 米軍艦船の支援ですが、そもそも過去にイランイラク戦争における邦人孤立の際に自衛隊の能力では対処できず国内民間航空は輸送を断り、結果善意でトルコ航空により救出されるという事例がありました。自衛隊は基本として外征を想定しない編成を採ってるため、輸送力は大きくはありません。有人際に邦人救出に輸送力が不足するということは当然想定されねばなりません。

Img_88_45 個別的自衛権で対応できないか、という指摘ですが、そもそも自衛権というものを集団的自衛権と個別的自衛権に区分したのは日本の政治上の必要性であり、国際法上は元々の自衛権と正当防衛と語彙は同じであり、集団的自衛権と個別的自衛権は区別されるものではなく、解釈次第ということが出来るでしょう。

Img_3424 他方、考えなければならないのは自衛隊艦艇が邦人救出任務を展開する際に、米軍艦艇の支援を受ける、という事の方が考えられるでしょう。輸送艦にしろヘリコプター搭載護衛艦にしろ、自衛用の火器は搭載しています、が、状況は状況によりますので十分とは言い切れません。

Limg_3658 そもそも、自衛隊の艦艇と米軍の艦艇はデータリンクで繋がっています、ネットワークで情報連携を展開するのですから、共同交戦能力を平時から運用しているわけで、それを情報の相互依存のみ戦闘に含めないという、現代戦闘における情報の需要性を政治的法的に無視した現状を放置し生じた事象ではあるのですが。

Nimg_1403 そこで、脱出する邦人を乗艦させた自衛艦が攻撃を受け、自衛艦が防御戦闘を展開しつつデータリンクを維持したまま自衛官の脱出を米軍が支援することは、問題領域としては邦人を載せた米軍艦艇を自衛官が掩護する、という構図とほぼ重なる事が理解できるでしょう。

Img_7523 正当防衛として不可分である集団的自衛権と個別的自衛権を政治的に区分した現状に鑑み、その線引きが無いにも拘らず政治的に宛も在るが如く行動した帰結としての、線引きの問題が顕在化している状況なのですから、個別的自衛権で対処できるという言い分はその解釈を変える事で対応できるとは言えます。

Iimg_0834 一方で、艦艇はデータリンクにより連接し共同交戦能力を有するのが現在の水上戦闘艦艇ですので、邦人救出を艦艇により行う以上、艦艇へ攻撃が行われるという想定を行う限りは、どうしても集団的自衛権の命題、自衛権を区分した時点で生じているのですが、直面してしまうわけです。

Himg_3701 政治的に線を引いた命題に起因するのであれば、逆にその定義を自由に変える事で如何とも対応は出来るのですが、これが民主国家として正しいのかという素朴な疑問が生じます。無論、不可分のものを二分化し、半世紀を経ているのですから再定義そのものが固着化しているというものがあるのですが。

Kimg_8093 しかし、同時に有事と平時を厳格に区別し有事を憲法の観点から自衛権の行使を含め非常に行使し辛い法体系を構築した帰結としての、実質的な有事に含まれる命題に際しての状況拡大阻止を目指す行動が採りにくくなるためのグレーゾーンという概念の必要性が生んだ結果ともいえます。

北大路機関:はるな

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