北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

神戸国家災害戦略防災基地の必要性【2】西太平洋最大の横浜-相模原-横田米軍巨大戦略備蓄

2019-03-05 20:02:38 | 防災・災害派遣
■第三次大戦阻止への備えに学ぶ
 南海トラフ巨大地震が最大規模で発生した場合、犠牲者数は東日本大震災の16倍、下手な大都市核攻撃よりも巨大な被害が生じる、規格外の脅威へは規格外の備えが必要だ。

 神戸国家災害戦略防災基地の必要性、と銘打った本特集、この種の施設が最も必要なのは首都直下型地震の脅威下にある首都圏ですが、東京には横田基地と相模原総合補給廠に横浜ノースドックという在日米軍の戦略備蓄施設があります。米軍基地があるから建てられないのではなく、政府間でこれを災害時に利用できる枠組を構築する方が先決でしょう。

 南海トラフ巨大地震を念頭に、巨大津波により港湾が破損したので建設業者に復旧の入札を図り募集、という手順よりも、出来れば24時間以内に津波で壊滅した港湾を使用再開できるよう要請する事は民間業者にはできません。ローテーションで待機させる事も難しい、だからこそ、国が実施するべき、その為の施設と備蓄を行おう、という事が今回の狙い。

 第17地域支援群、在日アメリカ陸軍の部隊ですが、国家災害戦略防災基地の運営はこの部隊の方式を参考とするのが理想でしょう、相模原総合補給廠や横浜ノースドックを管理する部隊です。興味深いのは相模原総合補給廠は弾薬庫というような戦闘に直結するものを備蓄している施設ではない点ですね。弾薬庫は広弾薬庫等他の地域へ分散されています。

 相模原総合補給廠に備蓄される移動式病院設備は、第三次大戦への備えといえる規模です。伊丹駐屯地に置かれている中部方面衛生隊の設備とは比較になりません、一式だけで外科手術施設だけで45室を備え1500名の入院を念頭とした巨大施設です。2000年頃に一度報道公開されていますが、何基備蓄されているかは不明です。衛生テントは陰圧式、自衛隊も対特殊武器衛生隊等へ配備している。

 野外手術システムが自衛隊へ配備されていますが、あくまで後方の病院施設へ搬送するまでの外科手術を行う事で延命させる器材といい、二次感染防止は最大限配慮しているものの、総合病院と全く同じ施設を有するものではない、これは野外手術システムの説明で強調されました。対して此処でいう後方の病院施設を目指すものが相模原総合補給廠のもの。

 中部方面衛生隊よりはかなり大規模である、移動式病院、病院設置は病院法の制約があります、この為、厚労省から病院許可を受けた可搬式施設を平時から確保し、書類上は平時物資集積地を病院扱いとしつつ有事には本籍地のまま施設だけを移動する施策が理想でしょう。実現すれば現場でトリアージは不要、兎に角病院絵搬送する平時の手続きが可能に。

 横浜ノースドックは第17地域支援群隷下の第836輸送大隊が管理する陸軍施設です。みなとみらい地区等から見える米軍施設で、ラニーミード級汎用輸送艇等2000t級の揚陸艦のような艦艇と上陸用舟艇型の船舶が多数並ぶ様子がいつでも確認できます。第三次大戦への備え、というと若干語弊があるのでしょうか、朝鮮戦争規模の百万単位の部隊が激突する戦闘を想定している、とも。もともとは横浜港の一等地、尚、ここを戦後進駐軍が接収した事で横浜の戦後復興が大きく遅れました。

 神戸港のポートアイランド地区へ第836輸送大隊型の部隊を置き、巨大災害時に際しては内陸部の物資を海上から、逆に海上から物資を集積する基点とします。日本の官庁には荷役大量管理の現業を行う機関が自衛隊だけですが、災害時に統合任務部隊指揮下へ置くか、シービーズ海軍建設大隊型の部隊を新設するのであれば総務省管轄下でもかまいません。

 ラニーミード級汎用輸送艇、揚陸艦型の構造となっていますが、大量の船舶貨物が埠頭に接岸できない状態で、RORO船等を沖合に係留したまま海上で荷物を受け取る動力艀型の運用を行います。ラニーミード級汎用輸送艇そのものでなくとも、多少沖合、大阪湾から播磨灘まで航行できれば動力艀でも代替できますし、民間船を徴用する法整備でもよい。

 輸送艇一号型程の性能は不要です。横浜ノースドックを見ますと一番大きなバースで全長1350mの直線岸壁を有し、大型倉庫施設は5棟あります。この他に150m級バースが二つ、それぞれ15mの荷役幅を確保している。災害時に神戸港を接収する法整備だけでも対処出来そうに見えますが、施設が完全に機能している状態で即応体制を維持する事は難しい。

 横田基地の役割を期待するのは伊丹空港です。伊丹空港は自衛隊伊丹基地ではありませんが、自衛隊の輸送機は総数が限られており、特に国外からの緊急救援物資を自衛隊機だけで輸送できるほどの余裕はありません、したがってチャーター機等が主体となります。しかし、伊丹空港に近い伊丹駐屯地か川西駐屯地跡地に輸送調整部隊を置く必要はあります。

 伊丹空港は騒音問題から四発機乗り入れ規制が施行されていますが、C-2輸送機やボーイング777は降りられてもC-130輸送機やボーイング747運用不能は論外で、関西国際空港は津波の直撃を受け、神戸空港や八尾空港は滑走路長が足りません。小牧基地は内陸部ですが、200km以上離れており、災害時に限定して運用できる自治体との調整は必須でしょう。

 国家災害戦略防災基地の目的は国単位、地方空港や代替滑走路を国際空港並の発着に耐える基盤を構築する資材、港湾や空港を被災地に復旧ではなく迅速に造成する事、市町村単位や都道府県単位の備蓄ではなく、被災者千数百万が飢餓状態とならないよう給食支援基盤を、道路網や橋梁が完全に破損した地域へ構築する事、移動式総合病院施設の備蓄など。

 D-MAT緊急医療援助隊制度が東日本大震災を含め巨大災害では優れた医師や医療従事者により大きな成果を上げています。しかし、背嚢や医療鞄に収まる器材だけでは応急処置が限度、総合病院に伍する機能は発揮出来ません。また、緊急援助物資も空港や港湾が破損したままでは卸下出来ず、道路網が不通のままでは避難所へ運ぶこともままなりません。

 日本という国単位で、というものは、都道府県単位では持ち運びできる空港や港湾を用意する事が出来ない為です、そもそもその発想さえない。また病院法の関係上で被災地に病院を建築する事も出来ませんし、民間の建設業者にプレハブ構造であっても道路網が壊滅した地域へ十数時間で被災地へ達し、その後十数時間で着工しさらに十数時間で診療開始に至る能力を求める事はできない。

 相模原総合補給廠に在日米軍が極東地域での第三次大戦にさえつながりかねない大規模戦争に備え備蓄している機材が日本にそのまま準備されているならば、上掲の問題はかなりの部分で解消できます。移動式大規模病院施設と内陸燃料分配システムに架橋施設や重工兵器材、これら器材を被災地へ緊急展開させられる重要港湾や国際空港の両方に近い立地へ備蓄しておくことは意味がある。

 横浜ではなく神戸港を挙げたのは、南海トラフ巨大地震の想定被災地に近く、更に大阪湾が紀淡海峡という広い海峡を経て津波被害の直撃を受ける懸念に対し、神戸港は同じ大阪湾でも淡路島という地形から津波被害を若干避けられる可能性があります。更に空港施設は神戸空港が海上空港ですが、伊丹空港は内陸部、津波被害の完全な圏外に在る為です。

 津波災害を最大限考慮するならば、姫路港や高松港という津波が入りにくい播磨灘や瀬戸内海沿岸部が理想的ですが、物資は航空輸送を併用する為、やはり神戸港と伊丹空港の立地が必要です。特に伊丹空港は航空貨物取扱を行いますので、その関連施設がある。もう一つ伊丹空港並の施設を建設するよりは既設空港と神戸港を併用する事が理想的でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする