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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

神戸国家災害戦略防災基地の必要性【3】巨大航空基地と拠点港湾で荒野を拓く米軍戦略備蓄

2019-03-09 20:07:35 | 防災・災害派遣
■被災地救助拠点迅速構築
 大規模災害派遣と軍事行動、軍事行動には支援作戦という大規模災害による地域不安定化を回避する確たる区分があり、その準備は防災へ応用できます。

 神戸国家災害戦略防災基地、伊丹空港と神戸港という航空輸送と海上輸送の拠点に併せ、自治体規模の防災準備では対応できない高次元の災害対処、港湾や空港に総合病院を被災地へそのまま移動させる器材を集積しよう、というもの。特に空港そのものを持ち運びできるハーベストファルコンという設備は、注目すべきもの、災害以外に戦時にも重宝です。

 トリアージ、人命の取捨選択という究極の選択、これを強いられるのがふだん一年分の死傷者が数分で発生する大災害です、そして救命救急インフラ沿いの物が災害により機能不随となり、普段の百分の一の能力で百倍に事態へ対処を求められる事で飽和状態となり、取捨選択しなければ全員助からない故に助かる見込み順に、と追い込まれる構図ですね。

 救命救急の第一線や医療従事者の全員は、トリアージについて他に選択肢はない故に仕方なく追い込まれている構図、しかし、取捨選択、普段であれば行わず全員助けられる状況下なのに、という葛藤はあるようです。当事者にお話を伺うと、訓練でやっていても、実際にやらないように済むよう願いながらやる、必ずやらず済むならば絶対にやらない、と。

 空中展開による迅速な救命救急要員の現場進出、空中救急搬送と広域医療拠点、この二つが実現したならば、大災害においても、この問題はかなり解消されるのではないか、勿論限度はあるでしょうが、災害により最初に滑走路毎機能を喪失する空港、特に津波災害が重なれば沿岸部の空港が救助拠点ではなく救助を受ける側となってしまいます。ここで。

 ハーベストファルコン、これは米軍が空港が壊滅した地域へAEW-空軍航空遠征集団を派遣させるための器材です。在日米軍施設にはありませんが、在欧米軍や中東のオマーン国内ツムライト空軍基地に備蓄されています。非常に興味深い装備で、ここまで高度な機材が災害時に必要かは議論の余地があるかもしれませんが、被災沿岸部に展開できれば便利だ。

 AEW-空軍航空遠征集団用のハーベストファルコンは、可搬式航空機シェルターと1100名分コンテナ住宅に整備器材と支援車両群から構成されています。ツムライト空軍基地には数セットが備蓄され、オマーン国内のセーブ国際空港やマシラ島海軍施設にも分散配置、オマーン国内のハーベストファルコン事前備蓄だけで26000名規模の空軍部隊を収容する。

 ハーベストファルコンには滑走路用金属マットが含まれ、これは多孔構造鉄板で整地された平野部に一直線に2700mを敷設するだけで滑走路とする事が出来ます。当然移動強い管制施設も含めていますので、津波で壊滅した地域付近へ、海上輸送し揚陸するだけで、勿論余震と津波を警戒する必要はありますが、若干内陸部でも臨時空港を設置できましょう。

 東日本大震災では航空自衛隊の宮城県内における拠点となる松島基地、東北地方空の玄関口である仙台空港がともに津波被害を受けました。勿論、行方不明者捜索、空港や基地施設へ漂流した被災者が滑走路を覆う瓦礫下に居られる可能性を考えますと、安易に滑走路復旧、という選択肢は難しかったのでしょうが、ハーベストファルコンがあれば、どうか。

 松島基地は、幸い基地隊員は格納庫上等に避難し無事でした。写真は岩国ですが、日本には沿岸部の飛行場は多い。ハーベストファルコンのような資材を沿岸部の艀等揚陸点から搬送できれば、そのまま津波で使用不能となった滑走路に滑走路マットを敷設し、海水に沈んだ整備車輛はそのまま代替車両に、内陸燃料分配システムを用いれば航空燃料を迅速に基地へ送油し、基地機能を短時間で再開し得ました。

 F-2B戦闘機が松島基地にて津波被害を受けました。ただ、松島基地が教育訓練部隊である事を知らずに緊急発進による空中退避を行わなかった事を非難する、自衛隊を全く知らない方が居る事は知っています。教育訓練部隊が必要以上に頑強な施設と待機体制を執ったならば、自衛隊は事実上の戦闘機部隊を練習部隊と偽っているのではないかと誤解を招く。

 しかし、津波被害後に、内陸燃料分配システムやハーベストファルコンのような記事があれば、災害直後の救援受け入れ態勢は大きく変わったと考えます。例えば、全国から集められた防災ヘリコプターは松島基地と仙台空港が使えず、陸上自衛隊の霞目飛行場と山形さくらんぼ空港等に集められ、特に空港は整備員と器材不足と燃料不足が響いたともいう。

 可搬式基地施設というべきハーベストファルコンが自衛隊へ配備されていなかった事を責める事はお門違い、責任は有権者であり主権者の我々に在る、なぜならばハーベストファルコンのような可搬式基地施設はアメリカ軍が外征用に備蓄しているものだからです。外征する状況は憲法上不要でしたし、東日本大震災以前にはあれほどの災害は想定外でした。

 可搬式航空機シェルターと1100名分コンテナ住宅に整備器材と支援車両群、構成要素は上記の通り、日本国内でも同様の物は製造できます。積んでおきますとかなり場所を取りますが、RORO船に積載するならば、それ程大き過ぎるものでもない。しかし何故保有していないのか必要性が認識されていなかった。移動式空港との選択肢が無かったともいえる。

 可搬式航空機シェルターは風速35m/s、最大瞬間風速55m/s程度の悪天候でも航空機を防護できる折畳式の航空機用テントです。サイパン島やグアム島へ訓練展開する米軍機等が格納庫に入りきらない航空機を収容するものですね。災害時には、なにしろF-15でも収容できるものですので小さな公民館並、災害時には救助部隊収容や避難所へ転用できます。

 移動式空港施設といいますと、運んで組み立てるハーベストファルコンよりも、航行して整備までできる海軍の航空母艦を考える方も居るでしょう。しかし、世界最大のニミッツ級原子力空母であっても運用できるのは艦載機まで、全長は333mであり、2500m級滑走路を必要とするボーイング777のようなワイドボディ旅客機を着陸させる事は出来ません。

 メガフロート、金属製艀構造の海上滑走路、という選択肢もあり得るのかもしれません、実際、メガフロートは1997年に東京湾へ実験施設が建築されましたし、静岡県や三重県等で防災用に検討されました。ただ、救援物資を輸送する貨物輸送機、つまり旅客機と同型の機体を発着させ、荷役作業を行う、となりますと、かなり大がかりなものとなります。

 名護市辺野古沿岸部へ在日米軍普天間飛行場移設先を建設する際にもメガフロート構造は検討されました。ただ、あれは可搬式ではなく、更に会場には滑走路を建設するのみであり、管制施設や整備施設は陸上配置の構想、それでもミサイル攻撃や台風への脆弱性を指摘され、埋め立て構造を採用する事となりました。現在、大きな問題となっていますが。

 メガフロート、最低限神戸空港とまではいかずとも長崎空港規模のメガフロートを、曳船で被災地へ地震発災から、津波被害や地震被害を受けた空港が復旧するよりも早い短時間の展開が可能となれば、空港施設代替の選択肢に含め得るのですが、残念ながらメガフロートを長大な滑走路規模の大きさで数ノットの曳航が可能な技術はまだ完成していません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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